ちょっと前に観た映画。
いつものタランティーノ。いつものディカプリオ。いつものブラピ・・・ではない。
私的には今回のブラピは素晴らしくかっこよかった。
もう齢50を越えてるなんて信じられないような、きれいな腹筋も披露してくれる。
いや別に腹筋にクラリとやられたわけではない。もちろん服を着たままでもいい。とにかく所作から何からすべてがカッコよいのだ。
さっそく脱線するが、ブラピといえばブラピ好きの大学時代の同期を思い出す。当時はブラピの代表作と言えばセブンかファイト・クラブで、どちらも硬派なあんちゃんといった感じの役どころで、私はいまいち良さがわからなかった。いや、かっこいいはいいけどさ。それほどか? みたいな。
まぁ彼女は無類のヒゲ好きで私は特段ヒゲ好きじゃないからかな、なんて思っていた。
今作のブラピはナンパで硬派な男だ。言うならば「三軒となりに住んでいる兄ちゃん」とか「遠い親戚の年上の従兄弟の兄ちゃん(毎年お盆の1日だけおばあちゃんちで会う)」みたいな、ゆるくて頼りない、しかしいざってときは頼れる雰囲気をまとっている。わかる人だけわかって欲しいが、実写版スナドリネコさんである。
これがスナドリネコさん好きな私のハートにぶっ刺さったのである。いや、きっと私だけではないはず、アカデミー会員とかの皆様の心にも刺さっていると信じたい。
ブラピのことしか書いてない。映画の感想はどうした。
はい、映画の感想ですが、これもネタバレを気にする方は回れ右してください。
いいですか?
ビッグフィッシュって映画をご存知の方いるかしら。ティム・バートンがチャーリーとチョコレート工場を作るひとつ前に作ってた映画なんだけど、幼少の砌にシザーハンズ、学生時代にナイトメア・ビフォア・クリスマスを観てすっかりティム・バートン信者として養成されてた私は、ビッグフィッシュで初めて彼の映画をリアルタイムで、つまり映画館で封切りされたものを観ることになって、期待値はカンストしていた。
ところが・・・映画館を出る私はすっかり失望していた。ビッグフィッシュは稀代のホラ吹き男の話だが、彼のつくウソが、現実を侵食してしまうシーンがあった。それは、映画の世界観的にはやっちゃいけないことで、その一点が私にとって致命的だった。その後、チャーリーとチョコレート工場、コープスブライドと、ティム・バートンのつくウソは私にとって完全に意味不明なものになっていき、完全に心が卒業してしまった。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドも、ウソの話である。
ウソだが、シャロン・テート殺害事件というハリウッドで起こった実話を元にしている。
シャロン・テート殺害事件とは、ロマン・ポランスキー監督の最初の奥さんシャロン・テートが、妊娠中の子供と共に頭のおかしいヒッピーになぶり殺されてしまったという痛ましい事件である。
主人公のディカプリオは、当時のポランスキー邸のすぐ下に家を構えていた西部劇俳優という役どころ。ブラピはディカプリオの運転手兼親友兼スタントマン兼ヒモみたいな、謎の男を演じている。
ディカプリオは、かつて一世を風靡した有名俳優だが、世間で西部劇が廃れつつあることもあり徐々に仕事が減ってゆく自分の俳優生命に危機感を抱いている。一方、専属スタントマンのブラピは、危機感があるんだかないんだかよくわかんない飄々とした雰囲気を崩さず、常にマイペースに、ディカプリオを助けてくれる。ブラピがあまりにもマイペースだから、実は裏があるんじゃないかと怖くなるほどだが、実は腹の底から良いヤツで倫理観も一番まともだということが最後にわかる。ディカプリオもいつものように叫んだりわめいたりの演技だが、今回は感情的な演技が「情けなくも憎めないいいヤツ」にハマっている。
そう、こいつらは二人とも、ちょっと馬鹿な良いヤツで、それ以上でもそれ以下でもない。
この映画は、もしもシャロン・テート殺害事件の際にこのような良いヤツらが近所に住んでいたら、という歴史のIFを描く作品だ。シャロン・テートは本人も美人だが、演じる役者マーゴット・ロビーが非の打ち所がないほどの美人で、こんな美人が百年に二度も出てくるハリウッドの底力を見せつけられる。
映画のクライマックス、いよいよポランスキー邸に暴漢が迫るが、それまでに映画オリジナルの事件がなんやかんやあったために、彼らは標的をまず隣のディカプリオ邸に定める。これをブラピとディカプリオが撃退してのけ、シャロン・テートは生きながらえる。
お見事、これぞやって許されるウソだと思った。最初は。
現実に起きた悲劇をウソの結末に塗り替えるなんて、ひたすら残酷な所業にもみえるけど、劇中でシャロン・テートを描くためにそれなりの時間を割いており、そこには彼女は生きるべきだった、という思いが込められているからだ。それを叶えるのは、映画というフィクションだから出来ることだろうと。だから結末には、残酷だけど優しいという絶妙な味わいがあり、なんともいえない感動を胸に帰路についた。
私がビッグフィッシュで観たかったウソは、こういうウソだったんだ、と十何年前のもやもやした気持ちがスッと晴れていく感じがした。
・・・そこまでは良かった。
帰り道、それにしても我々は良いとして、当事者のポランスキー監督はよくこの題材の映画化にOK出したよな・・・ハリウッドだし・・・と不思議に思って検索かけたところ、ポランスキーの現嫁のエマニュエル・セニエがこの映画に対してコメントしている記事がヒットした。
ポランスキー妻、タランティーノ監督を厳しく非難
驚いたことに、タランティーノはポランスキーに許可をとらずに映画を撮影してしまったらしい。いやいや、それはどうなのよ。
以下引用
「私が言っているのはハリウッドの人たちはロマンと彼の悲劇を使って映画を作りながら、彼をのけものにするのをなんとも思っていないということ。そしてもちろんロマンに対しては何も相談していない」byセニエ
おっしゃるとおりとしか言いようがない。
ポランスキーは性的虐待疑惑でハリウッドから追放されており、ヨーロッパで映画を撮っている。
その彼の人生を題材として頂き、勝手にいい話に書き換え、”ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド”などと銘打ってノスタルジーに浸る。
・・・数時間前に感じた「良いウソ」っていうものが、逆に鬼畜の所業としか思えなくなってしまった。
それでも映画としては、やっぱりすごく良かったと思う。難しい。
表現の自由が他人を傷つけて良いかどうかは、ちょうど世間でもとやかく言われているが、私は、作家が良識を失ったら作品が作品として成立しなくなると思っている。常識はどうでもいいが、良識の問題で。
ビッグフィッシュで失望した心は救われたが、新たなもやもやが生まれてしまった。
ただ一つだけ確実に言えることは、私はこの映画のブラピに3000点あげたい、という事だけである。