未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第2章 未来のスクール ①②③

2021-08-26 20:04:49 | 未来記

2005-01-24

1.子供部屋(1)

 

さて、スクールに隣接したチルドレンズ・ハウスでは、どんな生活を送っているのだろう。

 

MFiエリアの子供は、生まれてすぐから保育コースが修了するまでの間、朝から晩まで同じ年の子が大きな部屋の中で、集団生活をしている。

 

初級コースに進むと、上級コースを卒業するまで、年齢が入り混じった子供部屋で一緒に寝起きする。

 

新しい部屋に入りたての子供は、知らない上の学年の子ばかりの部屋の生活になじめず、今までいた部屋に戻る子がいたり、保護者の家へだまって帰ろうとする子がいたりする。

 

そのたびに、先生やスタッフが、大慌てで子供を探し回ったり、部屋に連れ戻したり、その部屋に慣れるまで、付き添いのスタッフがそばで寝起きしたり…。

 

そんな周りの苦労もお構いなく、子供達は部屋でお互いの権利を主張しては、ケンカを繰り返す。

 

先生もスタッフも、時には怒鳴ったり、涙を浮かべて抱きしめたり、一緒に泣き、笑いながら、新しい環境に慣れるまで辛抱強く見守っている。

 

特に管理が厳しくて、戦争を禁止している平和的なMFiエリアは、ひとときの安住を求める移住者が、一時的に落ち着ける場所を提供した。

 

近くで災害や戦争などがあると、MFiエリアの人口が急劇に増え、時間が経つと、管理の厳しいこのエリアのルールになじめず、潮が引くように人口が減ってゆく…。

 

つまり、他のエリアに比べると、入ってくる人も多いが、出てゆく人も多い。

 

タケルが火星行きを決めた同じ時期、新たに火星への移住を志す親と一緒に、たくさんの子供達がチルドレンズ・ハウスを離れた。

 

これから、この物語を読んでくれる人に、お願いしたい。なるべく簡単に、登場人物を説明したいので、名前はファースト・ネームか、ニックネームだけを使うことを許してほしい。

 

何しろ、ひとりひとりがコードで判別される未来では、ファミリー・ネームは、成人になって働く時の名称として使われるが、子供達同士の呼びかけには使わない。

 

ファミリー・ネームだから、親の名前を継ぐ子供は多いが、スクールを卒業するときに、父親か母親かどちらかを選んで、自分のファミリーネームとする。

 

どのエリアに所属するのかも、自分で選択できる。

 

生まれたときにつけられた名前も、その名前に不満があるとか、自分の気に入った名前にしたいときも、卒業のときに決められる。

 

キラシャと同じ時期に生まれた子供の中には、混乱のさなか、性の暴力行為によって、中絶もできず、生まれた子供達が大勢いる。

 

母親が名前も告げず、子供を手放すことが多かったので、救済措置として、子供が成人するときに、自分で名前を決める権利が、新しいルールによって与えられた。

 

もちろん、有名な人物はスクールのテキストやテスト問題に登場するので、子供でもフルネームを覚える必要があるし、スクールで表彰されるときは、ファミリー・ネームで呼ばれる。

 

ファミリー・ネームが知られることは、名誉ではあるのだ。

 

それから、未来でも男女の区別や差別をなくすことで、平等社会をめざしているが、スクールの中級コースから上級コースになると、女性は妊娠可能な身体に成長する。

 

ピコ・マシンが妊娠をブロックしていても、100%ではない。

 

中級コースでは、スクールにいる間に妊娠すれば、中絶というつらい思いをする女の子がいるということをルールの1つとして、学ぶようになる。

 

チルドレンズ・ハウスでは、男子と女子は別の棟に分かれて生活する。

 

上級コースになって、恋愛学を選択しても、パートナーに会うためにお互いの部屋を行き来するのは、許可が出たときのみ。

 

チルドレンズ・ハウスでは、パトロール隊員が常に移動しながら、パートナー同士の性行為の有無をチェックしている。

 

仲の良い恋人でも、会えるのは、食堂とスクールにいる間だけ。

 

年に一度のヴァレンタイン・デーも、チルドレンズ・ハウスでプレゼントを渡す場合は、受付で相手のボックスに転送してもらうことしかできない。

 

ボックスに入りきらないほどプレゼントをもらう子には、災害時に使用する広い部屋にプレゼントを重ねて置き、後で取りに来るようにMフォンで指示がある。

 

中には、男の子(女の子)の身体で、女の子(男の子)の心を持つ、トランスジェンダーの子供達もいる。

 

卒業すれば、性転換は自由だが、スクールにいる間は、身体の男女で区別し、お互いの気持ちを理解し合えるトランスジェンダーの子供達が、同じ部屋で生活しているようだ。

 

