前回お話した世界の民話の中から、おいらの好きなお話を原文を抜粋しつつ
御紹介しましょう。
世界の民話 -第五巻- 東欧2(ポーランド)より
”いかにしてスザンカは水の精の名付け親になったか”
物語りはオルサ川の近くではじまります…
オルサ川には水の精が昔から住んでいました。
水の精は ときどき、月の明るい晩に、草地の中まではい上がって、花から花へわたり歩いてにおいをかぎ、中をのぞいてくしゃみしたりするのですが。
姿はヒキガエルにそっくりで、頭と顔は小ざるに似ています
鼻はだんご鼻で、指と指のあいだに、あひるのような水かきがあり
着ているものは短い上衣 お腹が出っぱってる それが水の精です。
その川の近くに お百姓クルチェイカが住んでいました。
お百姓はとても金持ちでしたが、同時にまたとても欲ばりでした
お百姓には心がありませんでした 彼の胸にあるのは、心ではなくて、
まっ黒こげの焼けぼっくいでした。
それとは反対に 孤児のスザンカは 甘い蜜のたくさんつまった善い心をもっていて 辛抱ずよい人間でした。
スザンカはお百姓の家で雌牛とガチョウを追う仕事をしていました。
スザンカはお百姓の飼い犬のカロよりも粗末なモノを食べさせられ
粗末な藁袋の寝床しかあたえられませんでした。
それを水の精たちは知っていました。
あるとき 月のきれいな晩に水の精の王様が花から花へにおいをかぎ、いい気持ちでうとうとし、気がつくと もうとっくにお日さまが高い位置にあがっているところでした。
王様は川へ帰れずに泣き出してしまいます ちょうどそこへスザンカあらわれるのです
原文-抜粋---------------------------------------------
スザンカが近くで雌牛に草を食べさせていた。ごぼうの葉の下に、何やら悲しげな声がするので、近くに寄って身をかがめてみると、一匹のとても気味の悪いひきがえるが泣きながら、小さな前足で涙の目をふいていた。
「どうして泣いているの、ひきがえるくん?」とスザンカがたずねた「おなかでも痛むの?」
「いや、腹が痛いのではない。困った! ああ困った!」
「じゃぁ頭痛? 頭が痛いの?」
「いや、頭が痛いのではない。露がかわいてしまったのだ!」
「そんなの、なんでもないじゃない?夜になったら、また露がかかるわ!」
「たしかに。しかし、わしはかえるではない。わしは水の精の王なのだ。だから、川まで行くことができないのだ」
「どうして? オルサ川はすぐそこよ!」
「おお、わたしのスザンカ、おまえはまだ知らぬ。われわれ水の精は月の夜に、はげしい露を伝わってしか動けないのだ。露がなくてはおしまいなのだ! 困った、ああ困った!」とまたも悲しみ泣きむせぶ。
スザンカはやさしくもろい心を持っていたので、あなたがそのようになき悲しむのをとても見ていられない、わたしが手にのせて川へつれてっていってあげるから、それでいいだろう、と言った。
「ほんとうに手にのせるつもりなのか?」
「そうよ! どうして?」
「むかむかしないだろうか?」
「どうして、むかむかする?」
「わたしは気味の悪いひきに似ている!」
スザンカは笑いだした。水の精の王さまをそっと両手にとり、オルサ川へはこんでいった。
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そのあと王様がお礼にダイヤや真珠、宝石なんかをどうか?といっきますが スザンカはこれを断り それよりも王様の国が見たいといいます。
雌牛とガチョウの番を家来にまかせて 水の精の王国に遊びにいくのです…
原文-抜粋---------------------------------------------
王城の中にはいくつもの豪華な広間があって、金やアラバスターや大理石、ダイヤ、銀、また壁かけでかざられていた。王座は金とダイヤで作り上げた精巧なものだった。八方から、静かな美しい音楽がひびき、その楽の音とともに、銀色の月の光が広間に流れこんだ。地上で鳥が飛ぶように、ここでは金色やいろとりどりの色に光る魚が、日光にきらめくように泳ぎまわった。赤むらさきのもいた。どの魚も金色の、広いおうぎ形のひれと尾をなびかせ、光のかげんでは、すばらしい花のように見えた。金色や赤むらさきのきくの花のように。スザンカはよろこびに胸をときめかした。
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王国で水の精の王子の名付け親を頼まれたスザンカはまたもやお礼をなにがいいか?ときかれ
