KAWORUの山日記~今日も雲の上!

百名山や日本アルプスの旅の記録

3千メートルからの星空

2010-11-01 22:23:11 | 星空の案内

職場のプラネタリウムで見ている星空を本当の空、しかも日本で最も条件の良い標高3千メートルの高山で観察したらどんなふうに見えるだろう、と考えて最初に選んだのは立山です。昼間の室堂は観光客で混雑していますが、日没後はわずかに富山の街明かりがあるだけで真っ暗です。頭上には天の川。双眼鏡を南の空に向けると、「いて座」や「さそり座」周辺の星雲星団が驚くほど鮮明に観察できました。

私は20代から山に登っていますが、山の世界では日の出前に起床、9時に消灯就寝が当たり前で、深夜に空を見上げる人はほとんどいません。プラネタリウム投映を担当するようになったのが30代半ばですが、それ以降の山行では人が寝静まってから山小屋を抜け出すのが習慣になりました。以前はピークハントが目的でしたが、山頂に立たなくても色々と面白い体験ができることに気がつきました。

星降る空の下で星座を数えたり、星雲星団に目を凝らしたり。星が多すぎて星座を結ぶのは一苦労ですが、天の川が一本の帯になって夜空に横たわるのは圧巻です。この宇宙には果てがあるのだろうか、などと考えているといつの間にか時間が過ぎてゆきます。今この瞬間、眼にしている星の光は何百光年、何千光年の彼方から、気が遠くなる長い旅をして私のもとに届いた光のメッセージ。そんな思いに耽りながら、大宇宙の中にひとり漂っているような錯覚におちいることもしばしばです。

山の魅力には壮大な風景、自然現象、雪渓やお花畑、きれいな空気、温泉など数え切れないですが、夜空の美しさもまた格別です。


未来の宇宙飛行士

2002-01-01 00:00:00 | 星空の案内

生解説が終わってオート投映が始まると、担当者はのんびり昼寝でもしているんじゃないかと思われるかもしれませんが、なにしろポンコツ機械、いつトラブルが起こるかわからないので気が抜けません。次の投映までの15分ほどの時間も、機器の点検、異常箇所の調整、観望会や星空案内の原稿作り、新番組の選定、報道関係へのPR、スライドや音楽のチェック、そうこうしているうちに次の投映の準備が始まります。

番組終了後、一人の子供が私の所にやってきて
「なんだ、ここで話していたのか。今のお話おもしろかったよ。」
と話しかけられたことがありました。また、投映中に客席から
「子供の気持ち、よく知ってるね」
なんて声が聞こえてきたこともありました。こんな感想を聞くと、もっとがんばって面白いお話をしなければ、と張り切ってしまいます。

最近は日本人宇宙飛行士もどんどん活躍していますが、彼らが宇宙に興味を持ったきっかけは、小さいころ見たプラネタリウムだと言っています。プラネタリウムに来てくれた子供たちの中から未来の宇宙飛行士が生まれるかもしれないなんて考えると責任重大で、話にも力が入ります。


疲れたらプラネタリウムへ

2002-01-01 00:00:00 | 星空の案内

プラネタリウムに音楽は欠かせません。星空の状況に合わせて、夕陽が西にかたむき満天の星空になる時のBGM、今夜の星座解説の時のBGM、東の空が白んで朝日がのぼる時のBGMなどと使い分けています。幼稚園や保育園の団体にはアニメのテーマソングが好評ですが、一般のお客さんにはゆったりとくつろいでいただけるようリラックス音楽や映画音楽を使っています。でも、あまりに気持ちが良いとあちこちから「グォー」「ガォー」

番組が終了して「もしもし・・」と私たちが声をかけてはじめて「夢」の宇宙旅行から引き戻されるお客さんも少なくありません。せっかくお休みのところごめんなさい。冷暖房完備、満天の星空、リクライニングシート、そして心地よい音楽と子守歌のような星のお話。こんなにいい雰囲気ですから、ちゃんと起きていて下さいとか、しっかり最後まで見て下さい、というほうが無理なのでしょうね。

