”CMソング作家の赤ちゃん” キシリ徹のやなせ京ノ介が、好きな実在のCMソングについて語るコーナー・第2回です。
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『CMソングの”秒数”のマジック 〜想像より長いか?短いか?〜』
今回取り上げるのは『明和地所 クリオマンションシリーズ』のCMソングです。
CLIO CM(ショッピング編・想いをかなえ)
現在も年末になるとヘビーローテーションされるので、ご存知の方も多いと思います。
ロケ地は毎回フランスで、セーヌ川やパリの街並み等が映されています。
このCMを知った高校生当時、北海道の片田舎に住み、日本から出たことのない僕にとって、もはや浮世離れした”洗練されたオシャレな都市生活”的映像が、強烈なインパクトを残しました。
冷静になってみると、日本にこんな街並みは中々ないでしょうから、日本のCMとしては絵空事レベルの”洗練”感です。
少し前に話題になった「マンションポエム」も、この映像につけると浮くでしょう。
この”絵空事レベルの洗練”感を違和感なく成立させているのは、幻想的なCMソングの効果が大きいと思います。
主だったリズム楽器はなく、弦楽器主体の和音と、パーカッションが時々入る曲の上で、
女性ボーカルが、ポツリポツリと歌詞を口ずさむ。
歌詞も英語である上に、深めのリバーブとディレイがかかっていて、”日本のCMソングっぽさ”からはやや逸脱したトータルバランスになっています。
この異質さと不思議な壮大さに、当時は
「クラシックやオペラの曲の一部を使っているのかな?」と思っていました。
聞けば聞くほど興味を惹かれて、年末に垂れ流されたら垂れ流さた分だけ見ていました。
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想像していたよりかなり短かった
この曲は正式名称を『アパルトマン』と言います。
つい数年前まで、93年に発売されたコンピレーションアルバムの中にしか収録されておらず、廃盤のため、愛好家の中でも入手困難な作品でした。
しかし好評を受けて、2012年頃から、公式HPで無料配布されることに。
その後、この曲のフルバージョンについて色々調べていき、驚きました。
自分の耳には超大曲に聞こえ、短くても5分ぐらい、長ければ14分ぐらいあると思っていたこの曲は、
1990年・CM用に書き下ろされたものであり、全編で50秒しかなかったのです。
しかもアウトロの数秒は「観客の歓声のSE+謎の中国語の口上」のため、実質本編は40秒程度。
たった40秒のCMソングと映像で、あの幻想的で奥行きのある世界観ができていることに感動しました。
気持ちいいから5分ぐらい浸っていたいのに、40秒で終わるところがまたもどかしく、死ぬほど何回もリピートしました。
逆に、CMで聞いて全編30秒ぐらいと想像していた曲が、フルでは1分以上〜5分ぐらいあった!というパターンもあります。
(繰り返し引用しますが、小林亜星作曲『パッ!とさいでりあ』など)
アルバムで全編を聞いて「CMで流れている以外の部分はこんな展開なんだ!」と知れたときは、自分だけの大陸を発見したように嬉しいです。
キシリ徹の楽曲が、一般的なTVCMの15秒/30秒尺だけではないのは、このような「CMソングをわざわざフルバージョンで聞いたとき」の感覚・経験から来ています。
そして、一般的なCM尺からはみ出た秒数で作っていますが、CMソングとしての実用性がないわけではありません。
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CMソングとしての実用性と、"フルバージョンで良い曲!"の両立
以前発表したキシリ徹の『麦芽の舞い』という曲、これはフルバージョン50秒尺のものです。
フォロワーの、大阪のラジオDJとらやんさんが、この曲にナレーションをつけてくれました。
2パターンとも、50秒ある曲の一部を切り取って15秒にしたものですが、CMとして成立していると思います。
曲の展開それぞれがキャッチーなのも要因ですが、ただただキャッチーな展開を連ねただけでは、フルバージョンで聞いた時、曲として成立しません。
各所にCMソング的なフックを入れ込みながら、
各展開の役割が明確で、統一性をもたせることで、
フルで聞いても曲として成り立つ&CMの秒数で切り取って聞いても美味しい仕上がりになっていると思います。
CMソングの秒数のキャンパスは一見狭く感じられますが、その制約と上手く踊ることができれば、思った以上に広く自由です。何曲か作るうちに分かってきたことです。
果てしない奥行きを感じる曲がコンパクトな秒数でまとめられている『アパルトマン』
その反対に、CMではコンパクトに使われている曲が、フルバージョンでは意外な展開や表情を持っている『パッ!とさいでりあ』
どちらもCMソングとして魅力的で、わざわざフルバージョンを聞いても曲として意外さがあり面白い。
CMソングならではの”秒数のマジック”があります。
『アパルトマン』を明和地所のサイトでDLできるようになってからというもの、日常で良い風景に遭遇したときは、曲をかけてCMの女性のように黄昏れた顔をする明和地所ごっこを良くしています。
8年ぐらいやっていますが、いつまで続くのでしょうか。
ちなみに、アパルトマンの「観客の歓声のSE+謎の異国語の口上」は、キシリ徹のちりぬるをチョコレート(ラテン味)でアイデアを引用しています。分かる人いるわけない。
最後に、キシリ徹の実在ラジオCM曲で
「ラジオCM尺の"40秒"を超有効活用できた!」と感じた、最近の作品を紹介して終わります。
良い展開とキャッチーさになったと思います!
<完>