いばらはお母さんに道を教えました。
お母さんは走り続けると、やがて大きな湖に出ました。
見渡しても船は一艘もなく、湖の氷は歩いて渡る程には厚くはありませんでした。
泳いでいくことも無理なことです。
お母さんは岸に腹ばいになり、湖の水を全て飲み干そうとしました。
「いったい何をするのか?」
湖が呆れかえって質問しました。
「無理な事はしない方がいい。向こう岸へ行く方法が一つある。
あなたの美しい眼が欲しい。その眼をこの世で一番美しい真珠にして、大切に海の底にしまっておこう。
ただ涙を沢山流せば落ちてくるのだ。」
[差し上げます。坊やに会うことができるのならば~]
お母さんは即座に返事をしました。
もちろん会いに行けます。
あなたの赤ちゃんは、花や木が命の数だけ育っている湖の向こう側にある大きな温室にいます。
その木の一本一本が人間の命なのです。死神はその温室に住んでいるのです。」
[ああ、私の坊やは枯れてしまわないかしら?]
お母さんの眼からは、涙がどっと溢れ出てきました。
涙は次から次へと留まることを知らずに流れ落ちて、しまいには二つの眼が流れ出て、湖の底に行き沈んでしまいました。
湖の底には見たこともないような真珠が輝いていました。
湖はお母さんを抱き上げると、ふわりと向こう岸へ降ろしました。
そこには広々と続く大きくて妙な温室がありました。
目の見えないお母さんは、手探りで近寄って行きました。
[死神さんはどこですか?]
「まだ戻って来てないよ。どうにして、ここへ来たのかい?」
と温室の世話をしているおばあさんが聞きました。
[神様ですわ。教えてください。私の坊やはどこにいるの?]
「私には分からないよ。お前さんは知っているかどうかわからないが、人間は誰でも命の花や木を持っている。
その木は外見は普通の木と変わりはないが、耳を押し当てて見ると心臓の鼓動の音がドキンドキンと打つのが聞こえてくるんだよ。
分ったかい、温室に入って自分で坊やを探してみるかい?」
お願いいたします。入らせて下さい。]
お母さんはひざまずいて必死にお願いしました。
「入れてやってもいいが、お礼は何をくれるかな?」
[私には何もないのです。けれどあなたの言うままに何でも致します]。す
「何にもないことはないよ。お前さんは美しい真っ黒な髪の毛をしている。
その真っ黒な髪の毛が欲しいよ。
代わりに、私の白髪をやろう。」
[もちろんいいですわ。]
お母さんがそういうとお母さんの真黒い髪の毛が白くなりました。
おばあさんは「し」の温室の戸を開きました。
お母さんは、死神が連れていった赤ちゃんを探すことができるでしょうか?
人間の宿命とは何か?
疑問を投げかけます。
続く‼