「プラネタリウムは子供が行くところ」とか「いまさら星の勉強をしても」と思っているなら、それは大きな勘違いです。どこをさがしてもこんなに美しい星空を見せてくれるところなんてありません。仕事に疲れてゆっくりくつろぎたい方、日常生活から開放されたい方、お金をあまり使わずに休日を過ごしたい方、あるいは将来、天文学者や宇宙飛行士を目指している子どもたちにもお勧めです。また、平日はお客さんも少ないのでデートコースとしてもちょっとした穴場です。


「夢」の宇宙旅行

2002-01-01 00:00:00 | 星空の案内

番組のはじめには機械を操作しながら今夜の星空をご紹介しています。たまに、お客様がひとりだけのこともありますが、そんな時でも手を抜かずにしっかりお話しています。ある日の午後、お客様は男性の方がおひとりだけでした。いつものように、天頂付近の星座、続いて西空の火星、東空の木星などひと通り簡単に解説して、番組が終了した後のことです。

「東の空に明るい星が見えるが、あれは何ですか?」
「私は火星をまだ一度も見たことがない。何時ごろ、どの方向に見えるのですか?」

など次から次へと質問されます。質問を頂くのは大変有り難いのですが・・・。私が、たったひとりのお客様のためにじっくりお話したのに、居眠りをされていたようです。でも、きっと美しい星空のもとでくつろいでいただけたことと思います。

そういえば、あれも男性客ひとりの時のことでした。番組開始と同時に爆音、いえ大きなイビキが12mドームに響きわたり、番組終了後、職員に起こされた方がいました。この方はもう一度チケットを買って、今度はしっかりご覧になっていました。居心地が良すぎるのも考えものです。

最近はお客様が少ないときは、誕生日の星座や世界の星空などのリクエストをおたずねしてから解説するようにしています。せっかく来ていただいたのですから、楽しんでいただかないと損ですよね。

ところで皆さんは、日没から星空に変わるまでの演出はどうやるか、ご存じですか?
まず、BGMスタート、昼光50%、ブルーライト50%、太陽点灯、日周運動スタート、昼光をわずかに減光、夕焼け点灯、薄明点灯、外惑星点灯、内惑星点灯、恒星を徐々に増光、昼光を徐々に減光、夕焼けを徐々に減光、薄明を徐々に減光、そして、お客様の眼が暗闇に慣れてきたころを見計らいながらブルーライトを徐々に減光し、天の川を点灯し流星を飛ばします。これで満天の星空の出来上がり。やがて、客席のあちこちから歓声が上がります。

まるで本物のような夜空を再現するのには、ずいぶんと大変なのですが、私たちの腕の見せ所でもあるのです。はじめて操作卓(コンソール)をご覧になった方は、ボタンやダイヤル、計器などずらりと並んで飛行機の操縦席のように思われるでしょう。ここはまさに、星空の操縦席です。


ここは遊園地?

2002-01-01 00:00:00 | 星空の案内

週末は家族連れで来られるお客さんが多いのですが、御両親が子供に星の話を語りかけている声が聞こえたりすると、私たちの解説にも力が入り予定時間をオーバーすることもあります。たまに、投映の後で質問を受けることもありますが、番組の感想や質問は大歓迎です。できるだけ皆さんの御意見を番組に反映させたいと思っています。でも、ちびっこギャングたちの場合は大変。 

 私   「えー、この星たちを結んで夏の大三角といいます。」
子供 〈 ペチャクチャ、バタバタ、ゴソゴソ・・・ 〉
 私   「そして、この星が織り姫星で・・・」
子供 〈 あのね・・・、今日ね・・・、それでね・・・ 〉 

おとなしく座っていてくれたらまだいい方で、大声で泣きだす子、館内で追いかけっこをする子、椅子でシーソー遊びを始める子、お菓子をバリバリ食べる子、投映機を力まかせにねじ曲げる子、真っ暗な館内を探検する子、解説席の私の顔をのぞきこむ子・・・。思わず声をかけたくなりますよ、本当に。

