かまぼこシリーズはまだまだ続きますが、しばし小休止して、ます寿司に移りたいと思います。
富山を代表する食べ物であるます寿司は、その多くが家内工業的なお店で、店主が数人の従業員を雇って朝早くから、自宅の作業場で作ります。
富山県にはどのくらいのます寿し店があるのか?とよく聞かれます。しっかりした統計があるのかないのか知りませんが、筆者がいろいろ聞いて回ったところでは、製造・販売の形態で違いはいろいろあるようですが、大体50軒程度のようです。
比較的名前が知られているお店に行けば、玄関にその日販売する鱒寿司を積み重ねて、店主が直接販売していますので、足を運び、いろんな話を直接聞いたりするのも楽しいです。
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下の写真は、ます寿司の“組み立てキット”一式です。どのお店もほぼ同じです。竹や輪ゴムの太さなどが微妙に違うだけで、本物の笹と竹、わっぱなどで構成され、手作業で作り、組み立てていきます。
(ます寿司を構成するパーツ類)
どのお店同士を比べながら説明したらいいのか難しいですが、最初は、川上鱒寿し店と、吉田屋鱒寿し本舗から行きたいと思います。いずれも富山市の中心部にお店があり、三代目店長がしっかり、元気に経営しています。
[川上鱒寿し店と、吉田屋鱒寿し本舗]
川上鱒寿し店の経営者は40代前半。鱒寿司についての知識がほとんどない筆者が、なぜ、富山城および松川近辺にはます寿司店が多いの?とか、お店の歴史は? こちらのます寿司の特徴は?-などと質問したのですが、こういう問いはいろんな客から過去何度も受けているはずなのに、面倒くさそうな顔ひとつせず、丁寧に説明してくれました。
お店の雰囲気も大事ですが、店長(経営者)の人となりは、そこのます寿しの評価にもつながるので大事です。
同店の鱒は、血色良く、ピンクががった自然な赤色をしていて、酢めしと鱒がうまく調和し、口当たりは滑らか。しっかりした食感でした。シャリはやや固めの印象でした。(寒い1月だったこともあるかもしれません)
(川上のます寿司。笹にます寿司がくるまれています。竹を2箇所、上下にセットして、
太い輪ゴムで止めます)
寒い日だったからでしょう、「いつ食べますか?早めに食べればおいしくいただけます。寒いところに置いておくと酢飯(シャリ)が固くなるので注意してください」と言われました。冬は、冷蔵庫に絶対に入れないようにとも。常温、つまり15~20度程度だと最もおいしくいただけるとのことです。
玄関正面の壁には何枚もの色紙が並んでいました。人気店であることがうかがえます。
その中に、有名バイオリニストH氏と店長のツーショット写真がありました。H氏の演奏会が富山市のホールで開かれた際、ランチ用に川上のます寿司が指名され、楽屋に届けたそうです。どなたかが推薦したようで、このお店の評価が高いことがうかがえます。
バイオリニストH氏の名を聞き、筆者は彼の奥さんの実家に思いが飛びました。女優でタレントの高田万由子さんです。彼女の実家は1990年代終わりごろまで、東京都港区のホテルオークラの隣りにありました。ゼネコンのK社による再開発で取り壊されたのですが、高田家含め、周辺には思わず足を止めて見上げる美邸が多く、筆者が勤務していた会社がすぐ近くだったことからよく散策しました。敷地が広いこともあって、不動産屋やゼネコンに狙われたのです。
高田邸ですが、歴史ある洋風建築で、都心にこんな建物が残っていること自体が不思議な感じでした。写真家の篠山紀信氏が、高田万由子さんをモデルにここで撮影しています。下の写真がそれです。1994年発行の『篠山紀信ニュース1~特集T邸の怪』という写真雑誌です。
(実家の屋根の上の高田万由子。裏手がホテルオークラ)
さて、次は同じ三代目経営者の吉田屋鱒寿し本舗です。
[吉田屋鱒寿し本舗]
経営者は40代前半。店頭で、こちらの鱒寿司の特徴はなんですか?との定番質問をしたら、「バランスの良さです」と即答。「酸味、食感などいろんな要素がありますよね。シャリは甘みを感じる酸味が特色です。ところでいつ食べますか? 賞味期限は3日間ですが、日によって味わいが多少違います」と、その説明は丁寧。仕事への熱意が滲んでいました。
情熱ある店主に接すれば、こちらも気分が上がりますね。なんでもそうでしょう。飲食店でよく感じることですが、例えば外資系喫茶のスターバックスは、コーヒの味、品質はもちろん、従業員の教育(それは仕事を通じて自分を高める、という考え)にかなり力を入れていることが接客の良さになり、お店の評価につながっているように思います。
筆者の評価基準は大体、商品4割、人6割です。
ここで思い出したのは、日本資本主義の父と称されるあの渋沢栄一が明治42年、自らが会長として関わっていた化学メーカーの株主総会での挨拶だ。曰く、「凡て事業は事よりも人、金よりも人によって盛衰を生ずるもので…」と。
流石、よく分かっておられるね。
(吉田屋のます寿司)
吉田屋のます寿司の味ですが、確かにバランスがいいと感じます。口にすっと受け入れられます。川上のより、やや柔らかい感じだったのは、吉田屋のを食べた日が2月初めにしてはやや暖かく、川上のを食べた日より気温が7~8度高めだったことも影響しているのかもしれません。
しっとりした甘みに、デザート的な味わいがありました。
冬場は冷蔵庫には絶対に入れないようにとのことでした。冷えるとご飯が固くなりますから。吉田屋のホームページによると、冷えないように新聞紙で一個ずつくるんで売ることもあるそうです。なんともきめ細かい配慮です。
これまでの定番品とは異なる新商品として、2014年から昆布鱒寿司なども発売しています。ます寿しは歴史が長く、それ自体改良の余地があまりないともいえるので、新商品への挑戦ということでしょう。
■<一口コメント>
ます寿司の賞味期限は、作った日を含めて3日間のところがほとんどです。前の日に作ったものを売ることはないそうです。従って、その日何個作るかはお店の経営にとって大事です。夕方までに売り切ってしまわないといけません。午後3時ごろ行くと「本日は売り切れです。ごめんなさい」などの案内が出ているお店をしばしば目にします。
(以上)