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キシリ徹の!おんぼろファクトリー操業記

キシリ徹の
架空CMソングの作詞・作曲・制作の経緯、小さなハプニングやイカしたグッズ
についての裏話を書きます!

<実在CMソング研究>『明和地所 クリオマンションシリーズ』のCMソングもすごい(第2回)

2020-09-17 17:00:00 | 実在CMソング研究
”CMソング作家の赤ちゃん” キシリ徹のやなせ京ノ介が、好きな実在のCMソングについて語るコーナー・第2回です。

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『CMソングの”秒数”のマジック 〜想像より長いか?短いか?〜』

今回取り上げるのは『明和地所 クリオマンションシリーズ』のCMソングです。

CLIO CM(ショッピング編・想いをかなえ)
 

現在も年末になるとヘビーローテーションされるので、ご存知の方も多いと思います。

ロケ地は毎回フランスで、セーヌ川やパリの街並み等が映されています。

 このCMを知った高校生当時、北海道の片田舎に住み、日本から出たことのない僕にとって、もはや浮世離れした”洗練されたオシャレな都市生活”的映像が、強烈なインパクトを残しました。

 冷静になってみると、日本にこんな街並みは中々ないでしょうから、日本のCMとしては絵空事レベルの”洗練”感です。
少し前に話題になった「マンションポエム」も、この映像につけると浮くでしょう。

 この”絵空事レベルの洗練”感を違和感なく成立させているのは、幻想的なCMソングの効果が大きいと思います。

 主だったリズム楽器はなく、弦楽器主体の和音と、パーカッションが時々入る曲の上で、
女性ボーカルが、ポツリポツリと歌詞を口ずさむ。
歌詞も英語である上に、深めのリバーブとディレイがかかっていて、”日本のCMソングっぽさ”からはやや逸脱したトータルバランスになっています。

 この異質さと不思議な壮大さに、当時は
「クラシックやオペラの曲の一部を使っているのかな?」と思っていました。
聞けば聞くほど興味を惹かれて、年末に垂れ流されたら垂れ流さた分だけ見ていました。

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 想像していたよりかなり短かった

 この曲は正式名称を『アパルトマン』と言います。

 つい数年前まで、93年に発売されたコンピレーションアルバムの中にしか収録されておらず、廃盤のため、愛好家の中でも入手困難な作品でした。

しかし好評を受けて、2012年頃から、公式HPで無料配布されることに。
その後、この曲のフルバージョンについて色々調べていき、驚きました。

自分の耳には超大曲に聞こえ、短くても5分ぐらい、長ければ14分ぐらいあると思っていたこの曲は、
1990年・CM用に書き下ろされたものであり、全編で50秒しかなかったのです。

 しかもアウトロの数秒は「観客の歓声のSE+謎の中国語の口上」のため、実質本編は40秒程度。
たった40秒のCMソングと映像で、あの幻想的で奥行きのある世界観ができていることに感動しました。
気持ちいいから5分ぐらい浸っていたいのに、40秒で終わるところがまたもどかしく、死ぬほど何回もリピートしました。

逆に、CMで聞いて全編30秒ぐらいと想像していた曲が、フルでは1分以上〜5分ぐらいあった!というパターンもあります。
(繰り返し引用しますが、小林亜星作曲『パッ!とさいでりあ』など)

 アルバムで全編を聞いて「CMで流れている以外の部分はこんな展開なんだ!」と知れたときは、自分だけの大陸を発見したように嬉しいです。

 キシリ徹の楽曲が、一般的なTVCMの15秒/30秒尺だけではないのは、このような「CMソングをわざわざフルバージョンで聞いたとき」の感覚・経験から来ています。
そして、一般的なCM尺からはみ出た秒数で作っていますが、CMソングとしての実用性がないわけではありません。

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CMソングとしての実用性と、"フルバージョンで良い曲!"の両立

 以前発表したキシリ徹の『麦芽の舞い』という曲、これはフルバージョン50秒尺のものです。
フォロワーの、大阪のラジオDJとらやんさんが、この曲にナレーションをつけてくれました。



2パターンとも、50秒ある曲の一部を切り取って15秒にしたものですが、CMとして成立していると思います。

 曲の展開それぞれがキャッチーなのも要因ですが、ただただキャッチーな展開を連ねただけでは、フルバージョンで聞いた時、曲として成立しません。

 各所にCMソング的なフックを入れ込みながら
各展開の役割が明確で、統一性をもたせることで、
フルで聞いても曲として成り立つ&CMの秒数で切り取って聞いても美味しい仕上がりになっていると思います。

 CMソングの秒数のキャンパスは一見狭く感じられますが、その制約と上手く踊ることができれば、思った以上に広く自由です。何曲か作るうちに分かってきたことです。

果てしない奥行きを感じる曲がコンパクトな秒数でまとめられている『アパルトマン』
その反対に、CMではコンパクトに使われている曲が、フルバージョンでは意外な展開や表情を持っている『パッ!とさいでりあ』
どちらもCMソングとして魅力的で、わざわざフルバージョンを聞いても曲として意外さがあり面白い。
CMソングならではの”秒数のマジック”があります。

 『アパルトマン』を明和地所のサイトでDLできるようになってからというもの、日常で良い風景に遭遇したときは、曲をかけてCMの女性のように黄昏れた顔をする明和地所ごっこを良くしています。
8年ぐらいやっていますが、いつまで続くのでしょうか。
ちなみに、アパルトマンの「観客の歓声のSE+謎の異国語の口上」は、キシリ徹のちりぬるをチョコレート(ラテン味)でアイデアを引用しています。分かる人いるわけない。

最後に、キシリ徹の実在ラジオCM曲
「ラジオCM尺の"40秒"を超有効活用できた!」と感じた、最近の作品を紹介して終わります。
良い展開とキャッチーさになったと思います!

