職場のプラネタリウムで見ている星空を本当の空、しかも日本で最も条件の良い標高3千メートルの高山で観察したらどんなふうに見えるだろう、と考えて最初に選んだのは立山です。昼間の室堂は観光客で混雑していますが、日没後はわずかに富山の街明かりがあるだけで真っ暗です。頭上には天の川。双眼鏡を南の空に向けると、「いて座」や「さそり座」周辺の星雲星団が驚くほど鮮明に観察できました。
私は20代から山に登っていますが、山の世界では日の出前に起床、9時に消灯就寝が当たり前で、深夜に空を見上げる人はほとんどいません。プラネタリウム投映を担当するようになったのが30代半ばですが、それ以降の山行では人が寝静まってから山小屋を抜け出すのが習慣になりました。以前はピークハントが目的でしたが、山頂に立たなくても色々と面白い体験ができることに気がつきました。
星降る空の下で星座を数えたり、星雲星団に目を凝らしたり。星が多すぎて星座を結ぶのは一苦労ですが、天の川が一本の帯になって夜空に横たわるのは圧巻です。この宇宙には果てがあるのだろうか、などと考えているといつの間にか時間が過ぎてゆきます。今この瞬間、眼にしている星の光は何百光年、何千光年の彼方から、気が遠くなる長い旅をして私のもとに届いた光のメッセージ。そんな思いに耽りながら、大宇宙の中にひとり漂っているような錯覚におちいることもしばしばです。
山の魅力には壮大な風景、自然現象、雪渓やお花畑、きれいな空気、温泉など数え切れないですが、夜空の美しさもまた格別です。