では、キラシャの部屋の住民を簡単に紹介しておこう。

  

最上級生の子は、15歳のケイ。

  

オシャレで素敵なデザインの宝石を見ると、何時間もずっと夢の世界にいられる彼女は、宝石のデザイナーを目指し、卒業後の進路も、デザイナー・カレッジと決まっている。

 

 

デザイナーとしての才能はAクラスなので、あとは卒業テストに合格できれば、それがカレッジへの入学許可となる。

 

上級コースは実技が多いので、卒業テストには、語学やスクールで習った知識や計算力の他に、社会人として必要なルールやマナーなど、どれだけ身につけているかを試される。

 

ケイは恋愛学のパートナーで、同じ年のボブと、仲良くテスト勉強に励んでいる。 

 

恋愛学では、パートナーを選ぶ目を養い、助け合って生活するための心構えを身につけることが目標だから、卒業テストはパートナーと取り組むのが普通である。

 

2人の将来や恋愛についての考えなど、話し合った結果をレポートしなくてはならない。自然と恋愛を楽しむ、雰囲気の良いカップルも出てくる。

 

逆に、お互い背中を向けたまま、しかたなく恋愛学で出された宿題のレポートを作成する、気の毒なカップルもいる。

 

好奇心の強い男の子や女の子達にとって、同じ年ごろの子が相手では物足りない子も多い。

   

そこで恋愛学には、管理局に選出された社会人も、希望者に参加してもらっている。

 

自分のスクール時代に、良きパートナーを見つけられなかった人も、数多く登録しているので、人材に不足することはないようだ。

 

ただし、社会人は登録されるまでにいろいろな検査や面接を受けて、合格した人に限定される。

 

問題は、恋愛学の授業がある時間、仕事を途中で抜けなくてはならないので、その分の給料は会社等から引かれることだ。

 

会社の方は、アルバイトを安く雇って、仕事を回しているが、アルバイトの方が仕事をうまくこなしていると評価された場合、仕事を休んでいた方が不利な待遇に陥りやすい。

 

そういった面も含めて、社会人達は恋愛学を受けるかどうか、慎重に選択しなくてはならない。

 

スクールの生徒達は、Mフォンで登録している人物を検索し、自分の好みの相手を選択する。

 

付き合ってみて、途中で相手を変えたいという希望にも、恋愛カウンセラーによるアドバイスを受けた後、お互いにキチンと話し合いがついてからだったら、変更可能だ。

 

付き合う相手は、必ずしも異性でないといけないというわけではない。

 

トランスジェンダーなど、同じ性の人に興味を持つ生徒は、同じ考えの人を見つけて恋愛学を学ぶことも可能だ。

 

この授業でお互いが好意を持つようになると、人間の自然な成り行きとして、キスや抱擁までは許されている。  

 

ただし、例え社会人であっても、スクール以外の場所であっても、それ以上の関係は、相手がスクールを卒業するまでお預けだ。

  

参加者には、事前にエッチに反応しないようなピコ・マシンが注入されているし、パトロール隊がいつでも見回っているので、スクール内でのみだらな行為は命取りだ。

 

例え、エッチを強要しようとしても、恐怖感や興奮が、すぐに体内のピコ・マシンに感知され、Mフォンが、これでもかと耳をつんざくような警報を鳴らし始める。  

 

この警報が、あまりに長く続くと、Mフォンがすぐに位置と不法行為を通報するので、すぐにパトロール隊員がやってきて、厳重注意を受けることになる。

 

これは、スクールから離れた所でも、適用される。

 

体内のピコ・マシンには、男性には××が働かないように、女性には妊娠をブロックするための機能も追加されるので、マシンの状態に問題がなければ、妊娠は不可能だ。 

 

何とも未来は、味気ない社会だなと思うかもしれないが、ドームの人口調整のためには、やむを得ない措置なのだ。

 

それでも、ほっておくと若い者同士、ちょっとした感情のすれ違いで、ケンカを繰り返しては、簡単に出会いと別れを繰り返してしまう。

 

自分本位で、分別のつかない若者も多い。ちょっとしたことが犯罪に発展して、事件を起こし、大きな混乱にもなりかねない。

 

社会人として、マナーを身につけた上で、性的な防犯対策として、恋愛学が設置されたというわけだ。

 

恋愛関係に役立つような経験を積み重ねながら、自分に合った相手を見つけることで、より良い人生を送ることも、この授業のねらいである。

 

 

さて、話がそれてしまったが、この部屋の最上級生ケイは、この恋愛学で良きパートナーを得たようである。

 

幸せそうなハートを周りに飛ばしながら、2人の新しい生活のために、迎えに来たボブと楽しそうに買い物へ出かけている。

 