<完>

<実在CMソング研究>『めちゃコミック』のCMソングがすごい(第1回)

2020-06-29 17:00:24 | 実在CMソング研究
 こんばんは。架空のCMソングを作るユニット・キシリ徹のやなせ京ノ介です。

我々は、(実在の)CMソング好きが昂じて架空のCMソングを作るようになり、今もなお実在のCMソングに感動することが多くあります。
なにせいきなり架空のCMソングに感動して架空を作るやつはいません。自分たちの曲でも「このCM曲はなぜいいのか?」を考え感じて、架空を作っていることが多いです。

 このコーナーでは、”CMソング作家の赤ちゃん”であるやなせが、好きな実在のCMソングについて、感動した点を主観的に分析しながらお伝えします。

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「なんか楽しそう!」が伝わる”めちゃコミック”のCM

 今回取り上げるのは、現在放映中『めちゃコミック』のCMソングについてです。

まずは公式ChのCM動画をどうぞ。

曲は、

D | Em | A | G D |
A | G D |
Em | A | D |

という三和音主体のコード進行に、アコギ・ベース・ドラムのシンプルなアンサンブル。
そこにやや打ち込みっぽい口笛の音、CM内で三輪車を漕ぐ犬のベルの音も相まって、全体的に軽妙で弾む感じのスッキリまとまった印象のオケです。

 特筆すべきは歌詞です。
『め(っ)ちゃコミックうひょひょひょひょ~ め(っ)ちゃコミックうひゃひゃひゃひゃ~』という「サービス名+笑い転げる擬音」のみで構成されており、あとは語り的にその時々のキャンペーン内容が2小節程度入る、というもの。

 「漫画を読んで、その間だけは何もかも忘れて楽しめる・お気楽さ」が、
(たったこれだけで)曲と毅然一体となり伝わるところがCMソングとして非常に素晴らしいと感じます。

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優れたポップスは映画を孕んでいる

 (誰が言っていたかは失念しましたが)20歳ぐらいの頃「優れたポップス・歌謡曲は4分の中に映画を作る」という言葉を聞いたことがあります。

 実際に世間で名曲とされているものは、情景描写が非常に豊かかつ的確であり、聞き手の記憶の中にある類似した情景を自然と思い起こさせ、込められた感情を追体験できるものが多いと思います。

 シンガーソングライター・豊島たづみさんの『もう海へなんか行かない』という曲があります。
豊島さんは自らの作詞曲もありますが、この曲については、
作詞:松本隆・作曲:筒美京平のゴールデンコンビによるものです。
代表的な作品では『木綿のハンカチーフ』/太田裕美、『セクシャルバイオレットNo.1』/桑名正博など超多数。

(↑オリジナルバージョンがなかったので、原曲の再現度が高い、ピンクレディーの未唯さんのバージョンを引用します)

語りすぎないながらも、季節を共にした男女の別れ・2人共通の海の思い出を匂わせる歌詞。
重厚なリズムに、軽妙ながらどこか影のあるギターのカッティングが切なく淡々とした時の流れを感じさせる。
この曲は間違いなく4分の中に映画を作ってしまった名曲です。

22歳のとき、6枚組の筒美京平作品集の中に収録されたこの曲を聞き、前述の映画のたとえが真に腑に落ちました。
他に収録されている、誰もが知っているもっと有名な名曲にも感動しましたが、6枚組の中でも、特にこの曲の持つ風景に食らってしまいました。

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 CMソングの話に戻ります。
媒体にもよりますが、CMソングやジングルが放送される尺は主に5秒~1分程度であることが多いです。
その尺の中に映画を作ってしまったCMソングの名曲も実はあります。(小林亜星『パッと!さいでりあ』、伊藤アキラ作詞『ホテル三日月』など)

 しかしながら、大多数のCMソングにまず求められる役割は、そういったストーリー性・重厚感以上に、”短い尺でサービスの内容や利点・その商品や企業やサービスの持つイメージを伝えること”だと思います。

 めちゃコミックの場合は「漫画の楽しさ(漫画を読んでるときは他のことを忘れられる)」のイメージを伝えることが主題であり、
それを「サービス名+うひょひょひょひょ~!」という歌詞と軽快な曲だけで伝えられているめちゃコミックのCMは、
ある意味「4分の中に映画を作ってしまう」ことにも似た情報の凝縮性を持っていると思います。

 インタビューの機会で「CMソングの魅力は?」と聞かれたとき、いつも「ポップセンスの凝縮性」という要素を上げています。

 短い尺の中で、
普通のポップスにはない凝縮された・語りすぎないポップセンスの表現ができる、それもCMソングを作る楽しさであり、CMソング自体の魅力だと感じています。

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 最後にキシリ徹の架空CMソングの中で、ポップセンスの凝縮性を特に意識した曲を紹介します。

『巡る出会い 廻るお寿司 ロマン寿司チェーン』

15秒の尺の中で、企業名に名前負けしないスケールの大きさ・大陸感を意識しながら、
ややひねったコード進行で、浮遊感と、自分のお気に入りの寿司ネタと運命的な出会いを果たした時の幸福感まで演出しています。
そういった点を感じながらぜひ聞いてみてください!(今後リマスターで音質改善予定!!!)


<終>