「君たち、何しにきたのかな?」「ここは遊園地ではありませんよ~」

時々、間違えて入ってくる子供たちがいるようです。


異星からのお客様

2002-01-01 00:00:00 | 星空の案内

投映後に感想や質問を受けることは珍しくありません。プラネタリウムで秋の星座の解説が終わった後、一人の女性が私のところまでやってきました。

女性 「今日のお話は大変わかりやすかったです」
 私 「ありがとうございます」
女性 「特にプレアデス星団(牡牛座の散開星団)のお話が聞けてよかったです」
   「もしお話がなければ、あとで質問するつもりでした」
 私    「それはよかったです」
女性 「実は私の姉があちらにおりまして」
 私    「・・・?」
女性 「時々便りはあるのですよ」

私のプラネタリウムには時々他の星からのお客さんもいらっしゃるようで。


プラネタリアンのお仕事

2002-01-01 00:00:00 | 星空の案内

プラネタリウムの番組は「一般番組」といって製作会社が作った番組をコンピューターでオート投映するものと「学習番組」といって私たち解説員が機械を操作しながら、太陽の動きや月の満ち欠け、星の動きなどを肉声で解説するものがあります。

また観望会の特別投映では、普段は時間がなくてお話しできないような天文の解説やハッブル宇宙望遠鏡の最新画像なども紹介しています。

小中学校対象の学習番組や特別投映では、私たちは飛行機のコクピットのような解説席に座って、機器を操作しながら解説します。左手にマイクを持って話しながら、右手で矢印ポインター、太陽や星の動き、明るさ、CDデッキ、星座絵投映機やスライド投映機などをタイミングよく次々と操作するわけですから、ひとつの番組が終わるともうクタクタです。1日に2本も3本も学習番組が続いた日には、それこそバタン・キューです。

投映が終わったあと、すぐに立ち去らずに「面白かったよ」「ちょっと難しかった」「・・・はどういう意味?」何でもいいですから感想や質問をお寄せ下さい。あなたの御意見は必ず次回の投映に反映させますから。


巨大ピラミッドの謎~5千年前の北極星

2001-01-01 00:00:00 | 星空の案内

◆新世紀!明けましておめでとうございます。21世紀の夜明けは7時7分。北東の空には織姫星、南東の空には火星が現れています。一方、夕方の南の空に木星と土星の2大惑星がならんで輝いています。さらにすぐ近くにある星の集団はプレアデス星団(すばる)とヒアデス星団です。

◆エジプトの大ピラミッドは底辺230m、高さ147mもある世界一の建造物です。今から5千年ほど前、エジプト文明が栄えた頃の北極星は「りゅう座」の4等星ツバーンでした。最近になってピラミッドの王の間にツバーンの光が差し込む細い穴が掘られていることがわかりました。その他にもオリオン座(オシリス神)の3ツ星やおおいぬ座のシリウス(イシス神)の方向に掘られた穴も見つかっています。2つの神は彼らにとって最も大切な復活神でした。また、当時は方位をはかる精密な道具がなかったにもかかわらず、ピラミッドの底辺が正確に東西南北を指し示しており、さらに上空から3大ピラミッドを見るとその配列はオリオン座の3ツ星と重なります。

◆これほど大きな建造物を精密に造り上げるのは大変むずかしく、現在の技術水準に匹敵するといわれています。一般にクフ王の墓とされていますが、実はこのピラミッドから王のミイラは見つかっていません。これは本当に王の墓なのか、数百万個の巨石をどうやって積み上げたのか。そして、地球の大きさを表すピラミッドの寸法や正確な方位、星の光を導く百mもの長い穴、3大ピラミッドの配列、・・・。この他にも謎に包まれた部分が多いのでピラミッドミステリーなどと呼ばれ、いろんな説が登場しました。ピラミッドをはじめ世界中の古代遺跡には、当時の生活水準に比べて科学技術だけが特別に進化している例が多いようです。もしかしたら、彼らはアトランティス文明のような別の超先進文明の技術を受け継いだのかもしれません。

◆エジプト文明では、ナイルの星と呼ばれるシリウスが太陽とともに東の空から昇る日を1年の始まりとして暦を作り、ナイル河の増水を予測しました。農業を営む古代エジプト人にとってナイル河の洪水の時期はとても大切な情報でした。上流の肥沃な土壌が流されてきて豊かな農地が生まれるのです。当時の人々が季節を知る唯一の方法は太陽や星の観察でしたから、正確な方位を示すピラミッドが天文台の役目も持っていたはずです。