しかし、こんな素敵なカップルがそばにいると、キラシャは大好きだったタケルを思い出しては、涙が出そうになる。

 

あんなに信頼し合っていると、思っていたタケルなのに…。

 

タケルが一言も何も言わず、目の前から消えてしまったこともショックだったが、火星に行ったまま、上級コースになってもタケルが帰って来なかったら…。

 

ケイのような、お似合いのパートナーに出会えるンだろうか…? キラシャは、日増しに不安な気持ちになり、ため息をついては自分の将来を思った。

 

2005-01-28

2.子供部屋(2)

 

キラシャの部屋の住人は、卒業前のケイを含めて今のところ20人弱だが、明日になれば何人に変わるかわからない。

 

主な人物の紹介をしておこう。

 

14歳のルディは、理知的な上級コースの2年生。宇宙ステーションで生まれたが、流星騒ぎで命からがら家族と地球へと戻って来た。

 

それでも、いつかは宇宙へ帰りたくて、将来は宇宙船の飛行士を目指している。

 

宇宙でどんな危険に遭うかわからないから、ドームの外出許可を取るための厳しい訓練を受け、スポーツはオリン・ゲーム(オリエンテーリングの未来版)を選択している。

 

オリン・ゲームは、初級・中級・上級レベルに分かれている。

 

スクールでも、スポーツの選択科目のひとつで、大人になっても、この競技に参加を希望する冒険好きな人は多い。

 

初級・中級レベルは、ドームの中で行うが、上級レベルになると、ドームの外で行う。

 

ドームの外は風も強く、視界も悪い。何が起こるか予測できない危険もあり、天候の急な変化によって、行方不明になった生徒もいたようだ。

 

この競技には、スクール時代にその魅力に取りつかれた人が多く、社会人の参加も可能だ。

 

エリアの大会もあり、上位に入賞するとバッジももらえる。冒険好きな子供には人気があるが、子供の危険を心配する保護者には不評だ。

 

上級レベルのチームは2人1組で、相手は誰と組んでも良いが、危険を伴うので、たいていは恋愛学で知り合った、信頼できるパートナーを選んでいるようだ。

 

ドームの外出許可証を取り、2人で練習を積み重ねて、パートナーと仲良くやっている姿をみんなにも見てもらいたい、といった動機で参加する者もいる。

 

ルディも付き合って2年目のジャンと、仲良くオリン・ゲームのトレーニング。ルディもきれいだが、同じ年のジャンもカッコいいので、みんなからうらやましがられている。

 

 

13歳のキャメルは、上級コースの1年生。目がパッチリして背も高く、モデル志望。ただ、声がアニメの声優のようで、怒り出すとキンキン声になってしまう。

 

恋愛学はようやく1年かけて、納得した相手を選べたようだ。相手のウィルは社会人。アニメが大好きで、特にキャメルの声が気に入ってるらしい。

 

  

中級コースのコニーとカシュー。2人はいとこ同士。年齢は12歳と11歳で、担任の先生に直訴して、同じ部屋になった。

 

2人ともマイペースで、流行りの曲にアレンジを加えて、ダンスを楽しんでいる。将来は、テーマ・パークのダンサーが目標だ。

 

男性にはあまり興味がなく、なるべく2人でいる時間を増やしたいので、恋愛学は一緒に受けようと相談しているらしい。

 

そして、まだ10歳のキラシャ。 

 

明るくて愛嬌はあるのだが、じっとしているのが苦手。自分でも気がつかない間に、目立ったことをしてしまっている。

 

上級生には説教され、イジメっ子にワナをはめられ、しょっちゅう痛い思いをしている。

 

負けず嫌いで反射神経も抜群なので、やられたらすぐにやり返す。だから、反省ルームや裁判のお世話になることが多いのだ。

 

 

中級コースのリコも10歳。チルドレンズ・ハウスでは、誕生日を月ごとに祝うのだが、キラシャの方がひと月だけお姉さんだ。

 

 

キラシャの通うスクールでは、毎年、進級テストと卒業テストが終わった後に、さまざまな分野で優秀だった生徒の表彰式がある。

 

MFi語や共通語で、テーマのある主張をする生徒。特殊な知識・技能を身につけた生徒。スポーツで活躍した生徒。

 

芸術分野で才能を発揮した生徒。ルールを守り、スクールの評判に貢献した生徒等。

 

そして、恋愛学は卒業生の中から、模範となった最優秀カップルが表彰され、さらに生徒による投票で、ベストカップル賞が選ばれる。

 

この栄誉を勝ち取った2組のカップルは、周りの声援を受けながら、ステージの上でお互いにハート・マークのバッジを胸につけ合い、熱いキッスを交わすのが恒例になっている。

