一条きらら 近況

【 近況&身辺雑記 】

字幕の魅力

2013年03月25日 | 最近のできごと
 もし、オペラを観る時、字幕付きでなかったら興味を持てなかったと思う。ずっと以前、ある有名人が、イタリア語がわからなくてもオペラを観て感動したとエッセイに書いているのを読んで驚いたことがある。オペラを観たことがなかったので、私にはそんな楽しみ方はできないと思い、オペラ鑑賞とは無縁と思い込んでいた。ところが、ちゃんと字幕が付くと知って、興味を持ったのである。
 また、テレビでよく観る映画の洋画は、すべて字幕付き。吹き替えは、その俳優の声ではないし、原語を聞きながらでないと楽しめないし感動できないからである。
 先日、NHKで『市川團十郎の至芸 歌舞伎『勧進帳』『暫』 市川團十郎さんをしのんで』という番組を観た。『勧進帳』は以前、歌舞伎座で観た記憶があるが、あまり楽しめないかもと予想していた。歌舞伎は、抑揚をつけた古語体のセリフや、独特の言い回しが多いので、理解し難(にく)いことが多いからである。番組を録画して観たのだが、最初の少しだけのつもりでいたら、思いがけなく、字幕が付いていて、歌舞伎座で観た時より楽しめた。古語体のセリフや独特の言い回しが、漢字の多い字幕を見ると、理解しやすいからだった。そういう意味だったのねと思えるようなセリフが随所にあって、最後まで観てしまった。ただし、『暫』は楽しめなかったので途中まで。
 もし、歌舞伎座でもオペラの劇場のように字幕を付けたら、私のように歌舞伎ファンではなくてもちょっと観たいと思う観客が増えるのではないかと思った。
 また、字幕は、映画でもオペラでも翻訳者の言葉のセンスによって、微妙に違うことが少なくない。数年前、テレビでリヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』というオペラを観た時、公爵夫人が、愛人の若い伯爵への想いを切々と歌うアリアで、
 ──あなたを正しく愛するでしょう──
 という字幕に、
(正しく愛するって、どういう意味? 正しい愛し方と、正しくない愛し方って、どう違うの? 愛するのに正しいも正しくないもないでしょう)
 と、気になってしまった。
 その数年後、別の公演の『ばらの騎士』を、やはりテレビで観たら、同じアリアで、
 ──穏やかな愛で、あなたを包むでしょう──
 という字幕になっていて、感情移入できた。多分、〈正しく愛する〉は直訳に近く、〈穏やかな愛〉は意訳なのだと思う。
 また、好きな映画は何度も観るが、同じ映画でもDVDとテレビでは、字幕が微妙に違う箇所があるのを、気づくことがある。どちらが好きかは感性によると思うけれど、映画もオペラも私にとって字幕の言葉は大事。字幕の言葉に、美しさや面白さやセンスの良さを感じたり感動したりするので、字幕の言葉を含めての感動であり楽しさと言ってもいいような気がする。
 歌舞伎も、劇場でもテレビでも字幕が付いていたら、現在より興味を持つかもしれないと思った。






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