もののあはれは秋こそまされと、人ごとに言ふめれど、それもさるものにて、今一きは心も浮きたつものは、春の色気にこそあめれ。鳥の声などもことの外に春めきて、のどやかなる日影に、墻根の草もえいづるころより、やゝ春ふかく霞みわたりて、花もやう〱けしきだつほどこそあれ、折しも雨風うちつゞきて、こころあわたゝしく散り過ぎぬ。青葉になり行くまで、よろづにたゞ心をのみぞ悩ます。 ― 徒然草・第十九段 ―