加護野忠男神戸大学教授(経営学)による「株式持ち合い」擁護論。
その主張の当否はともかく、時価会計についてふれている箇所は相当ずれているという印象を受けました。
「持ち合いには欠点もある。お互いが株を持つことによって、経営者の間の相互依存関係が生じ、緊張感が緩んでしまうという弊害である。・・・
もう一つは持ち合いの経済的なリスクである。時価主義会計のもとでは、株価が低下したときに、持ち株の時価低下に伴う損失が発生する。この弊害を出にくくするには、持ち合い株に関しては、時価評価を適用しないという制度的な工夫が必要である。・・・」
この理屈だと、時価評価という会計処理をとらなければ、経済的なリスクを負わないということになってしまいます。しかし、会計の考え方からすると、企業の実態をより適正に表示するためには時価評価か原価評価かという議論はあっても、特定の会計処理をしたからといって企業の実態が変わる(例えば、株価値下がりのリスクを負わなくなる)ことはありえません。
また、細かいことをいえば、いわゆる時価会計導入以前であっても、投資有価証券の強制評価減の処理は存在していたので、持ち合い株の株価が大きく下がれば、損益計算書で損失処理しなければならないという点は、変わりません。
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