2008-02-15
2.キララと名乗る少女
3人は宇宙船の発着ステーションへと急いだ。
宇宙船の乗組員は、出発までにいろんな物資を詰め込む作業で忙しそうだった。
子供たちは、このステーションのゲームがよほど楽しかったのか、その話に夢中になっていた。
3人が宇宙船をたずねた時も、船内は子供たちの明るい笑い声で包まれていた。
途中で出会った人にテレながらも、タケルは共通語であいさつとお詫びの言葉を言い、かわいそうに思ってハグを求めてきた人に、抱きしめられながら、ありがとうと伝えた。
タケルが悪態をついたり、ケガをさせたり、迷惑をかけた人に対しては、きちんと頭を下げて、お詫びの言葉とともに、両親の用意していたギフトを渡した。
ひと通りあいさつし終わると、タケルは宇宙船に向かってバイバイと手を振った。
タケルは地球へ帰れると聞いて、内心ホッとしていた。事情はともあれ、自分を理解してくれる仲間に、また会える。
ただ、宇宙船での記憶がよみがえるにつれて、自分がマギィに送ったメールが気になっていた。
それに、地球に帰るころには、自分の耳は聞こえなくなっているかもしれない。
タケルは、この不安をどこかへ吐き出したかった。
少し買い物をするという両親と、待ち合わせの場所と時間を決めたタケルは、ゲームコーナーへと急いだ。
タケルは、Mフォンで見つけた“宇宙の海賊をやっつけろ!”というゲームに興味を持った。
人気のある仮想空間ゲーム・コーナーには、通路にまで順番待ちの行列がつながっている。
タケルの耳は、音がだいぶんかすれてはいるが、まだ聞こえている。
でも、いざという時のため、しぐさや口の動きだけで、何を話しているのかを理解するように心がけた。
地球にいる時、前に気を取られていると、キラシャに後ろから話しかけられてもわからなくて、タケルはそんな自分に腹が立って怒っていたのだ。
宇宙船の中でも、うまく人と会話できなかったのは、目だけで会話を追う練習をしていたからだったが、不器用なタケルは、そのつらさを吐き出せずにいた。
タケルはだまって、ゲームの順番を待つ人たちの表情や口の動きを追った。
そんな時、通路の掃除をしている少女が、タケルの目に入ってきた。
ホッペを真っ赤にしながら、だまって掃除をしている少女の顔が、罰を受けて、必死に掃除をしていたキラシャとだぶって、思わずタケルは声をかけた。
「キラシャ!?」
タケルのびっくりした顔を見た少女は、けげんな顔をしてこう言った。
「アタシの名前は、キララだよ!」
「ゴメン! 知ってる子に似てたから。…キララ、君はここで働いているの?」
タケルは、キラシャに似た女の子に、興味を持った。この宇宙ステーションでも、共通語が使われているが、タケルは自然と共通語で話していた。
よく見ると、素直なオーラを発散させていたキラシャとまったく違い、その少女には小悪魔的な雰囲気さえあった。
でも、今までにない不思議な親近感をタケルは感じた。
キララは、いたずらっぽく答えた。
「アンタがアタシにジュースをごちそうしてくれたら、答えてもいいよ」
「いつ?」
「ちょうど、休憩しょうと思ってたんだ」
「あぁ、いいよ。おごるよ」
「ビッグサイズだよ!」
「OK!」
2人は、意気投合してレストランへと向かった。
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