◆5千年前、ピラミッドの王の間には北極星やオリオン、シリウスの光がふり注いでいました。永遠に動かないと考えられていた北極星と復活神。死後の再生を願うエジプト人の信仰が巨大なピラミッドを造り上げたのならここは死者の魂が永遠の時を経て復活する場所だったのかもわかりません。※それともスターゲイトやフィフスエレメントのような宇宙人文明の遺産なのかも。


逆さまヘラクレスの謎~歳差運動のいたずら

2000-12-01 00:00:00 | 星空の案内

◆いよいよ20世紀も残りわずかとなりました。今世紀中にやり残したことがありませんか?今世紀最後の天文現象は12月13日~14日の双子座流星群、新世紀最初の天文現象は1月3日~4日のりゅう座流星群と10日の皆既月食です。これこそ本当の「世紀の天文現象」ですから、がんばって早起きして観察してください。

◆夏から秋の南の空で英雄ヘラクレス(ヘルクレス座)や天馬ペガサス(ペガスス座)を見つけることができます。皆さんはこの2つの星座が逆さまになっているのを不思議に思ったことはありませんか。ギリシア神話ではヘラクレスが女神ヘラの呪いを受けているからとされていますが、実はこの逆さまの星座はギリシア神話よりずっと昔から知られていました。

◆地球は地軸を中心におよそ24時間で1回転(自転)しています。その地軸を北の空にどこまでものばしていくと、地球から430光年彼方にある「こぐま座」の2等星ポラリスにあたります。夜空の星々は地球の自転によって時間とともに動いていますが、この星はどの季節であろうが一晩中見ていてもほとんど動きません。いつも北の空で動かないこの星を私たちは「北極星」と呼んでいます。ところが数百年もかけて観測し続けると北極星が動いていることがわかります。太陽や月の引力によって地球が揺すぶられる「歳差運動」のために、地軸は2万6千年ほどの周期で円を描いています。ですから北の方角を指す「北極星」と呼ばれる星は長い年月の間にまったく別の星に代わっていくのです。

◆私たちは星空を見る場所、つまり地球上のどの緯度で見るかによって星座の見え方が変わることを知っています。オーストラリアで見える南十字星は日本では見えません。さらに歳差運動による地軸の移動も星の見え方を変えます。同じ場所にいても星座の見える位置が変わってしまい、数千年前には日本各地でも南十字星が観察できました。数多くの星座が誕生したその頃、ヘラクレスは北の空で頭を真上にしていました。それが数千年の時の流れを経て地軸が動いたたために、南の空で逆さま星座になってしまったのです。秋の夜空に見えるペガサスが逆さまの姿で空を駆けているのも同じことです。

◆140世紀の未来、歳差運動により織り姫星が北極星になっています。そして日本では北の空に夏の大三角が一晩中見え、南の空にはあこがれの南十字星が輝いていることでしょう。


危険を秘めた小惑星~世界中で小惑星探し

2000-11-01 00:00:00 | 星空の案内

◆賑やかな夏の星たちが西空に傾くと秋の夜空はずいぶん寂しくなり、南空の一等星フォーマルハウトが印象的です。秋の夜空は古代エチオピア伝説の舞台。アンドロメダ姫の腰の近くに双眼鏡を向けると、230万光年彼方のアンドロメダ銀河が見つかります。

◆小さな天体は太陽や惑星の引力の影響を受けやすいので、その軌道は複雑で不安定です。これらの天体はいつ地球との衝突コースをとるかわかりません。実際、小惑星の中には小惑星帯を外れて惑星軌道に接近するものがあり、これを特異小惑星と呼びます。惑星は昔から小天体の衝突にさらされてきました。金星は他の惑星とは自転の方向が逆です。火星の自転軸は不安定でフラフラしています。天王星の自転軸はほとんど横倒しです。土星や木星など巨大惑星には岩や氷でできたリングがあります。これらは小天体が衝突した結果ではないかと考えられています。もし直径数㎞の小惑星が地球に衝突したらどうなるでしょうか。6500万年前メキシコのユカタン半島に落下した隕石が地球環境を変化させ、地上の王者だった恐竜を絶滅させたという話は有名ですが、この隕石の直径はたった10㎞です。

