一条きらら 近況

【 近況&身辺雑記 】

家庭がクリニック

2012年12月22日 | 最近のできごと
 先日、友人のSさんから同人誌が送られてきた。誌名も表紙もずっと変わらないその同人誌を手に取って、
(なつかしい~)
 思わず、そう呟いた。30年以上も続いている文芸同人誌である。ずっと以前に私は脱会してしまったが、発行すると必ず送ってくれる。
 目次を見て、えっと思ったのは、Sさんはいつも長編を発表するのに、珍しく掌編である。
 すぐに読んでみた。Sさんらしい作品で、味わい深い掌編だった。
 もう一度、目次を見ると、知っている作者名は、わずか数人。私が参加していたころの同人数は、年々、減っていた。
 Sさんに感想の手紙を書こうかと思ったが、
(たまには、電話してみようっと)
 楽しい思いつきで、そう決めた。Sさんは開業医で、その日の午後は診療が休みのはずだった。
 電話をかけ、数回のコール音の後、いったん切った。電話に出られない状況かもしれないし、かけられる時にかかってくるかもと待ちながら、なつかしい同人誌をまたパラパラとめくっていた。
 するとSさんから電話がかかってきた。
「今日の午後は休みでしょう?」
「うん、そう。風邪気味でウトウトしてた」
「あら、起こしちゃったの? ごめんなさい」
「いやいや、きみからの電話は大歓迎」
「◇◇(同人誌名)、届きました。送って下さってありがとうございます。よく続きますね。敬服しちゃう」
「だけど昔と違うから。編集長の△△さんが知人をどんどん入れちゃうから。小説は少ないでしょう」
「目次の作者名、私の知らない人ばかり。Sさんの他は○○さんと○○さんだけね、私がいたころからの人って」
「ぼくも知らない人が多いし、最近はもう、原稿送るだけ。△△さんから原稿が集まらないから何か書いてくれって言われて」
「例会は?」
「あまり出ないね」
「Sさんの□□□(作品タイトル)読みました。味わいのある、いい掌編ですね」
「そう、ありがとう」
「体験でしょう? リアリティがあったわ。特別な女性、いたのね」
「違う違う、フィクション。あそこへは行ったことあるけど」
 作品の感想の後は、互いの近況の話。私は主に母の話。
「きみのお母さんは元気で長生きするよ」
 医師のSさんからそう言われると、うれしくなる。Sさんは仕事の話もするが、本音みたいな愚痴もいろいろ口にする。
「ほとんどの病気はストレスが原因だからね」
 Sさんは言った。その考え方は、何度も聞いている。
「私も自覚しないストレスはあると思うけど」
「ストレスと言ってもいろいろあるけど暑さ寒さの環境ストレスだの仕事ストレスだの対人関係ストレスだのより、一番病気のもとになるのが家族ストレス。人間、毎日、いろんなストレスにさらされる。ガン細胞は毎日できてはやっつけてくれる細胞が働いて消えるのと同じように、毎日の環境ストレス、対人関係ストレス、仕事ストレスは自宅に帰って家庭で改善、軽減、解消されるはずなんだ。ところが家族ストレスがあると、それができないで体調不良になり、病気になる」
「じゃ、家庭がない人は?」
「家庭は1人だって2人だって3人だって、家庭さ。自宅が家庭。体調不良や病気を予防するのは、毎日さらされるストレスを、毎日解消する家庭なんだ。病院や診療所に来れば魔法みたいに治ると思ってるけど、家庭でストレス解消できなければ、いつまで経っても治らないし、別の病気にもなる。本当は家庭こそがクリニックなんだ」
「ふうん。それで、Sさんは、うちはストレスを解消する家庭って言いたいんでしょう」
「とんでもない。家族ストレスで、今だって風邪ひいてる」
「Sさんの家族ストレスって、具体的にどんな?」
「いろいろあるけどさ。そうだな、たとえば食卓に夫婦向かい合って、テーブルの上に昨日作った料理があるけど、2人とも今日作った料理ばかり食べてて昨日のは食べなくて、あなた食べなさいよ、お前食べろよ、って喧嘩になる」
「えええっ!」
 私は思わず、噴き出してしまった。思いも寄らない具体例で、本当かしらと半信半疑になる。
「そんなこと喧嘩って言えるのオ?」
「そういう雰囲気がストレスになるってこと」
「私を笑わせるための作り話じゃないでしょうね」
「本当だよう。その家族ストレスが蓄積されて、他のストレスも解消されない家庭になって病気になる。テレビでよく、家族の誰かがガンになって闘病して、家族の絆って言葉が出るのがワン・パターンだけど、そのガンは家族ストレスの蓄積ってことは考えないんだよね。考えないし、自覚しない」
「ふうん。何となくわかる。ねえ、もしかしたらSさんて名医なんじゃない?」
 お世辞ではなく、私は言った。もっとも、Sさんの診察を、私は受けたことがない。名医と言われて謙遜するかと思ったら、違っていた。
「そうだよう。みんなテレビに出る医者だけが名医と思ってるけど、だいたい、ああいう医者たちは……っていうことだし、あの何々って肩書きの▽▽だってテレビではあんなこと言ってるけど本当はさ……」
 と、多少は嫉妬もあるような口調で他の医師批判が延々と続き、私を楽しませてくれた。医師が他の医師批判する話ほど面白い話はない、と言いたいくらいである。
「毎日のストレスを解消するのが家庭で、家族ストレスが病気のもとっていうのも、医師のSさんが言うと信じられるけれど、私は病気や体調不良は神様の罰っていう考え方をずっとしてたわ」
「神様の罰ねえ、それはまた、きみらしい考え方だね」
「だって、忘れもしない2009年2月に風邪をひいた時、ある人を傷つけることを言って、後になってそのことに気づいたけど、神様の罰が当たって、夜中に目が覚めるほどのつらい風邪をひいたの。間違いなく、あれは神様の罰だわ」
「2009年2月? それ以降は風邪ひいてないんだ」
「ええ。神様の罰が当たらない生活してたから。それから忘れもしない2005年5月の体調不良の時も、ある人を傷つけて、後になって気がついたけど、やっぱり神様の罰が当たったの。神様って言っても、私にとっての神様、私の中の神様よ、クリスチャンでもないしね」
「だけどきみは元気だよ。まあ、罰だとしたら、その程度の罰ですむんだから。毎日のストレスを毎日解消する家庭だからなんだ」
「そうだといいけど。好きな時間に寝て好きな時間に起きて仕事を少しして、したいこと好きなことだけをしようと決めて、精神衛生に良くないことはなるべく避けるようにして、健康情報に振り回されないで、ひたすら好きなように生活するのが理想だわ」
「それが一番なんだ。病気の原因はストレスなんだから。きみは健康そのもの」
「医師のSさんにそう言われると安心だけど、でもね、健康を過信して、病気の人に優越感みたいな気持ちを持ったら、絶対、神様の罰が当たると思うの。だから、私だっていつか病気になるって周囲には言ってるの」
「アハハハハ、それがいいよ、アハハハハッ」
「そんなにおかしい? 私ってアホでノーテンキな女って思ってる?」
「思ってない思ってない。きみはね……」
 というような会話のやり取りをして、電話を切った後、思い出し笑いしたくなるようなSさんの言葉が特に印象に残った。



 ※ポインセチアの花言葉=聖なる願い・祝福・私の心は燃えている





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