糸乃こまりのストーリー

川柳と小説〜下町とチワワはhttps://plaza.rakuten.co.jp/daigotyokotan

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30 印度とは?

2024-12-14 13:47:53 | 世界一周ひとり旅

印度にはカーストという特別な制度があった。親の職業をそのまま子どもが引き継ぐのが当たり前とされていた。

 農家に生まれた子が

「病気で苦しんでいる人のために医者になりたい」

とか 

「料理が好きだからコックになりたい」

という本人の希望は印度では許されなかった。

 最近ではカースト制度による差別は見られなくなかったそうだが地方では今なお差別が根強く残っているそうだ。

「だからマハトマ·ガンディのような人が現れたんです」

 二人はマニ·ババン·ガンディ記念館を歩いていた。医師はまるでガイドのように説明する。この記念館は1917年〜1934年までボンベイにおけるガンディ運動の本部として使われていた。ここからガンディは真理と非暴力という不滅の理想に基づいて国家を築きあげていきました。1919年にはガンディが初めて自由を勝ち取るための大衆闘争を繰り広げ英国支配の基盤を揺さぶりました。

 建物の一階にはガンディの生涯や思想の本の図書館になっていた。そのあたりから裕子は自然に左腕で医師の腕に絡まった。パパとよくこんな風には歩いていたと懐かしく思っていた。

 二階にはガンディの部屋がそのまま保存されていた。そして1932年ガンディはいつも睡眠してお祈りするテラスのテントで逮捕されたという。裕子は立派な指導者の悲痛な最後に胸を打たれた。だからろくにガンディのことも知らずホテルでバッグや宝石をいかに安く買えるかそんなことばかりの自分がとても恥ずかしくなっていた。

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29 医者の世界

2024-12-08 06:23:08 | 世界一周ひとり旅

21 浅野内匠頭

に登場した医師と裕子はバスに乗っていた。

 医師はホテルのタクシーなら安心だと言っていたがスタッフに連絡したら反対されたらしい。タクシーでなくバスでと言われ しかもスタッフの二人も乗るといった。バスに乗っていたのはほとんど外国人。医師はバスの一番うしろの窓際に裕子を座らせた。もちろんその隣に座った。スタッフ二人は前の方に座っている。バスが走り始めてからずいぶん経っている。スタッフは船の客と医師が勝手にバスから降りてどこかに行ってしまったら大変だから前に座っているんだわ。もしスタッフが後ろに座ってグズグズしていたら二人がどこかに行ってしまう それを心配しているんだと裕子は妄想中。デートなんて言ってたけど何も言わないのねと医師の横顔を見つめる裕子。その時医師が裕子の方を見た。裕子はドギマギ。

「片山さん」

「はい」

 あれ? さっきは片山裕子さんだったのに片山さんに戻ってしまっていた。

「片山さんのご主人のお父さまも医師でしたか?」

 え!? これがデートの会話?

「サラリーマンでした ただ主人が小児麻痺にになってしまって よくなって歩けるけど走ることが出来なくなってしまったんです 医者になって子どもたちを治したいと思ったそうです」