◆宇宙の歴史の中では天体衝突はありふれた事件です。私たちが気づかないうちに地球に近づく小天体はたくさんあります。過去には月と地球の間を通り抜けた小惑星がいくつかありますし、ごく最近も地球とのニアミス事件がありました。1989年には直径400mの小惑星が地球から64万㎞を通過、1972年には直径80mの小惑星の破片がアメリカのアイダホ州上空60㎞をかすめて再び宇宙に戻って行きました。2000年1月にはカナダ上空で250トンの小惑星が地球大気に突入し、空中で大爆発を起こしました。また、1983年に加古川市在住の菅野さんが発見した「菅野・三枝・藤川彗星」のように地球にニアミスした彗星もあります。美しく尾を引いて私たちを楽しませてくれる彗星もひとつ間違えば人類の脅威です。

◆最近、世界中の天文台で地球近傍小天体NEOの本格的な探索が始まりました。今年1月に直径800mの小惑星2000BF19が発見されましたが、これはNEOの1つで2022年に百万分の1の確率で地球に衝突すると発表されました。このような衝突の危険を秘めた小惑星は数百個はあると推測されています。もしこれらの小惑星が地球に衝突したら、恐竜絶滅の時と同じことが起きるでしょう。天体衝突というとまるでSF映画のように感じますが、興味本位ではなくもっと科学的に監視していくことが大切です。


星のかけらを持ち帰ろう~サンプルリターン計画

2000-10-01 00:00:00 | 星空の案内

◆「星の王子さま」のふるさとは地球からずっと離れた小さな星で、その名前は小惑星B612。トルコの天文学者が見つけた家ぐらいの大きさの星で、王子さまはその星に1人で住んでいます。小惑星は軌道が確定した順番に番号がつけられますから、小惑星612は望遠鏡で見える星です。将来、探査機がこの星まで飛ぶようになれば、王子さまに会えるかもわかりませんね。今年は著者のサン・テグジュペリ生誕100周年、そして来年は小惑星発見200周年です。

◆小惑星に接近して観測したり、サンプルを地球に持ち帰る計画がアメリカと日本で進められています。NASAのニア・シューメーカーは初の小惑星探査機で、今年小惑星433「エロス」(10㎞×30㎞)をまわる人工衛星になりました。観測の結果、エロスの地表にはクレーターが無数にあることや原始的な岩石(普通コンドライトと呼ばれる石質物質)でできていることがわかりました。これは太陽系誕生の基礎材料となった最古の岩石です。初期の太陽系にはあまり熱がなかったので、太陽系を作ったチリの粒子は当時の状態で小惑星に残っています。ほとんどの小惑星は火星より遠くにある小天体なので十分な観測ができませんが、エロスは1898年に火星より近くで初めて見つかった小惑星です。このような地球に近づく軌道を持つ小惑星は地球近傍小惑星、あるいは特異小惑星と呼ばれて貴重な研究材料になっています。

◆地球のような大きな惑星は重力が大きいため、時間がたつうちに初期の組成がどんどん変質しますが、彗星や小惑星のような小天体は46億年前の太陽系誕生の頃の姿をそのまま変えていない「太陽系の化石」です。太陽系誕生の情報をつめこんだ小惑星の研究は天文学にとって重要です。小惑星にはまだ未知の部分が多いのですが、これらを調べることは、太陽系の起源と進化の謎を解きあかすことになります。

◆日本の小惑星探査機ミューゼスCは小惑星に接近して観測したり、表面の岩石を地球に持ち帰ったり、探査車を走らせたりと数多くの計画があります。2002年12月、小惑星1998SF36に向けてM-Vロケットで打ち上げられる予定です。この小惑星は地球軌道に近づく特異小惑星で、地球衝突候補天体の1つです。この小惑星のサンプルが地球に届くのは2007年6月です。アポロ宇宙船は月の岩石を数多く持ち帰りましたが、ミューゼスCは月以外の天体のサンプルを持ち帰る世界初の試みになります。


夜空に輝く星~小惑星って何?

