東京電力が、2011年4~6月期連結決算で、福島第1原子力発電所事故の賠償費用や事故収束の工事費など合わせて5032億円の特別損失を計上し、最終赤字が5717億円となったという記事。
「賠償費用は3977億円を計上した。政府の原子力損害賠償紛争審査会の策定した中間指針に従い、各種統計などをもとに見積もった。内訳は、精神的損害に882億円▽就労損害に1413億円▽営業損害に1012億円▽出荷制限に668億円-となっている。
また、原発事故の処理費用として693億円、原発以外の震災対応で359億円の計約1053億円も特別損失として計上した。」
「賠償費用は「申請受け付けを始めてみないと総額は分からない」(西沢俊夫社長)うえ、原発事故の収束費用も計画中の工事は含まれていない。財務基盤がさらに悪化する可能性は高い。」
「西沢社長は、原子力損害賠償支援機構を通じた国の援助により「お金が(東電に)流れるようになれば債務超過にはならない」と強調。早期の機構設立と運用開始を求めた。」
東電の今後の決算に関しては以下のような点が注目されます。
・原発事故収束のための費用の合理的見積り
・賠償金の合理的見積り
・支援機構からの資金交付および東電が弁済する特別負担金の会計処理・開示
・ゴーイング・コンサーン
・これらを考慮したうえでの監査意見(四半期レビューの結論)
(このほか、福島第1の5、6号機や福島第2の廃炉費用なども重要かもしれません。)
機会があれば詳しく考えていきたいと思います。
東京電力四半期報告書(PDFファイル)
東京電力は本当に債務超過にならないのか(HCアセットマネジメント)
このコラムの意見の部分には賛成できないのですが、現状認識としては正しいと思われます。
「政府支援のもとで東京電力の賠償が完了した段階では、やはり、東京電力は、事実上の債務超過になっています。ただし、今は、潜在的な原子力損害賠償債務のゆえに事実上の債務超過であるのに対し、賠償完了後は、政府がもつ「特別負担金」の潜在的請求権ゆえに事実上の債務超過になるのです。
この「特別負担金」というのは、政府が支援した金額に対する東京電力からの弁済のことです。国会答弁のなかで、政府支援について、海江田大臣は、はっきりと、「東電にしっかりと返済をお願いするものであります」と明言しています。ただし、債務性を帯びるものとすると債務超過になりますので、「特別負担金」は、機構が、事業年度ごとに、東京電力の収支の状況に照らしつつ、それでも、「できるだけ高額の負担を求める」ものとして、金額を決めて請求するものです。
金額が決まって請求されれば、債務ですが、その債務は、東京電力が債務超過にならないように、機構が上手に決めて請求するものだから、当然のこととして、東京電力は債務超過にならない。この仕組みを前提にして、将来も東京電力が債務超過になることを想定していないと、海江田大臣は答弁しています。しかし、弁済すべき支援金額の残高は、必ず「特別負担金」として請求されるものだから、潜在債務ではある。ゆえに、事実上の債務超過にはなるのです。
問題は、「特別負担金」は、機構の判断で請求額を決められるものなので、東京電力を債務超過にするように金額を定めることもできる、ということです。この可能性自体は、政府も、明示的には否定していません。ただし、政府を拘束する条件がある。それが、電気の安定供給の確保なのですね。つまり、逆にいえば、東京電力を法的整理に移行させても電気の安定供給に支障がないような条件が整っていれば、おそらくは、政府主導による法的整理が行われる可能性が高いのだと思われます。」
「たとえば、賠償債務は、見積もりが困難なので、具体化したものだけを費用化し、債務化するしかないのでしょうが、政府支援が始まって、その支援残高が将来の「特別負担金」支払債務として確定してくれば、潜在債務残高の測定が合理的に可能になるのだから、それを債務認識しないでいいかどうかは、相当に議論があるでしょうね。
もしも、債務として認識すべきだ、ということになれば、会計的には、債務超過になる可能性が高いのだと思います。」
先日当サイトでもふれましたが、この「特別負担金」の会計処理や開示は今後の焦点になると思われます。監査法人の判断が注目されます。
東電の社長は、債務超過にはならないといっていますが、事故収束費用・賠償金の見積りや、この特別負担金の会計処理次第で、まったく結果が変わってきます(政府の方針などそれ以外の要因も当然ありますが)。
なお、特別負担金について、支援機構から請求されて確定した債務となるまで会計上認識しないというのは、間違った会計処理である、というのが当サイトの意見です。
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