金融庁は、有限責任監査法人トーマツ(旧法人名 監査法人トーマツ)とその業務執行社員として監査証明を行った公認会計士3名に対し、2015年6月30日付で懲戒処分を行いました。
トーマツは「戒告」、公認会計士3名は、1か月または3か月の業務停止という処分内容です。
トラステックスホールディングス株式会社の「平成17年3月期から平成18年3月期までの間における財務書類の監査において、・・・相当の注意を怠り、重大な虚偽のある財務書類を重大な虚偽のないものとして証明した」とされています。
「職業的専門家としての懐疑心を十分に保持することなく、自己の意見を形成するに足る合理的な基礎を得るために十分かつ適切な監査証拠を入手」しなかったと指摘されています。
会社の粉飾手口は・・・
「トラステックスは、運送事業を営む法人であるが、運送事業の委託先である個人事業主に対して、軽トラックの販売を行うとともに、当該個人事業主のオートローンを信販会社に対して履行保証していた。
しかし、運送事業が伸びず、次第にオートローンの返済に窮する個人事業主からの軽トラックの販売に係る契約の解約が増加した。このような状況において、トラステックス社長は、車両代金の分割払の合意書等の証憑の偽造や入金を偽装するなどにより、売上取消の回避、長期未収入金等の不正計上、貸倒引当金の計上回避を指示し、利益を水増しし、純資産額を過大計上していた。」
あるべきリスク評価は・・・
「トラステックスは、合意書偽造等による長期未収入金等の計上額が次第に膨らんだため、平成16年9月に長期未収入金等に架空計上されていた債権を含む、約11億円の債権を債権回収会社に譲渡し、平成17年3月期に約10億円の特別損失を計上している。このことから、遅くとも、これを契機に個人事業主に対する債権のリスクを認識すべきであり、平成17年3月期から平成18年3月期までの間における監査においては、長期未収入金等に係る債権の実在性に関し、慎重な手続をとる必要があったと考えられる。」
これに対して、監査手続や補助者の監督は・・・
「ア.業務執行社員は、個人事業主に対して残高確認ではなく、その代替手続きとして、合意書等の監査証拠及び入金の確認によって、債権の実在性の検証を特別損失計上後も継続していた。
イ.業務執行社員は、合意書等に関し必要な査閲や指導を行っていなかった。
ウ.合意書等には割印が無いコピーが多いなど、外観に偽造を強く疑わせるものであり、さらに、トラステックスによる不正計上で次第に長期未収入金等の件数、金額が膨らみ、債権の実在性の観点から合意書等が重要な監査証拠となっていたにもかかわらず、監査補助者が確認していた合意書等が原本でないことを把握していなかった。
本件では、上記のとおり、確認した合意書等はトラステックスから入手したコピーであり、証明力の弱いものであったにもかかわらず、より証明力の強い合意書等の原本を確認するなどの、十分かつ適切な監査証拠の入手手続を行わなかった。
また、本件では、業務執行社員が、監査手続の効率性、実施可能性等を考慮して、残高確認の代替手続として入金確認を行い、債権の実在性を確認したとしている。しかしながら、多額の特別損失の計上を契機に、代替手続を続けるのみではなく長期未収入金の実在性を検討する観点から残高確認をすべきであるところ、実施しなかった。」
粉飾を行った会社に対する処分は、2008年12月に行われています。監査人に対する処分がこれだけ遅れたのには、何か理由があるのでしょうか。(会計士協会の前会長がトーマツ出身なので先送りしていた?)
トラステックスホールディングス株式会社に係る有価証券報告書等の虚偽記載に対する課徴金納付命令の決定について(2008年12月)(金融庁)
金融庁による処分について(トーマツ)
「本事案に係る法人に対する処分に関しては、すでに品質管理体制の整備・運用の改善は終えており、今回の処分による当監査法人の品質管理体制への影響はありません。
当監査法人は、本件を真摯に受け止め、今後とも監査品質の向上に最善を尽くす所存です。」
もう関係ないよという感じのコメントです。
財務虚偽記載見逃し:会計士3人業務停止 監査法人は戒告(毎日)
「3人は大阪証券取引所2部に上場していた運送会社、トラステックスホールディングス(2011年に破産手続き開始決定)の05年3月期や06年3月期の監査を担当。同社は利益の水増しなどをしていたが気づかず、財務書類に重大な虚偽がないと証明していた。
3人は大阪市や神戸市の事務所で活動しているという。」
もうトーマツには在籍していないのでしょうか。
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