テレビを買い換えるために家電量販店へ行く日、最寄り駅まで歩く時も電車に乗っている時も、浮き浮きワクワク。
(新しいテレビ、新しいテレビ、うれしいナうれしいナうれしいナ)
新宿にある家電量販店の入り口で、フロア案内の看板を見なくても、テレビは何階かわかっている。ワクワク気分に包まれながら、エスカレーターで上がり、数々のテレビが並べてあるフロアのコーナーへ。
現在のと同じメーカー商品のソニーのブラビアと決めていたが、ひととおり他のメーカーの商品も見て回った。
リビングダイニングが9畳に満たないし正方形に近い形なので、あまり大きいサイズは部屋に圧迫感が出て狭く見えると思った。一回り大きなサイズの50インチのテレビを、現在の室内の広さで大丈夫と友人には言われていた。
――テレビは小さいほうが部屋は広く見える――
と、時々見るYouTubeで発信しているインテリア・コーディネーターのコメントも、記憶していた。そのインテリア・コーディネーターのチャンネルは、発見があったり感心したり見応えがあるので、一時期、毎日のように見ていた。
店内には70インチや90インチなど大型テレビがたくさん並べてあり、50インチは奥まったスペースに少しだけ置かれていた。
商品の詳細カードに書かれた液晶と有機ELの違いについて店員に聞こうと思い、通路側へ戻ってみると、少し離れた所に2人の男性店員が話し込んでいた。雑談ではなく、明らかに仕事の話という雰囲気である。
(中断させちゃ悪いみたい)
傍の商品のいくつかに眼をやりながら、少し待っていた。そんなところは結構、私はやさしい性格なのである。誰もそう言ってくれないけれど。
数分後、ゆっくりと歩み寄り、2人を見て立っていると、1人が、何か私が聞きたそうだと気づき、傍へ来た。2人のうち、多くを話していた先輩店員に見える爽やかルックスの店員さんで、内心、ホッとした。
「液晶と有機ELの違いについて説明して下さい」
そう言うと、店員さんは並べてある商品の液晶テレビと有機ELテレビに眼を向けたり手振りを混じえたりしながら、解像度や商品の薄さや視野の角度や色彩の濃淡などの違いを説明した。
あらためて液晶テレビと有機ELテレビの画面を見較べると、有機ELのほうが色彩が濃厚である。数回見較べて、
「有機ELのほうが色が、すごく濃いわね。見慣れているテレビが液晶のせいか、このテレビで嫌いな芸能人の顔がアップに映し出されたら、のけぞっちゃいそう」
思わず言うと、店員さんはフフフッと笑って、
「そうですね」
同感の言葉を口にする店員さんに、いっそう好感が持てた。
「確かに、くっきりと鮮やかな色彩だけれど、ちょっと不自然なほど濃いみたい。私は液晶のほうが好きだわ。ドキュメンタリーや報道番組ならまだしも、映画は穏やかというか自然な色彩のほうが絶対いいし好きだわ」
映画のシーンを思い浮かべながら液晶テレビと有機ELテレビのモニター画面を見較べて言った。
「サイズは50インチがいいんですけど、ソニーのブラビアの50インチは……」
「あ、こちらです」
多くのテレビが陳列されてある間の角を曲がったりしながら一番奥のスペースへ行く。
「これが50インチです」
「これね。いいわ、これ買います」
「ありがとうございます」
通路のほうへ2人で戻りかけた時、
「そうそう、去年、55インチのテレビに買い換えた知人がいるの。ブラビアの55インチ、ちょっと見てみたい」
そう言うと、爽やかルックス店員さんが、「こちらです」と案内してくれて、また角を曲がったりして戻り、55インチのブラビアを指さした。
その55インチのブラビアを見た私は、50インチよりサイズがかなり大きくなるというほどでもなく、見ているうちにそれのほうが買いたくなってしまった。
「私、こっちのほうがいいわ、これ欲しいわ、50インチより少し大きいだけでしょ? 部屋は広くないから大型は欲しくないけど、今のより少し大きいこれがいいわ、55インチのほうを買います」
「こちらですね。ありがとうございます。テレビ台は?」
「ソニーのシアターラックの上に置いてあるの。私が買った時はシアターラックという名称が、その後シアタースタンドになったみたい。40インチのテレビの幅とちょうど同じ幅なの。55インチだとモニターの両端が、どのくらいはみ出るかしら」
あまりはみ出たら、見た目が気になるかもと思ったが、それでもと55インチのほうを欲しくなっていた。
「置けるかな。ちょっと調べて来ます」
爽やかルックス店員さんはその場を離れ、店内のところどころに置かれているパソコンでサイズを調べに行った。
間もなく店員さんが戻って来た。
「15センチぐらい? 右側と左側にはみ出るの」
「いや、そんなには」
「10センチぐらい?」
「そのぐらいです。置けると思いますけど、置けなかったら50インチのほうと交換ということで」
「はい」
「じゃ、こちらへ」
案内されて購入の手続きのテーブルへ。
ということで、その翌週、新しいテレビが配送された。
ところが――。
スピーカーの下に2台のビデオレコーダーが上下に設置されているシアタースタンドの上に、購入したテレビが置けなかったのである。 〔続く〕