2000-09-01 00:00:00 | 星空の案内

◆皆さんは「小惑星」って聞いたことがありますか? あまりなじみがない言葉ですが、話題になった映画「アルマゲドン」で地球を襲った小さな星だと言えばすぐにわかるでしょう。

◆太陽と惑星の距離にはボーデの法則という一定の規則があることが古くから分かっていました。この計算では火星と木星の間にもう1つ惑星があるはずだということから、天文家による未知の惑星探しが始まりました。そして今からちょうど200年前の1801年1月1日、つまり19世紀の最初の日に発見されたのが直径913㎞の「ケレス」です。その後あいついで同じような小天体が見つかり、現在では1万5千個以上の軌道が確認されています。この他にも惑星の引力の影響を受けて軌道が定まらないものも多くありますが、それらを含めると数万個になります。この小天体は惑星と同じように太陽のまわりを公転していますが、そのほとんどが直径100㎞以下の大きさです。これらは惑星にしては小さすぎるので「小惑星」と呼ばれています。

◆46億年前、私たちの太陽系ができた頃、太陽のまわりを回るガスやチリが集まって「微惑星」が誕生し、これが衝突や合体を繰り返して成長し、地球のような「惑星」ができました。初期の太陽系ではこのような天体の衝突、合体が頻繁に繰り返されていました。中には合体できなかったものや、衝突で砕けたものもかなりありました。これらの惑星になりそこなったものが「小惑星」です。火星と木星の軌道の間には巨大な木星の引力でばらばらになった大小無数の小惑星が帯のようにただよいながら小惑星帯(アステロイドベルト)を形成することになりました。

◆ほとんどの小惑星はこのアステロイドベルトにありますが、アポロ群と呼ばれる地球軌道の内側まで入ってくるもの、トロヤ群と呼ばれる 木星軌道上の決まった位置にあるもの、最近次々と見つかっている冥王星の彼方にあるカイパーベルト天体など特殊なものもあります。映画に登場したのはそのうち地球軌道に接近する特異小惑星のうちでも特に危険なもので地球近傍小惑星NEOと呼ばれています。


巨大望遠鏡「すばる」誕生~すばるの技術~

2000-07-01 00:00:00 | 星空の案内

◆歌や自動車の名前にもなっている「すばる」という言葉はれっきとした日本語です。おうし座の散開星団「プレアデス」のことで、清少納言の枕草子にも登場しますから、かなり歴史のある言葉です。すばる望遠鏡のあるマウナケア山頂は標高が4200mもあって空気が薄いので、人間が長時間に渡って居ることはできません。ふだんは山麓の「ハワイ観測所」で遠隔観測しています。また、望遠鏡は温度変化に敏感なので、すばるのあるドーム内はエアコンで厳密な温度管理をしています。人間の体温が空気の流れをつくり星がぼやけるのでドーム内は無人です。

◆すばるは反射望遠鏡ですから、レンズの代わりに鏡で光を集めています。この鏡の大きさが8m以上もあります。マウナケア山頂には、36枚の鏡を組み合わせた口径10mの世界最大のケック望遠鏡がありますが、1枚鏡ではすばるが世界一です。望遠鏡の精度を上げるには1枚鏡のほうがはるかに優れています。この巨大な鏡を作るのには大変な労力と時間が必要でした。ガラスを作るのに3年半、鏡を磨くのに4年もかかっています。アメリカで作られた鏡は船でハワイ島に運ばれて、さらに巨大なトレーラーでゆっくりと山頂まで運ばれて据えつけられました。

◆精密に磨かれたすばるの鏡は限りなくツルツルです。その精度は百万分の12㎜という驚異的なもので、鏡の大きさをハワイ島に例えると紙1枚の凸凹しかありません。この精度だと東京から富士山頂のテニスボールを見分けられます。通常、こんな巨大な鏡を作ると重さが百t以上になり、その重みでゆがんでしまいます。ところがすばるの鏡は直径が820㎝もあるのに、厚みはたった20㎝。この薄い鏡の下にはコンピュータで制御された261本の棒があり、もし鏡がゆがんでもその部分の棒が動いてゆがみを修正します。このように、すばるの鏡はいつも完璧な姿を維持しています。

