goo blog サービス終了のお知らせ 
見出し画像

冬のソナタに恋をして

スミレ



2人は誰もいないカフェで向き合っていた。ガラス張りのカフェは白を基調としていて、外からはさんさんと光が降り注いでいる。春はもうすぐそこだと言うのに、2人の間には、まだまだ寒い冬が残っているような気がする。


ユジンはチュンサンをまぶしそうに見つめた。彼にはもう会わないつもりだったから、会えたことがうれしくてたまらなかった。最後だからこそ、自分の目にしっかりと彼の姿を焼き付けたかったし、彼の負担にならないようにうれしい気持ちを押し殺して、なるべく平静を装って話そうと思っていた。今日の彼は、雪のような真っ白なタートルネックのセーターに、クリーム色のコートを着ていた。そして、金髪に近い茶色の髪がふわふわと顔の周りを彩り柔和な表情で笑っている。しかし、彼の顔色は記憶にあるよりもずっと悪く、ユジンはずいぶん心配した。

一方、チュンサンもまぶしそうにユジンを見つめていた。失明の可能性を考えると、この目で彼女を見ることが出来るのは最後かもしれない。そう思うと、彼女のすべてを目に焼き付けておきたくなった。今日のユジンは、黒のリボンがついたトップスを着ており、いつもカジュアルな服装のの彼女よりも少しだけおしゃれをしているようだった。チュンサンはユジンに会えた喜びで顔がほころぶのを止められなかった。しかし、そんなチュンサン見つめながらユジンは心配そうな顔をして言った。
 
「顔色が悪いわ。大丈夫?まるで病人みたい。」
 
「引っ越しの準備とか、荷造りとかで忙しいからね。」
 
「本当に明日、アメリカに行っちゃうのよね」
ユジンが寂しそうに言ったので、チュンサンはさりげなく話題を変えた。
「サンヒョクに留学するって聞いたよ。」
ユジンはチュンサンには話さないまま旅立つつもりだったので、気まずくなってうつむいた。
「ユジナ、、」
チュンサンはそう言うと、笑みを浮かべたままユジンをじっと見つめている。
「なあに?」
「ただ顔を見ておきたくて、、、最後かもしれないから」
そう言ってチュンサンはユジンをじっと見つめた。ユジンにしてみれば、チュンサンはユジンに2度と会うつもりはないだろうし、アメリカに発つ前に会いに来てくれたのだと思っていた。しかし、チュンサンとしては、命の危機もある中で、今生の別れになるのではないか、少なくとも失明したら本当に見られなくなると思い、ユジンのすべてを一つ一つ目に焼き付けておきたかったのだった。




「君に初めて会ったとき、本当に綺麗だと思った。あまりにもきれいすぎて本当に驚いたよ。」
チュンサンは遠い目をして初めてユジンに会った日をを思い起こしていた。春川第一高校に転校した初日、チュンサンとユジンは通学バスの中で出会った。僕が右側の一番後ろの席に座っていたら、彼女がやってきて隣の窓際の席に座ったんだ。そして僕の肩にもたれかかってウトウトと眠り始めて、、、。その時、僕はなんてきれいな子なんだろうってしげしげと見つめていた。君の無防備な仕草が信じられなかった。でも、ずっとそのままにはしておけずに、頭を向こう側に押したら、窓枠にぶつかってしまった。起きた君は眠りを邪魔されたから不機嫌で、僕のことをにらみつけていたっけ。目を開けたらその顔もかわいくて、思わず目をそらしてしまったよ。あの時からもう恋に落ちていたんだよ。チュンサンは愛おしく思いユジンを微笑んで見つめた。


「次に君に会ったときは、ひたむきに働く姿から目が離せなかったよ。」
10年の時を経てミニョンとして出会ったときは、僕の中のチュンサンに想いを寄せる君に戸惑った。彼はユジンの気持ちを知らなくて、自分の気を引こうと誘惑していると思い込んだ。しかし、そのうちに仕事へのひたむきな姿や優しさ、誠実さに心を奪われて、気が付くとずっと目で追うようになっていた。どんどん心の中が君でいっぱいになっていた。つい数か月前のことなのに、懐かしく思ってしまう。
「君はいつも輝いていたのに、その輝きを僕は守れなかった。いつも悲しませてばかりいたよね」
「チュンサン、そんなことないわ。貴方と会えてどんなに幸せだったか、、、わたし本当に幸せだったわ。」
ユジンは目に涙を浮かべて言った。



高校生だった時のチュンサンは冷たく見えたけれど、ただ孤独で不器用なだけだった。いつも彼だけの方法で愛情を伝えてくれた。南怡島で2度のデートをした時も、初めてのテープをくれた時も、ピアノを聴かせてくれた時も、山で迷ったときにポラリスについて話してくれた時も。2度目にミニョンとして出会った時もそうだった。はじめは傲慢で自己中心的な人かと思ったけれど、優柔不断な私をずっと待ち続けてくれた。サンヒョクや私に何度傷つけられてもただじっと耐えて、私の幸せだけを願ってくれた。そして、自分の身を挺して交通事故に遭ってしまった、、、。ユジンの心はチュンサンへの感謝と申し訳なさでいっぱいだった。


「ユジン、本当にありがとう。最後に僕の願いを聞いてくれる?どんな願いでも聞いてくれる?」
ユジンは涙を浮かべながら無理をして首を縦に振った。
「ええ、何でも聞いてあげる」
「じゃあ、サンヒョクと一緒に留学しろよ。」
「チュンサン?」
それを聞くとユジンの顔は曇った。
「サンヒョクなら僕も安心だ。あいつは君のことを心から愛しているから、君を絶対に守ってくれる」


「いやよ、、、、絶対に、、、嫌よ」
「お願いだから、サンヒョクなら君を幸せにできるから。僕のためだと思って、、、頼むよ。僕のために、、、幸せになれるように努力してくれよ、、、頼む」
言っているチュンサンの顔も苦渋満ちていたが、聞きながら涙を流すユジンの顔も、苦しさでゆがんでいた。二人はそれきり何も話さず、うつむいてしまうのだった。
失明するから、、、死んでしまうかもしれないから、、、、。
私たちは兄妹だから、、、、絶対に結婚できない間柄だから、、、、。
二人の想いは交差することはなく、それぞれの気持ちを言葉にすることなく沈黙は続いた。
そんな二人の背後に、いつかスキー場で聞いたスミレの曲が流れていた。その物悲しげだけれど明るいメロディーが二人の間を漂っているのだった。
 
僕が初めて君に出会った時
君は幼い少女で
髪にはすみれの花を飾っていたね
君は微笑みながら僕に言ったね
遥か遠くまで鳥のように飛んで行きたいと
 
僕が再び君に出会った時
君はとても痩せていて額には汗の雫
君は微笑みながら僕に言ったね
どんな小さな事でも涙が出てしまうと
 
僕が最後に君に出会った時
君はとても安らかな顔で
窓の向こうの遠くを見つめていた
君は微笑みながら僕に言ったね
どんなに暗い真夜中でも目覚めていたいと

(朗らかな少女がやがて病に侵されて床に臥せる歌らしいです。なんとなくの和訳のため、間違えてるかもしれません)

9話より


YouTubeより
  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「冬のソナタ 20話(最終話)」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2025年
2024年
人気記事