KAWORUの山日記~今日も雲の上!

百名山や日本アルプスの旅の記録

九重連山~迷子が四人 [稲星山1,774m]

2020-05-23 19:38:06 | 中国・四国・九州の山


私が道を間違えたことに気づいたのは、山小屋を出て1時間も歩いた頃だろうか。分岐点で地図を引っ張り出してはじめて分かったのだが、今更引き返すのも面倒だと思ったのがいけなかった。まだ、この時は何とかなるさと、かなり楽観的に考えていた。

〈 坊ガツル 〉

私たち2人は初日の朝、別府でフェリーを降りてバスで登山口まで行き、2時間の登りで法華院温泉に到着。温泉でゆったり過ごし、翌日は薄曇りの空を眺めながら久住山めざして小屋を発った。地図で何度も進路を確かめるが、道が次第に曖昧になってきた。さらに空模様まで怪しくなってきた。天気予報は晴れのはずだが。分岐では確信をもって直進したのだが、ここで間違えた。天候はますます悪化。霧と風雨が強くなってきた頃、山頂に到着。しかし、そこに予想していなかった文字を見た。なんと、私たちは違う山の頂に立っていた。

風雨はますます強まり、砂粒を飛ばす。立っていることさえ困難だ。濃い霧が行く手も、来た道も覆い隠してしまった。冷たい雨が体温を急速に奪う。ケルンの陰で小さくなって天候の回復を待ったが、時間は無為に過ぎて行くばかり。とにかく来た道を戻ろうとするが、完全に道を見失ってしまった。目の前は崖。進むことも戻ることもできない。血の気が引いていくのが感じられた。記憶をたどり行ったり来たり、何度も道を探すが、この霧では絶望的だ。晴れてさえいれば難なく道が見つかるはずだが。

大きな岩陰を見つけて雨宿りをしようともぐり込むと、中に人の気配。彼は麓のキャンプ場に家族を残して久住山めざしたところ、私たちと同じように道に迷ったという。3人であたりを何度も調査するが、やはり道はない。突然彼は焚き木を集めだした。今夜はここでビバークするつもりらしい。残した家族が捜索隊を呼ぶかもしれないなどと、落ち着いた口調で言う。「久住山中で3名遭難!」新聞の見出しが頭をよぎる。冗談じゃない。私は「方向は間違っていない。こっちに進めば必ず道に出るはずだ」と主張し、協力を要請した。

ここで別々の行動は取れない。しぶしぶ彼も私に従い、歩き始めて10分ほどで道に出た。感激で涙が出そうだった。そこにもう一人、道に迷った登山者が現れた。いったいこの山域はどうなっているのだろう。標識さえ整備されていれば、こんな低山で同時に4人も道に迷うはずがない。先の男性はキャンプ場めざして下山していった。雨で道が崩れているので、私たち3人はまたしても道に迷ってしまった。ようやく法華院温泉を見つけ出したときは、あれほど私たちを苦しめた濃い霧は晴れ、雨も止んでいた。悪夢のような一日だった。

【1994.5】



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