「素晴らしい話ですね」

「先生のお父さまはやはり?」

「はい 高校に入った途端言われたけど嫌で嫌で でも母親に泣かれてね」

「お優しい」

「印度はカーストでね」

「カースト!?」

「意味は生まれです」

「あぁ 聞いたことあります 主人も印度にいたらお医者さんになれなかったんですよね」

「船に乗っていろんな国に来たのに意外と見物してなくて特に印度にはどうしても会いたい人がいて」

「初恋のインド人?」

「会ったことない人です」

「えぇ!?」

「昔のひとですよ」

 それっきり医師は遠くを見ていて何も言わなくなってしまった。これデートかな? 首をかしげる裕子だった。

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28  印度は寂しくないところ

2024-12-07 17:20:55 | 世界一周ひとり旅
大きなバスから男性が降りてきたらドアが閉まって走り出した。もしかしたらあのバス!? と思って裕子はバスを追い掛け始めた。
「片山さん どうしましたか?」
 とバスから降りた男性が言った。はたと立ち止まった裕子。
「あっ先生!!」
21 浅野内匠頭 に登場した医師だった。 「片山さん バスに忘れ物でも?」
「あぁ そうじゃないんです でも私の名前をおぼえていてくれるなんて」
「カルテに名前のある方のことは毎日考えますよ 今日もお健やかかと それが医師の務めです」
 ガタガタと裕子の身体が崩れ落ちて座り込んだ。 
「大丈夫ですか?」
「先生 見て下さい ホテルの入口に二人の女性がこちらを見ているでしょう?」
「えぇ」
「私 あの二人と一緒にいるのが嫌になってしまって」
「それはよくあることです」
「えっ」
「私がお断りしてきますよ」  
「先生にそんなことさせるなんて」とってと
「私も船のスタッフの一人ですから 私のあとをゆっくり歩いて来て下さい」
 とさっさと歩いて行く医師。裕子は立ち上がりホテルの入口を振り向くと医師の背中が見えた。この先生こんなに背が高かったかな? 何だかとっても魅力的に見えて来た。
 ホテルの入口に戻ったらもうツッコミとボケはいなかった。
「片山さんはお疲れなので少し休ませますと言っておきました」
「ありがとうございます わたくしも助かりました」
「ホテルのお買い物に行かないようでしたら お付き合いいただけませんか?」
「えっ」
「他のスタッフに連絡しておきますから ホテルのタクシーなら安心です」
「どこに行くんですか?」
 医師は何も言わない。裕子は心の中でわたくしをデートに誘うおつもり? と聞いた途端医師が言った。
「まるでデートですね 片山裕子さん よろしいですか」 

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27 続印度は寂しいところ

2024-12-07 17:16:35 | 世界一周ひとり旅

バスがホテルの地下駐車場にぐるっと回って行った。止まると船のグループたちかゾロゾロと一緒に出て行く。裕子と聡美はよくバスの前の方の席に座っていたが一人っきりの裕子はバスから離れなければいけないのになかなか出ていけないでグズグズしていた。バスの通路を通っていった女性の一人が裕子を振り向いた。
「あら 裕子さん? よね」
「えぇ」
 裕子は心の中でしまったと思っていた。自分の名前を知っている人の名前がわからない。どうしよう?
「一緒の方は裕子さんのお嫁さんと同じ名前で嫁はイマイチだけどあの方はとてもいい方って」
「私そんなこと前に言ってました?」
 かなり自分が恥ずかしくなる。
「後ろの方たちも待っているから急ぎましょ。裕子さんも私たちと一緒にホテルでお買い物しません?」
 裕子のお尻がぐぐっと軽くなった。彼女ともう一人の彼女に付いてやっとバスを降りた。だが3人で歩いているとやはり二人連れにはみ出した人が一人。そんな感じ。そして二人で歩いているとたいていおしゃべりとそうでもない人。漫才のツッコミとボケみたい。駐車場のガラスの向こうがホテルの地下2階。向こうにある大きな花瓶にあふれるほどの真っ赤なバラが挿してあるのが見えた。ガラスのドアが開いた途端ツッコミが振り向いて言った。
「彼女の噂話知ってる?」
 裕子はよく話を聞かず彼女の向こうのバラに見惚れていた。
「キレイ!! 印度でもやっぱりバラですね」
「悪いわね 私はキレイじゃなくて」
「えっ そんなこと」
「裕子さんと仲いい方」
「聡美さんのこと? ご主人は貿易会社の社長さんで時々港で会うそうですよ。ポンペイでデート。いいわね 夢みたい」
「夢じゃなくて嘘でしょう?」
 ボケが横でクスクス笑った。ボケはあくまで無口だ。
「聡美さんが嘘つきなんて」 
「信じていらっしゃるならそれでよろしいですけど」
 ツッコミはそう言ってボケとスタスタと歩いて行った。こんな人たちと一緒にいたくないと裕子は思った。二人の後ろ姿に
「ごめんなさい バスに忘れ物しちゃいました 後で行きますから」
 と走り出した。
 戻っていく裕子に
「ここで待ってますよ」
 ボケはやさしいがうっとうしい生き物だ。
 裕子はバスに戻ろうとしたけど見つからない。忘れ物なんてないけどどうしよう!? 聡美の悪口をいうあの二人とじゃ嫌だけど一人では何も出来ない裕子だった。さてどうすることやら

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26 印度は寂しいところ

2024-12-02 14:28:58 | 世界一周ひとり旅



3/2に横浜を出て22日の朝8時頃にボンベイ港に着く。印度といえば広い国、男の人は頭にターバンを巻き白いタプタプの衣服をまとい、裸足で砂の上を歩いている風景を裕子は想像していた。そろそろお出かけしようかと裕子は化粧品をパタパタとつけていた頃船の船長のアナウンスが聞こえた。

