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金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第1回) 議事録(金融庁)

金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第1回) 議事録

9月2日に開催された金融庁・金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」第1回の議事録が公開されました。

サステナビリティに関する開示などを議論する予定のWGです。

この回は第1回ということで、事務局の説明ののち、各委員に好きなことを言わせているようです。

最後の方で、このワーキンググループで何を決めるのか、ソフトローなのかハードローなのかという、基本的な質疑があったようです。

「特に議論していくに当たって、実は昨年の11月、企業会計審議会総会、それから会計部会の合同部会で、サステナビリティ報告に関しまして、金融庁の対応の方針について質問したことがあります。その時点で古澤局長から、まずソフトローの世界で入れる、ハードローの世界については、まだ議論する機が熟していないのではないかという御発言がありました。その段階では、私もハードローの世界でサステナビリティ報告についての議論が始まるのは、早くて2022年ぐらいかなと思っておりました。しかし、実際今年6月の改訂コーポレートガバナンス・コードにより、一部サステナビリティ情報の開示が求められることになりました。また、今回のディスクロージャーワーキング・グループにおいて、ハードローの世界についての議論が始まるということで、非常に進展が早いと思っています。...

ハードローの世界においては、仮に国際的な基準を、我が国基準として受け入れていく場合に、どのようなプロセス、メカニズムで受け入れていくのかが問題になると思います。各国による独自の基準変更を許さないIFRSと違って、今回 IFRS財団が開発するサステナビリティ報告基準に関しましては、「ビルディングブロック・アプローチ」というものを指向しておりまして、各国が独自の基準を上乗せするということが容認されるという形の建て付けになっていると理解しております。...

仮に監査可能性等を考え、IFRS財団の基準を我が国として、受け入れていくとした場合に、そういう気候変動が第1号として出てくる。我が国としても気候変動リスクにプライオリティを置くのは間違いないが、その後もIFRS財団から気候変動以外のサステナビリティ基準が今後継続的に出てきた場合に、それを日本としてどうやって受け入れていくのかエンドースメントのメカニズムですとか、そういう事項を、当ディスクロージャーワーキング・グループでも検討していく必要があるんじゃないかなと思っています。
 
今回のディスクロージャーワーキング・グループでそこまで議論するのかどうかは分からないですが、今日はこの点につきまして、最初に金融庁としてのお考えをお聞かせいただけたらなというふうに思っております。」(熊谷委員)

これに対する金融庁の回答は...

「基準としてどう考えていくかという点でいきますと、まさに今スライドで示されているIFRS制度ということもありますが、やっぱり確かに国際会計基準があって、日本にも会計基準があってということで、物を考えるときに、1つの考え方として、会計基準のアナロジーで物を考えていくというのは、議論の出発点としてはあり得るかというふうに私自身は思います。
 
ただ、まさにそういったことも含めて幅広い御意見をいただくのがディスクロージャーワーキング・グループの場であるかと思いますので、今の段階で私のほうから、あらかじめの方向性を持ってこうですということを申し上げるというのは、私自身はちょっと控えたいと思います。 」(企業開示課長)

「このディスクロージャーワーキング・グループでも、前回、先ほど何人かの方から言及がありましたけど、財務情報と並んで非財務情報、記述情報ということを重要な情報として法定開示を求めるということで議論しましたが、今回、今、御指摘のありましたサステナビリティ、とりわけ気候変動のほうから基準という話が出てきて、間違いなく実現していくと思いますが、財務情報は伝統的に会計基準があって、それで企業の事業活動を数字にして、そして比較可能性、それから投資家への情報の質を高めるという観点から監査というものが行われるという、これが確立しているわけですね。
 
非財務のほうはそういうものはないので、どうやら今回、気候変動をはじめとして、サステナビリティについては、今後、基準ができていけば、今度は基準に従って情報開示がされることになりますので、そうすると監査みたいな話がまたあると。
 
その場合に、さらにサステナビリティ以外の非財務情報について、自由に書けばいいのかという話になりますので、これ、法定開示制度の一番の基本である有価証券報告書という制度の持つ意味にも関わってくる、大変重要な話を含んでいると思います。いずれにしましても、そういったことを含めて、今後、皆様方に御審議、御議論をいただければ大変ありがたいと思います。」(座長)