(新しいテレビ、新しいテレビ、うれしいナうれしいナうれしいナ)
新宿にある家電量販店の入り口で、フロア案内の看板を見なくても、テレビは何階かわかっている。ワクワク気分に包まれながら、エスカレーターで上がり、数々のテレビが並べてあるフロアのコーナーへ。
現在のと同じメーカー商品のソニーのブラビアと決めていたが、ひととおり他のメーカーの商品も見て回った。
リビングダイニングが9畳に満たないし正方形に近い形なので、あまり大きいサイズは部屋に圧迫感が出て狭く見えると思った。一回り大きなサイズの50インチのテレビを、現在の室内の広さで大丈夫と友人には言われていた。
――テレビは小さいほうが部屋は広く見える――
と、時々見るYouTubeで発信しているインテリア・コーディネーターのコメントも、記憶していた。そのインテリア・コーディネーターのチャンネルは、発見があったり感心したり見応えがあるので、一時期、毎日のように見ていた。
店内には70インチや90インチなど大型テレビがたくさん並べてあり、50インチは奥まったスペースに少しだけ置かれていた。
商品の詳細カードに書かれた液晶と有機ELの違いについて店員に聞こうと思い、通路側へ戻ってみると、少し離れた所に2人の男性店員が話し込んでいた。雑談ではなく、明らかに仕事の話という雰囲気である。
(中断させちゃ悪いみたい)
傍の商品のいくつかに眼をやりながら、少し待っていた。そんなところは結構、私はやさしい性格なのである。誰もそう言ってくれないけれど。
数分後、ゆっくりと歩み寄り、2人を見て立っていると、1人が、何か私が聞きたそうだと気づき、傍へ来た。2人のうち、多くを話していた先輩店員に見える爽やかルックスの店員さんで、内心、ホッとした。
「液晶と有機ELの違いについて説明して下さい」
そう言うと、店員さんは並べてある商品の液晶テレビと有機ELテレビに眼を向けたり手振りを混じえたりしながら、解像度や商品の薄さや視野の角度や色彩の濃淡などの違いを説明した。
あらためて液晶テレビと有機ELテレビの画面を見較べると、有機ELのほうが色彩が濃厚である。数回見較べて、
「有機ELのほうが色が、すごく濃いわね。見慣れているテレビが液晶のせいか、このテレビで嫌いな芸能人の顔がアップに映し出されたら、のけぞっちゃいそう」
思わず言うと、店員さんはフフフッと笑って、
「そうですね」
同感の言葉を口にする店員さんに、いっそう好感が持てた。
「確かに、くっきりと鮮やかな色彩だけれど、ちょっと不自然なほど濃いみたい。私は液晶のほうが好きだわ。ドキュメンタリーや報道番組ならまだしも、映画は穏やかというか自然な色彩のほうが絶対いいし好きだわ」
映画のシーンを思い浮かべながら液晶テレビと有機ELテレビのモニター画面を見較べて言った。
「サイズは50インチがいいんですけど、ソニーのブラビアの50インチは……」
「あ、こちらです」
多くのテレビが陳列されてある間の角を曲がったりしながら一番奥のスペースへ行く。
「これが50インチです」
「これね。いいわ、これ買います」
「ありがとうございます」
通路のほうへ2人で戻りかけた時、
「そうそう、去年、55インチのテレビに買い換えた知人がいるの。ブラビアの55インチ、ちょっと見てみたい」
そう言うと、爽やかルックス店員さんが、「こちらです」と案内してくれて、また角を曲がったりして戻り、55インチのブラビアを指さした。
その55インチのブラビアを見た私は、50インチよりサイズがかなり大きくなるというほどでもなく、見ているうちにそれのほうが買いたくなってしまった。
「私、こっちのほうがいいわ、これ欲しいわ、50インチより少し大きいだけでしょ? 部屋は広くないから大型は欲しくないけど、今のより少し大きいこれがいいわ、55インチのほうを買います」
「こちらですね。ありがとうございます。テレビ台は?」
「ソニーのシアターラックの上に置いてあるの。私が買った時はシアターラックという名称が、その後シアタースタンドになったみたい。40インチのテレビの幅とちょうど同じ幅なの。55インチだとモニターの両端が、どのくらいはみ出るかしら」
あまりはみ出たら、見た目が気になるかもと思ったが、それでもと55インチのほうを欲しくなっていた。
「置けるかな。ちょっと調べて来ます」
爽やかルックス店員さんはその場を離れ、店内のところどころに置かれているパソコンでサイズを調べに行った。
間もなく店員さんが戻って来た。
「15センチぐらい? 右側と左側にはみ出るの」
「いや、そんなには」
「10センチぐらい?」
「そのぐらいです。置けると思いますけど、置けなかったら50インチのほうと交換ということで」
「はい」
「じゃ、こちらへ」
案内されて購入の手続きのテーブルへ。
ということで、その翌週、新しいテレビが配送された。
ところが――。
スピーカーの下に2台のビデオレコーダーが上下に設置されているシアタースタンドの上に、購入したテレビが置けなかったのである。 〔続く〕