「ボンベイの港が見えて来ました。埋立地に高層ビルが林立しているのがポンペイの港です」

 裕子は急いで窓に近づき目の前の風景にカルチャーショックを受けていた。

 支度を済ませた裕子はたまたま階段の途中で聡美に会った。今日も一緒にいられる聡美が裕子は大好きだった。

「聡美さん、印度のこと、色々教えて!!」

「ポンペイは印度の西の玄関口で経済活動で政治の首都はニューデリーよ」

 船に初めに乗った裕子と違って聡美は何でもよく知っている。

「印度は都会なのね〜失礼しました」

 聡美は何故か早足になっていた。慌てて裕子も早足になる。

「でも公園では女性が裸の赤ちゃんを抱いて物乞いをしているのに仰天した人がいるそうよ」

「え〜」

「だけどよく聞いてみると赤ちゃんは1日いくらで借りるらしいの」

「すごい話で日本では考えられ」

 裕子の会話の途中で少し先を歩いていた聡美が少し大きな声を上げた。

「あー、ごめんなさい」

 と立ち止まり振り向いた。

「聡美さん、どうしたの?」

「今日は久しぶりに主人に会うの」

「あっ」

「ごめんなさい、急いでるから」

 小走りで去って行く聡美。がくんと元気がなくなってしまった裕子だった。
印度は寂しいところ






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25 ピエロのダンス

2024-12-02 14:24:17 | 世界一周ひとり旅

裕子はパーティ場の片すみで一人でダンスの練習をしていた。そばにいた人たちも彼女がそんなことをしてもさして興味を持たなかった。何しろこの夜は普通の人などいない仮面舞踏会だから。

 そして肩を叩かれた裕子は振り向いてホッとした顔になった。

「聡美さん」

だが首を振りながら

「はじめましてサトシです」

と答えた。仮面を付けた男装麗人だったからだ。

「ご主人の?」

「亡くなった父の。かなり古物」

「でもすごいわ! 似合ってる」

「それより何してるの」

「ピエロが私とダンスをしたいらしいの」

「私が右足を出したらあなたは左足を引く あなたが右足を出したら私は右足を引く 」

「サトシさんも同じこと言われたの!?」

「くるりと回ってオーレ!」

「オーレって掛け声でしょう?」

「スペインの闘牛士よ。真っ赤なファーの扇子みたいな色で牛を誘うのよ」

「私が牛?」

「それより写真撮ってくれるそうよ。裕子さんもステキよ」

 と手を引っ張った。サトシはいつもより強引だった。

 写真コーナーではそれこそ多種多様。大きなお腹のカエル、インドのサリー、ミツバチマーヤ、オテモヤン、日本髪の人、ヒョウにカンガルー。裕子は小声でこっそり

「私たちが一番まともよね」

 大きくうなづいてからサトシは

「でも一番の大物がいるわ!?」

 サトシが知っていた船の中で一番年上だった老婆が赤ちゃんの格好をしていた。その彼女を見て

「わぁ、みんないつかはああなるのね」 

大きくうなづく二人だった。

 酔っ払って部屋に戻った裕子は夢を見た。ピエロが船の中で一人で踊っていた。くるくる回って右手を上げて「オーレ!」。そう言ってグスグス泣き出した。

「ピエロどうしたの? 泣いたりして」

「ボクのこと忘れたんだね」

「えっ!?」

「一緒に船に乗ろうと言っただろ?」

 裕子はその声で目を覚ました。

「忘れてた」

 まだなんの整理も出来ていない段ボールの山。引っかき回している裕子。

「あったー」

 裕子は家から持って来たピエロの人形を裕の位牌と写真の隣りに置いた。そして裕子は自分がどんどん物忘れが酷くなることにまだ気づいていなかった。 



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24 仮面舞踊会

2024-12-02 14:19:17 | 世界一周ひとり旅
裕子はマフカレードナイトという東野圭吾の単行本があると人に聞いていたけどまだ読んでいない。マスカレードとは仮面舞踏会のこと。そしてある日そんなパーティが始まった。