◆さらに、すばるのドームは一般的な半球状ではなくて筒状をしています。望遠鏡の大敵は空気のゆらぎで、これが星の見え方を悪化させます。すばるのドームはこの空気の流れを徹底的に研究して作られました。このように、すばるは数々の最新技術が駆使されたハイテク望遠鏡です。


巨大望遠鏡「すばる」誕生~望遠鏡の歴史~

2000-06-01 00:00:00 | 星空の案内

◆太陽と海の島ハワイ。この標高4200mのマウナケア山頂には天文台が立ちならんでいます。世界各国が技術の粋を集めて作った巨大望遠鏡たちです。そしてここにまた1つ、新しい望遠鏡が仲間入りしました。国立天文台が10年の歳月をかけて建設したハイテク望遠鏡「すばる」です。

◆望遠鏡の歴史は今から400年ほど前にさかのぼります。1608年、オランダの眼鏡職人が2枚のレンズを組み合わせると遠くの物がよく見えることに気づきました。これが望遠鏡の誕生です。翌年、その望遠鏡を初めて宇宙に向けたのがイタリアの天文学者ガリレオです。彼が作ったのは1枚目のレンズで集めた星の光を2枚目のレンズで拡大するという「屈折望遠鏡」です。次に登場したニュートンはレンズの代わりに凹面鏡を使って星の光を集める「反射望遠鏡」を発明しました。現在に至っても光学望遠鏡は大きく分けるとこの2種類です。

◆方法はどうであれ望遠鏡の性能は口径(レンズや鏡の大きさ)だけで決まります。口径が大きければ大きいほど星の光をたくさん集めることができるので、遠くの暗い天体も見えますし、その詳しい様子もわかります。もっと遠くをもっと詳しく・・・。天文学者は次々と大きな望遠鏡を作り新しい宇宙の姿を見せてくれました。ガリレオはたった口径4㎝の望遠鏡で月の表面や木星の衛星、土星のリング、天の川の正体などを発見しました。ハーシェルは1.2mの望遠鏡で私たちが銀河系の中心にいることを確信しました。ハッブルは2.5mの望遠鏡でアンドロメダ銀河が私たちの銀河系の外にあることや宇宙が風船のように膨張していることを発見しました。そして、1948年にはアメリカのパロマー山に口径5mもの反射望遠鏡が誕生し、以後40年間はこれが技術的にも世界一の大型望遠鏡でした。

◆しかし、もっと大きな望遠鏡があればもっと遠く、もしかしたら宇宙の果てまで見えるかもしれません。天文学の研究が進むにつれそんな望遠鏡が必要になりました。そして、1990年、これまでの常識をこえた新世代の巨大望遠鏡が計画されました。その1つが「すばる」です。このように天文学の歴史は望遠鏡の進歩とともにありました。天文学者たちの情熱が望遠鏡をここまで大きく進化させてきたのです。


夏は星を見よう

2000-04-01 00:00:00 | 星空の案内

◆梅雨前線が去り、日本列島が高気圧にすっぽりおおわれる夏はスターウオッチングに最適な季節です。夏に山や高原に出かける方は星空を眺めてみてはいかがでしょうか。標高の高いところは街明かりもないし、空気も澄んでいるので驚くほどたくさんの星と出会えます。あまりに星の数が多すぎてかえって星座を見つけるのが難しいかもしれません。

◆以前、北アルプスの稜線で銀砂をばらまいたような満天の星を一晩中眺めたことがあります。夜空にスーッと吸い込まれていくような、自分がまるで宇宙空間を漂っているかのような錯覚を感じました。肉眼でアンドロメダ銀河が簡単に見つかり、カシオペア座や夏の大三角が天の川の星々に埋もれて、星座の形をたどることができないほどでした。その時の星空は、職場で見慣れているプラネタリウムの星空より数倍も美しかったような気がします。

◆最近は立山、乗鞍岳、木曽駒ヶ岳、西穂高岳などロープウェーやバスを使えば3千m級の高山にも手軽に行けるようになりました。望遠鏡を持って本格的な天体観察をするのはしんどいですが、小さな双眼鏡1つあれば肉眼で見るよりさらに数十倍の星や星雲星団を見つけることができます。旅先で思いがけず美しい星空に出会うというのはなかなか感動的ではないですか。