困り果てます。
王様は”では、いじわるなお百姓を川に誘き寄せておぼれさせよう なによっぱらってるときにやれば…”ともちかけますが
スザンカは”ちっともよくない”と抗議します。
王様も困り果ててしまいます。
”主人を川でおぼれさせるのがよくないとならば、せめて、やさしい心のほうびがわりに、金なりダイヤモンドなり、ほしいだけ取るがよい”とまたいいますが
スザンカは”心には心でしか払えない。金もダイヤモンドもいただくわけにいかない”と
頑としてなにもうけとりません。
どうしてお礼を受け取らないのか分からない水の精は学者を呼んでスザンカの言っている意味を分析させます
学者は長い間調べて”心には、ということはつまり、やさしい行いには、やさしい心で、ということはつまりやさしい行いでしか、これに感謝し、むくいることができない、とこう申しましたわけで”と結論をだします。
それで納得した水の精の王様はスザンカとさよならをします
地上に帰るまえに スザンカはある事を思い出します
原文-抜粋---------------------------------------------
「そうそう、わたし、お願いしたいことをいま思いだした!」
「それこそ言うがよい! 何がほしいかな?」あたりは、けし粒をまいたように静まりかえった。スザンカがどんなお願いをするかと、みんな耳をすましたのだ。スザンカは言った。
「ねえ、王さま! このオルサ川は毎年岸からあふれて、気の毒な人たちの畑を流してしまうのよ。そういういたずらを、オルサ川がしないようにしてくださらない?これがわたしのお願い!」
王さまは、そんなお願いを聞こうとは夢にも思わなかったので、またまた耳のうしろを王笏でかいた。この娘は、金やダイヤモンドや、悪いお百姓のこらしめなどは気にもかけず、人をいじめる川をなんとかしてほしい、と言うのである。
「望むとおりにしよう」。
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地上に帰っていつもの水っぽいスープとからからのパンの夕食後
いつもの藁袋の上でねむります。
次の日の朝
いつもより寝床が固くてぐあいが悪いことに気付きしらべると
藁がすべて黄金になっていました。
これはすべて水の精の心の酬いであり お礼なのでした。
このあと スザンカは遠い国の王子のお妃にもらわれていきますが
お百姓は、スザンカのもらった幸福が自分の事でない事に非常にうらやましくねたましく
じぶんも同じものをもらいたいと願い続けそれから毎日水の精をさがしつづけます。
ある日 王様を発見します。
しかし あまり醜いヒキガエル同様の姿に 手にのせる事ができず ハンカチでつまんで川にほうりなげます。
それでも王様はお礼をあげようというと
お百姓は”スザンカを同じ風にしてほしい”といいます
その夜 お百姓はいつの寝ている長持ち(お百姓の全財産が隠してある入れ物)の上に藁袋をたんまりのせてワクワクして寝ますが あさになってみても 藁袋は藁のまま
長持ちの全財産も藁に変わってしまっていた
どうして藁に変わっていたかというと 心にむくいようにも お百姓はあいにく心を持っていなかった。胸にあるのは一本の焼けぼっくいにすぎなかったからというお話
全部は紹介できませんでしたが
原文には「けし粒をまいたように静まりかえった」ポーランド語風成句。や
『クウィアトゥラ(花もようさん)』も『スロクラ(まだらさん)』も『伯しゃく婦人』も『リャツィアタ(ぶちさん)』雌牛の名前。などポーランド独特の言い回しがふんだんにもりこまれ、非常におもいろい読み物になっています。
王国の中の魚が舞い踊る表現がすばらしいです。
目を閉じるとその情景が容易に想像できてしまうあたり この話のヤマ場ではないでしょうか?
スザンカの藁袋を水の精が心の酬いに黄金に変えてしまうのは それは寝心地わるいだろう 固いし、よけいな事を…と思うのはおいらだけではないはずだ(笑)
水の精の滑稽な姿も”王さまはまたもひどく不思議そうな顔をして、困って。耳のうしろをかきはじめた。”などは 憎めないかわいらしい姿を想像させられる。
こんな可愛いお話がうまれる ポーランドという国がどんなに平和ですばらしいく
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世界の民話 -第五巻- 東欧2