1月27日に開催された会計監査の在り方に関する懇談会(第3回)の議事要旨が金融庁のサイトに掲載されています。
会議資料によると、この回は、以下のテーマについて、ディスカッションしたようです。
○ 監査法人のマネジメントの強化
○ 企業不正を見抜く力の向上
○ 会計監査に関する情報の株主等への提供の充実
○ 「第三者の眼」による会計監査の品質のチェック
○ 高品質な会計監査を実施するための環境の整備
最初の「監査法人のマネジメントの強化」の関連と思われますが、監査法人のガバナンス・コードについて、かなり時間をさいて議論しているようです。
ガバナンス先進企業であった東芝が起こした事件がきっかけの議論なのに、ガバナンスで解決しようというのが、だいぶずれている感じはしますが、議論すること自体はよいことでしょう。ガバナンス強化のために、金融庁の元幹部が大手監査法人に天下りするというような話にならない限り、害はありません。(たぶん、監査法人に天下りたいというお役人はいないでしょう。)
「監査業務自体の品質を高めようとする品質管理の話と、監査法人を大きく企業体として捉えてガバナンスを確立する話とを区別して考えるということではないか」という意見に賛成です。
「会計監査に関する情報の株主等への提供の充実」との関連では、審査会の検査結果の開示や、監査報告書の長文化などが議論されています。
・「審査会の検査結果は、各監査法人が審査会の承認を得て、担当会社等に説明するために開示している。一方、米国公開会社会計監査委員会(以下「PCAOB」という)では、検査の結果について、内容を限定して公表しており、参考になるのではないか。」
・「PCAOBでは、個別の監査のレビューを実施した場合にはそのコメントを公表する一方、監査法人の品質管理に関するコメントは直ぐには公表せず、一定期間のうちに改善がなされなければ公表する方法を取っているものと理解している。そうしたやり方も参考にしつつ、日本においても検査結果の公表について検討していく必要があるのではないか。」
・「確かに審査会検査についての理解が企業に浸透しているとは言えず、モニタリングレポートの作成・公表といった工夫は必要ではないか。」
・「監査報告書の透明化について、現在の監査報告書には、財務諸表の適正性や監査の方法以上の情報が含まれていない。株主等が必要とする情報として、1つの例を挙げるとすれば、監査人として適正意見は出しているが、どこに重要なリスクがあり、それに対してどのように納得したかの情報ではないか。ただし、そういった情報を監査報告書に盛り込むことを制度化するには、更なる検討が必要。」
審査会の検査結果をその都度公表すれば、新日本の処分のときのように、前回検査結果がひどかったということが今になってわかる(そんなにひどかったのならなぜ改善するまで検査を連続してやらなかったのか)ということはなくなるでしょう。
監査報告書については、すでに国際監査基準で改正されているので、この懇談会の議論とは関係なく、日本の監査基準にも取り入れられることになると思います。
「企業不正を見抜く力の向上」では、不正対応に関する研修などについてふれています。
・「公認会計士資格取得のプロセスや内容を見ても、不正を見抜く、あるいは防止、抑止するというトレーニングや、不正に関する試験問題なども殆どない。不正事案がなくならない現状を踏まえると、不正を見抜く力をつけるためのトレーニングや知見が必要ではないか。
アメリカでは、相次ぐ不正を踏まえて1980年代に「不正な財務報告全米委員会」が設置され、不正を防止するための49項目の施策が講じられた。また、その翌年には民間の組織として公認不正検査士協会が設立された。公認不正検査士という資格は日本でも取得でき、公認会計士や内部監査人、弁護士が取得している例が結構あると聞いているが、ヒアリングの方法、質問の作り方、犯罪心理学など、興味深い内容が多い。そのような不正に対応する能力を向上させるプログラムを実務補習やその後のCPE研修で義務化するくらいの取組みが必要ではないか。その際、様々な技術革新が起きるので、5年や7年ごとなど、定期的な講習の受講を義務化するなどの施策も必要ではないか。
もう1つは感度を磨くということ。同じ現象を見ても、何も疑問を感じない人もいれば、疑念を抱いてもそれ以上深堀りしないという人も結構いる。このためには、監査人が不正や粉飾を見抜けなかった過去の事案を整理して、監査人全員が共有して失敗から学ぶ環境を整えるしかないのかなと思う。加えて、監査法人の中で、マネジメントの一環として、不正に対しては絶対容赦しないという強い意識を植えつけるということが重要ではないか。」
会計士協会会長の発言と思われますが、監査期間や監査報酬についての発言もあります。
・「日本の場合、決算短信を出す前に会社法の監査報告書が出ているケースが全体の4割もある。また、決算日から監査報告書提出日までの平均期間が、日本では42.5日であるのに対し、米国は57.8日となっている。監査報酬についても、協会の調査によれば、日本が平均6,100万円、米国は平均2億2,400万円となっている。こうしたところを是正していかなければ、会計士個人やチームの力量を公正に発揮させ、実効性ある監査を行うことは難しい。」
この意見に対して、さらなる議論がなされた形跡はありません。
前回までの議論と同様に、監査法人の数が多すぎるという話が出ています。
・「日本は監査法人の数が非常に多い。例えば、将来的に監査法人のローテーション等を検討する時期がきたときに、健全な競争関係の中でお互いに質を高めることができるような環境を整えるためには、ある程度の数の質の高い監査法人が揃っていなければならない。ただし、国際的に活動する公開会社の監査を行う場合、監査法人においても国際的な対応が可能でなければならず、国際的な監査事務所のネットワークと何らかのパイプが求められてくるであろうと考えると、そのような監査法人が20も30も存在するということはまずない。この意味で、中規模の監査法人の数が増えても意味はない。
このような、国際的に活動する公開会社の監査を行うような監査法人については、国際的に見て遜色のない規制を働かせることが必要ではないかと思う。他方、それ以外の監査法人については、アメリカでは米国公認会計士協会(AICPA)が品質管理を担っているように、協会の自主規制の中で大半を担うということはあるのかなと考えている。このような棲み分けについて、審査会と協会との役割分担の話とも絡めて考えていく必要があるのではないか。」
大手・準大手は、審査会が検査し、それ未満の規模の事務所は協会がみる(ひどい事務所は審査会もみる)という役割分担がよいのでは。
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その2(国際監査基準(監査報告書)の改正について)
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