「包括利益の表示に関する会計基準(案)」、
企業会計基準公開草案第36号(企業会計基準第22号の改正案)
「連結財務諸表に関する会計基準(案)」、
企業会計基準公開草案第37号(企業会計基準第12号の改正案)
「四半期財務諸表に関する会計基準(案)」、
企業会計基準公開草案第38号(企業会計基準第6号の改正案)
「株主資本等変動計算書に関する会計基準(案)」、
企業会計基準適用指針公開草案第33号(企業会計基準適用指針第14号の改正案)
「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針(案)」、
企業会計基準適用指針公開草案第34号(企業会計基準適用指針第9号の改正案)
「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針(案)」の公表
企業会計基準委員会は、「包括利益の表示に関する会計基準(案)」並びにこれに関連する企業会計基準及び企業会計基準適用指針の改正案を、2009年12月25日付で公表しました。
関連する会計基準・適用指針は具体的には以下のとおりです。
・「連結財務諸表に関する会計基準(案)」
・「四半期財務諸表に関する会計基準(案)」・同適用指針(案)
・「株主資本等変動計算書に関する会計基準(案)」・同適用指針(案)
公開草案の概要説明資料に包括利益の表示例が出ており、これをみればイメージがつかめます。
2 計算書方式と1計算書方式がありますが、2計算書方式(連結)の場合は以下のようになります(概要より)。(包括利益計算書が少数株主損益調整前当期純利益から始まっている点に注目)
<連結損益計算書>
売上高 10,000
-----------
税金等調整前当期純利益 2,200
法人税等 900
少数株主損益調整前当期純利益 1,300
少数株主利益 300
当期純利益 1,000
<連結包括利益計算書>
少数株主損益調整前当期純利益 1,300
その他の包括利益:
その他有価証券評価差額金 530
繰延ヘッジ損益 300
為替換算調整勘定 △180
持分法適用による持分相当額 50
その他の包括利益合計 700
包括利益 2,000
(内訳)
親会社株主に係る包括利益 1,600
少数株主に係る包括利益 400
その他の包括利益の内訳項目の表示方法について以下の規定があります。
・その他の包括利益の内訳項目は、原則として税効果を控除した後の金額で表示し、各内訳項目別の税効果の金額を注記
・組替調整額を、その他の包括利益の内訳項目ごとに注記(組替調整額とは、当期純利益の中の当期または過去の期間にその他の包括利益に含まれていた部分のことです。)
適用時期や経過措置(注記)については以下のとおりです。
「平成22 年4 月1 日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用する。ただし、当該事業年度の期首から適用することができる。また、平成22 年6 月30 日以後に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用することができる。
適用初年度においては、その直前の年度における包括利益及びその他の包括利益の内訳項目の金額を注記する。また、四半期財務諸表に最初に適用する年度においては、前年度の対応する四半期会計期間及び期首からの累計期間について、これらの金額を注記する。」
肝心の包括利益の定義は以下のようになっています。
「包括利益」とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいう。
当該企業の純資産に対する持分所有者には、当該企業の株主のほか当該企業の発行する新株予約権の所有者が含まれ、連結財務諸表においては、当該企業の子会社の少数株主も含まれる。
「その他の包括利益」とは、包括利益のうち当期純利益及び少数株主損益に含まれない部分をいう。
連結の純資産には少数株主持分が含まれるので、ASBJ案での包括利益には、少数株主持分の変動額も含まれることになります(基準案第5項では「連結財務諸表におけるその他の包括利益には、親会社株主に係る部分と少数株主に係る部分が含まれる。」と明確に述べている)。当期純利益は従来どおり少数株主利益を控除した親会社の持分で表示するわけですから、両者は整合しません。いずれ、IFRSとのコンバージェンスを目的とした連結基準の改正により、当期純利益も少数株主利益を含むものになるのだとは思いますが、現時点で包括利益だけこのようにする意味があるのでしょうか。(何か深い意図があるのかもしれませんが・・・。)
株主資本等変動計算書も少し変です。包括利益を導入する以上、包括利益と株主資本等変動計算書がつながるべきですが、株主資本等変動計算書の改正は評価・換算差額等をその他の包括利益累計額に項目名を変えただけで、従来どおり損益計算書のボトムラインである当期純利益が記載されます。
包括利益の定義上、
純資産の変動=包括利益+持分所有者との直接的な取引による変動(増資や配当など)
となるはずですから、これをすなおに純資産の各科目にばらして表示するだけだと思うのですが・・・。当期純利益も表示したければ、包括利益の内訳として表示すればよいのです。
(少数株主持分の扱いが不整合になっていることは、結論の背景を読んでも、論点に挙がっていないようです。結構重要な論点だと思うのですが、単なる表示の問題という扱いなのでしょう。)
IFRSの利益概念「包括利益」が先行して日本で導入へ
この記事では「包括利益とは当期純利益に「その他の包括利益」を加えた表示」であるといっていますが、ASBJ案では「少数株主損益調整前当期純利益に「その他の包括利益」を加えた表示」が包括利益です。
【マーケットウオッチ】国際基準は持ち合い株の売却圧力に
(補足-1月4日-)
注文をつけるばかりでは申し訳ないので、無駄とは思いつつ代案を考えてみました。
・包括利益の定義を、「ある企業の特定期間の財務諸表において認識された株主資本および評価・換算差額等の変動額のうち、当該企業の株主資本および評価・換算差額等の持分所有者との直接的な取引によらない部分をいう」とする。(少数株主持分と新株予約権の変動は包括利益に含めない。)
・これにより、連結でも「包括利益=当期純利益+その他の包括利益」となり、当期純利益と包括利益は親会社説で統一されます。
・純資産の部の表示や株主資本等変動計算書における「評価・換算差額等」という項目名は変えない。(公開草案では「その他の包括利益累計額」に変えることになっていますが、そもそも現行の「評価・換算差額等」は少数株主の持分を含まない金額ですから、公開草案における包括利益の定義(少数株主持分の変動を含む)と整合しなくなってしまいます。「株主資本」と「評価・換算差額等」(これも親会社の株主の持分です)を分ける現行の基準がいいとは思いませんが、ここで変える必要はないでしょう。)
・株主資本等変動計算書では、事業年度中の変動額の項目の「当期純利益」を「包括利益」に変える。(これにより包括利益の計算書と株主資本等変動計算書がうまくつながります。包括利益の内訳として当期純利益とその他包括利益を表示してもよい。)
この代案の欠点は、少数株主持分の変動の原因別内訳に関する情報が公開草案より乏しくなることですが、それは連結基準を根本的に見直す際に検討すればよいと思います。
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