 

 

共通語をうまく話せないキラシャと違い、リコは流暢で、いろんなエリアの言葉で簡単な会話もできる。成績も良いので、表彰されることが多い。

 

キラシャはこれまで、イルカの調教と水泳の素潜りの優勝で表彰されただけ…。

 

海洋牧場にいる魚の名前なら、おじいさんに教えてもらったので、たくさん知っているが、スクールの成績にはあまり関係ないので、表彰されることはない。

 

ちなみに、ここで表彰されることで、希望のカレッジへの推薦という道も開けてくるのだ。

  

 

2005-02-02

3.子供部屋(3)

 

子供部屋の住人の説明に戻ろう。

 

キラシャと同じくらいの学年には、ユワン・ミニョ・マラ・タリ・ムタキ・ニアヌという、地球上のあちこちで発生する、エリアの紛争から逃げて来た難民の子供達がいる。

 

この子供達は移民クラスに在籍していて、スクールではほとんど会うことがない。

 

スクールでは、難民の子供達の実情を授業で学んでいるから、一緒の部屋にいる間に、このエリアが安全であることを伝えて、安心してもらえるよう先生から指導を受けている。

 

同じ地球上で、これほど便利な世の中になっていても、同じ人間同士が戦争で殺し合いをする状況が続いているエリアも、まだあるのだ。

 

ただ、エリアによっては、内政不干渉を主張する政府もあって、難民の子供達が打ち解けて話せる状況にない場合が多い。

 

自分のエリアで起きたことを話すと、後でまた怖い目に遭うのではと、口を閉ざす子もいる。同じ部屋の子は、気にかけながらも、そっとしておいてあげることしかできない。

 

今いる子供達も、次の受け入れ先が決まると、すぐに出て行ってしまうので、残念だが名前だけにしておこう。

 

 

この部屋で一番にぎやかなのは、やんちゃな9歳で、マフィとミディの双子姉妹かもしれない。

 

双子はたいてい仲が良いし、区別がつかないくらい似ているということで、同室にされたのだが、この2人がケンカを始めると、周りまで翻弄してしまう。

 

マフィとミディのケンカが何度も重なると、面倒見の良いキラシャも、さすがに切れてしまい、「悪いのどっち?」と2人を問い詰める。

 

騒ぎが大きくなると、一番大きいケイが怒鳴り始め、それでも聞かないと、3番目のキャメルが金切り声を張り上げる。

 

キャメルの発する耳をつんざくような金属音に、誰もが耳をふさぎ、ケンカを忘れてみんなおとなしくなるが、双子姉妹はまだふくれた顔をして、不満を持て余している。

 

それに気づいたルディが、次の最上級生の役目として、2人の間に入って話を聞いてやる。

 

それが、この部屋にいる子供達のケンカの治め方だ。

 

 

それから、中級コース9歳のキャシー。探究心旺盛な女の子で、スクールで飼っている動物や虫や植物の面倒を見るのが好き。 

 

初級コースで、8歳のレイカ。マイペースながら、Mフォンで知り合った相手と、ゲームを楽しんでいる。

 

初級コースで、7歳のサンディとユキ。

 

2人とも、入って来たばかりのころは、ちょっとしたことで泣きじゃくって、周りをあわてさせたが、レイカと3人で仮想空間のゲームを始めてから、仲良く遊ぶようになった。

 

仲が悪いと、先生がメンバーを変更することもあり、ケンカがひどくなると別のスクールへ転校する子供もいるが、この部屋はわりと仲良くやっているようだ。

 

部屋で大ゲンカをすると、他の部屋からも苦情が出るので、その部屋の全員が廊下の罰掃除を行うというのがチルドレンズ・ハウスのルールだ。

 

誰かが部屋の掃除をサボった場合も、みんなの責任になるので、いやでもお互いをかばって掃除の担当を変更したりする。

 

チルドレンズ・ハウスから卒業するまでの間、同じ部屋での生活を続けていると、兄弟姉妹のような感情が生まれ、卒業してからは、お互い困った時の相談相手になることもある。

 

ケンカばかりで、いやな思いが残る子もいるが、子供同士が触れ合いながら育った思い出は、大人になるほど強いきずなとして、感じられることがあるのかもしれない。

 

 

タケルが、スクールからいなくなった日。

 

部屋に戻ったキラシャはたまらなくなって、最上級生のケイに抱きついて泣き出し、タケルへの気持ちを延々と打ち明けた。

 

日頃は、恋も知らず元気がとりえのキラシャ、としか見ていなかった部屋の上級生も、いつまでも泣き止まないキラシャを可愛そうに想って、だまって話を聞いてやった…。


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