2009-07-11
5.闘いの始まり
タケルは、自分のMフォンがないことに気付いて、ニックに向かって叫んだ。
「オイ! オレのMフォン、どこへやったんだ!」
「バーカ! オマエのMフォンから足がついたら、警察が動くだろう。ホスピタルにおいて来たンダヨ!」
「あれがなきゃ、ヒロと話ができないじゃンか! アイツと話す必要がないなら、オレがここにいる必要もないだろ!」
「そうさ。オマエはオレの代わりにホスピタルへ戻れ! シーナは、オレが地球まで連れてってやる。オレは、そのあとで他の星を目指すンだ。
いいだろ? シーナ…」
シーナ、つまりウェンディは、あきれた顔をしてニックに言った。
「ニック。アンタにできるンなら、とっくに出発してるよ。アンタには、足りないモノがあるンだ…」
「何が足りないってンダヨ! 自信ならあるぜ、ゲームで鍛えたからな」
「つまんない自信なンかより、地球に行きたいって気持ちが必要なンだ。アンタには、それがない。だからタケルみたいな子を探してたンだ」
タケルは、それを否定するように、キララ…シーナでもありウェンディに向かって叫んだ。
「だから、言ったろ? オレは、まだ地球に帰るかどうか決めてないンだ。だいたい、子供だけで、どうやって地球へ行くって言うンだ。
無茶だよ! 冗談じゃない! 」
しかし、ウェンディは平然と言った。
「もう決めたことなンだ。準備ができ次第、出発するよ。早くしないと、奴らは入り口を爆発させて、この中に入ってくるつもりだ。アタシは、そうはさせないけどね…」
ウェンディは、子供達にそれぞれの役割を伝えると、すぐに4人の子供と一緒に消えた。
残された3人の子供達は、戦闘服に着替えると、ショック銃を持ち、入り口に作ってある窓から外を監視した。
しばらくすると、外の方で怒鳴り声が聞こえた。
「中にいるのは、わかってるンだ! オレ達の言うこと聞かないと、痛い目に遭うぞ! 助けて欲しかったら、おとなしく入り口を開けろ! 」
それに答えるように、子供の1人が叫んだ。
「オレ達は、銃を持ってるンだ! 近づいたら、遠慮なしに発砲するぞ!
いいか、ホンモノだぞ!」
「そんなこと、本気にするとでも思っているのか! ガキの癖に、生意気な口聞きやがって!
大人をからかうンじゃないぞ! 本気で痛い目に遭わせてやるからな!」
テーブルに残されたニックとタケルは、何が始まるンだろうと、入り口の子供達を見守っていた。
子供達の頭の動きから、外の男達が近づいているのがわかる。
緊張した空気の中で、3人の子供は、目配せして銃の発射準備を整えた。
「よーい、発射!」
外でううっと、男のうめき声が聞こえた。
「この野郎! ナメたことしやがって! 殺されてぇのか?
銃を捨てないと、宇宙船ごと爆発するぞ!」
しかし、子供達はひるまなかった。男達めがけて、銃を乱射した。何人かが、悲鳴をあげながら、ショック状態に陥って、倒れたようだ。
残った男達も、倒れた仲間を引きずって、銃の当たらない場所へと逃げて行ったらしい。
「ウェンディが帰って来るまで、絶対入り口に近づけないようにしなきゃ」
「でも、マジでビビッたよ。ゲームは慣れてるけど、ホンモノだもの。
やらなきゃ、やられるってわかっても、やっぱり怖いよな」
「そうだよな。…戦争って、こんなモンなのかな。
自分が殺されないために、相手を殺さなきゃいけないンだ…。
オレ、コズミック防衛軍に入りたかったンだ…」
子供達の会話を聞きながら、タケルは映画かゲームの仮想世界へ、入り込んでしまったように感じた。
しかも、これは夢ではなさそうだ。
ウェンディと他の子供達が、手にいっぱいモノを持って現れた。
「買い物は、これでおしまいだ。あとは出発準備だけだね。みんな、ご苦労さン。荷物をしまったらちょっと休憩して、見張りを交代してやりな」
荷物を抱えた子供達は、早速片付けに取り掛かった。
「オイ、タケル! アンタにプレゼントダヨ!」
ウェンディは、タケルのMフォンを見せた。
「ナンだ? ここがバレても、いいのかよ! もういい、わかった。オレは降りるぜ! シーナには、オレは必要なかったってことだな。あばよ!」
ニックは不機嫌そうに立ち上がった。
入り口の子供に向かって「どきな!」と大声で追い散らし、そのまま宇宙船から出て行った。
タケルのMフォンから、着信音が聞こえた。タケルには、音は聞こえづらくなっているが、大好きな宇宙戦艦ヤマトのテーマ曲だ。
ウェンディからMフォンを投げ渡され、タケルはあわててそれを受け取った。
「えっ? ひょっとして…」
タケルは、キラシャからのメールにも、この着信音を設定していた。
『タケル、元気? こっちもみんな元気だよ。
あたしもみんなも無事に進級できたみたい。
いつ、帰って来れるの?
タケル、早く会いたいよ!
返事待ってるね…』
キラシャの笑顔が空中に浮かんで消えた。タケルは、もっと長く見ていたいと思った。
「会いたいだろ?
タケル、アンタは地球に帰るようになってンだ。
必ずここへ~帰ってくると~♪ ってね…」
「でもさ…」
それでも、タケルは不安を抱えていた。
「何とかなるって…。アタシだって、支えてやるよ。
アンタの好きなキラシャには、かなわないけどさ」
「でも、どうやって地球へ…」
「大丈夫だよ。操縦士やってくれる奴がいるンだ。
アンタは信じないだろうけど、アタシはアイツ等とは違うンだ。
この子達を悪い奴から守るためなンだ!
じゃぁ、その操縦士を連れてくるよ…」
ウェンディは、そう言うとすぐに消えてしまった。
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