座長の回答を読むと、サステナビリティも当然法定開示だろうというように読めますが、企業開示課長の方は、まだ結論が出ていないというニュアンスです。

以下、そのほかの各委員の発言より。熊谷委員以外にも、法定開示にするかどうかにふれている人もいるようです。

「ガバナンス・コードで開示ということを定めていただきましたが、サステナビリティ事項は投資家の投資判断、あるいは議決権行使にとって重要ということですので、当然のことながら有報に開示されるべきというふうに考えております。また、開示の際には、グローバルの投資家も含めた利用者の利便性を考えまして、世界共通のフォーマットでありますTCFDとか、あるいは将来的には、IFRS財団が定めるサステナビリティ基準を活用すべきと考えております。」(井口委員)

「事務局から御説明がありました重要な契約も重要と考えておりまして、例えば政策保有株式の保有の説明のところで、契約があるといった記載があるにもかかわらず、重要な契約に記載がないとか、あるいは事務局の例にありましたような、企業間の提携だけではなくて、最近フランチャイズ契約というのもかなり出ておりますが、そういうことに関して契約内容を詳細に開示している企業とそうでない企業があったりなど、将来の企業価値、利用者の分析にとって重要である場合でも、開示が適切に行われていないケースがあると考えております。」(井口委員)

「個別課題として挙げられている中では、先ほど井口委員からもありましたけれども、重要な契約、これは優先順位が高いと思います。それは、例えばサステナビリティと関連していて、これから企業がいろいろなパートナーと組んでいくということが大いに考えられます。そのときにどのような重要な契約があるのか見えないというのは非常に問題になるということ。また、様々な変革が起きるわけですけれども、それに伴って、これまで保全してきた重要な契約があったにもかかわらず開示していなかったものへ影響が出てくるというようなことも起こり得ます。ですから重要な契約は、個別課題になっていますが、他の重要論点とも関連するので優先順位が高いというふうに思います。」(三瓶委員)

「留意点として私が考えておりますのは、当たり前のことなんですけれども、サステナビリティに関して、その課題というのは、企業にリスクや機会が生じるような課題に着目するシングルマテリアリティの考え方と、地球環境や社会に生じる影響を加味して考えるダブルマテリアリティの考え方がございますけれども、本ワーキング・グループでは、基本的には前者、すなわち企業にリスクや機会を生じさせる課題を主眼とするということを確認しておくべきだと考えております。特に最近、マルチステークホルダーの議論とか、欧州の動きなんかを踏まえると、ダブルマテリアリティ的に考える、こういった動きもある中で、本ワーキング・グループ、特に有価証券報告書を念頭に考えているワーキング・グループだと思いますので、そういう意味では、そういった動きとは多少性格が違って、シングルマテリアリティで考えるということになるんだと思っています。」(藤村委員)

「有価証券報告書が結果的には一番重要な情報ですが、例えば、今、藤村委員もおっしゃられましたが、有価証券報告書はそもそもファクトを開示するために出来上がっているものなので、ファクト以外のことを書くとなりますと、罰則規定等がある中で、なかなかどこまで書いたらいいのか分からないというような声もあるようです。その辺の課題を整理する必要があるのではないかと思います。」(小林委員)

「有価証券報告書の英語版を作るということですが、今ある有価証券報告書を単純に英訳しただけでは、恐らく海外の投資家には理解されないと思います。その観点から、英語版を作るときに何を変えるのか、どういうふうな視点で自由度を持たせるのかということについても検討する余地があるのではないかと思います。」(小林委員)

「人的資本の開示も非常に重要な事柄だと考えています。...
 
ただ、同開示に関連して、ここで1点強調しておきたいことがあります。以上の開示はたしかに重要なのですが、それ以前に、日本では、そもそも「人件費」について十分な開示が行われていない、という点を十分認識しておく必要があります。各企業において人件費がどの程度生じているのか、これが、有価証券報告書の第1【企業の概況】、5【従業員の状況】において、「提出会社」ないしは親会社の人件費しか開示されておらず、有価証券報告書において連結ベースの人件費の把握が難しい現状にあります。私は、各国の企業の付加価値および労働生産性等の分析に関する国際比較研究を拝見することがあるのですが、日本では、事実上、「人件費」が開示されていないために、国際比較研究において、日本企業が同比較・分析の対象に含まれていない、という状況によく遭遇します。
 
わが国のディスクロージャー制度は、国際的に見ても相対的に高いレベルにあると国内外において認識されていると思いますが、「人件費」が、事実上、非開示になっている点については国際水準に比べ劣っており、制度上、手当の必要があると強く考えています。」(中野委員)

(「個別」財務諸表が大切で、「連結」はおまけという時代が長かったためか、「個別」の情報はやたらと詳しいのに、「連結」はおおざっぱというルールになってしまっているようです。)

「確かにこれまでの金融商品取引法などの開示の考え方というのは、投資家のための開示ということですので、シングルマテリアリティの考え方というのがすごくしっくりくるというのは私もすごくよく分かりますが、じゃあ投資家の判断、企業価値に関わるものだけを開示すれば、それで本当に十分なのか。
 
もしかするとヨーロッパなんかは、さらにダブルマテリアリティの方向に舵を切っているようにも見えますし、仮に有価証券報告書では投資判断に必要な情報だけを開示させるとして、もしかするとソフトローの部分で、罰則がないとか強行規定ではないとか、そういった部分ではさらに、企業価値には直接関係ないのだけれども、気候変動に対して積極的に企業に行動していただくために、よりたくさんの開示を求めるということも、もしかすると考えられるのかもしれないですし、その辺り、今までのディスクロージャーの枠組みの考え方が、がらっと変わる可能性もあるような。理屈の上ではすごく難しいところだと思いますが、そこは必ずしもシングルマテリアリティでいくのだということで決め打ちはせずと言ったら変ですが、難しい議論ですので、委員の皆様方の意見を聞いて、広いというか、大きな理論的な問題も念頭に置きながら、開示の内容、具体的な内容というものを詰めていくべきなのではないかというふうに思っております。」(松元委員)

「まず気候変動対応に関する情報については、投資判断上も重要になってきていることは間違いがなく、少なくとも投資情報として重要な情報事項は、比較可能性を確保するために法定開示に載せるべきだと考えます。その際、最も参考になるのは、やはりTCFDの求めている開示基準ではないかと思いますし、その導入方法については今後議論すべきだと思いますが、EUや英国のやり方が参考になるように思います。」(黒沼委員)

重要な契約に関しては、何をもって重要とするかということが、恐らく十分クリアになっておらず、重要なものであっても、開示しなくていいのではないかとか、開示しないでおこうということを許容してしまうようなところが現実にはあるのではないかと懸念しています。そこで、重要性の考え方、特に重要な契約でなぜ開示が求められているかというところを少し整理おかないと、問題が残ったままになってしまうのではないかと考えます。そして、次に、事業にとって重要なものについては、事業にリスクになりうるものとか契約上の拘束であるとか、例えばファイナンシャルコベナンツみたいなものまで含めて考えたときに、重要な契約というのはかなり広くなってくるし、事業活動に関して重要な契約というのも現在よりも開示されるべきものの範囲は広くなってくることもあると思われます。
 
 また、重要な契約に入ってくる他のものとして、資本業務提携などが結ばれて、適時開示で開示されるものは多いですが、そこで挙がっているような開示項目ですら、有報にまだきちんと載ってきていない状況があるようです。資本業務提携契約などで取り決め、第三者割当をしたり、部分買い付けがされたりするとき、その契約では、有報提出会社と第三者割当を受ける会社との間での、発行される株に関する取決めや、役員選任などのガバナンスに関する取決めが実際になされている、契約ですので法的拘束があると思いますが、そういう取り決めがなされているにもかかわらず、それを有報で開示せずに済ませている、そういった状況に対して、スポットライトを当てて、開示が求められる重要な契約の重要性とはどういうものか、契約に関して開示すべき事項としてどのようなものがあるか等の考え方の整理や例示をして、開示すべき契約や開示事項がより具体的に明らかになることで、投資家の一番嫌がるサプライズ、そんなことは知らなかった、そんな重要なことを開示しないのはどうしてか、というような状況が防げるようになってくるのではないかと思います。」(清原委員)

「重要な契約に係る開示について、...特に支配権に関わる重要な契約というのは、これはむしろコーポレートガバナンスに関する開示の枠組みの中で考えていく必要があると思います。
 
大きく2つのタイプがあると思っております。1つは、議決権行使の拘束に関する契約であり、もう一つは、これも清原委員が御指摘された点かと思いますけれども、株式の譲渡とか移転に関す社員間の契約です。ただし、こういった社員間の契約というのは全て開示の対象になるというものでは恐らくなく、今申し上げた議決権行使に係る拘束契約や、株式の譲渡・移転等に関わる何らかの制限に係る約定というのは、会社が関与していると申しますか、会社に知れているような、そういったものについては開示を促進していくという方向で考えるべきであると考えます。もちろんそれ以外にも重要な契約というのはたくさんあると思いますけれども、まずは支配権に関わる重要な契約については、開示の充実を図っていく必要があると思います。」(神作委員)
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