 裕子は先日上海で購入したチャイナドレスをさっそく着ることにした。部屋で着てみて

「まんざらでもないじゃない!?」

 鏡の前でクルリと回って見せた。パーティ用の小さなキラキラバッグは持ってきている。だけどもう一つあった方が華やかだ。そういえば船に乗るのが初めての裕子と違って聡美は何でもよく知っている。

「船には衣装部があるのよ。パーティのときに足りないものがあったら何でも貸してくれるの」

「へぇ」

「でもみんな借りに来るから早く行かなくちゃね」

 そうだ!! 廊下を走りだす裕子。

 そして一夜の仮面舞踏会。

 裕子は衣装部に行ったりして遅刻してしまった。ドアを開けて驚いた。すごい人。元々この船では知っている人は少ない。その上チラッと会ったことのある人でも仮面では全くわからない。スタッフたちも仮面を付けている。

 ただ一人だけ仮面を付けていなかった。ピエロの格好をしていた。顔を真っ白にして赤い丸い鼻を付けている。仮面を付けたらこの良さはわからない。そして裕子に始めて近づいたのもピエロだった。

「踊りましょう」

「私踊れないんです」

 ピエロは泣きそうな顔をしていて突然向き合って裕子の両手を握った。裕子は右手にバッグ、左手にファーの真っ赤な扇子を閉じたまま持っていたが無理矢理握られた。

「私が右足を出したらあなたは左足を引く」

「えっ」

「今度はあなたが右足を出して私は左足を引く」

「ちょっと待って待って待って」

「右に2歩左に2歩 手を離してくるっと回って右手を上げてオーレ」

「何それ?」

「掛け声ですよ」

「へぇ」

「お酒取って来ますよ。ビールでいいですか?」

「えぇ」

「練習してて下さい」

 仕方なく練習を始めた裕子だった。
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23 インド洋の海水

2024-11-28 10:13:34 | 世界一周ひとり旅
インド洋の海水を引いてプールになっている。裕子はインド洋で泳ぐなんて一生に一度出来事だとさっそく申し込んだ。ただこうやって船に乗ることは1人分300万ぐらいで済むらしいがインド洋のプールで泳ぐとなると別に必要になる。アップする。また別に申し込むとアップする。最後はアップアップの裕子だ。
 そんなことより裕子が心配したのは別のことだった。ベッドの横に置いてある時計がカチッカチッとするだけで静かだ。誰もいない。裕子はバスルームにいた。息を止めたのにギチギチ音がする。裕子が持ってきた水着が縮こまっている。イヤ、縮こまったわけではなくて船に乗って美味しいものばかり食べて来たから身体がぶよぶよになっただけ。汗がどっと出てきた。要するに冷や汗😅
 みんなでプールに入った。まるで女子高生がプールに入ったような賑やかな声。プールの周りにスタッフの何人かが立っている。その中の一人。
「はーい、皆さん!! ゲームを始めま―す。もしかしてまさか泳げない方はいらっしゃいませんよね」
 みんなでコクンとうなづいたが裕子が叫んだ。
「私泳げません!」
 どっと笑い声。スタッフも苦笑いで
「では水の中で歩くゲームをしましょう」
 舌を出した裕子は周りの人に謝った。少し離れていた聡美が人をかき分けながら近づいて来た。
「よかった! すぐに見つけられると思ってたけど人が多くてビックリ!! 泳げなくてよかったわ」
「なんか慌てて聡美さん探す余裕なくて」
 裕子は水着のお腹あたりにスカーフを巻いている。それがプールの水に漂っている。
「裕子さんおしゃれ!! 水着の白とスカーフのピンクがよく合ってるわ」
「いいえ、たまたま」
 水着はやっと着れたけど着てみるとお腹がまるで相撲取りに見えた。それに白い水着のあそこあたりのヒゲが少々長くて見えそうで気持ち悪い。女性用ひげ剃りは船にもあるだろうけど買いに行く時間も全くなかったからね。非常に緊張したプール遊びとなってしまいました。








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22 グリコアーモンド

2024-11-28 10:09:18 | 世界一周ひとり旅


クルーズ船の廊下を裕子は歩いていた。階段の途中で同じ階の夫婦と出会う。妻は上海のデパートで共に過ごしていた仲間。喜んで一緒に歩くことにした。

 彼女の話で今日のレストランではインド料理の有名シェフがインドカレーを作っているという。レストランに入り裕子は夫婦と同じテーブルに座った。食べるの大好きな裕子はもうワクワクしていた。頼んですぐにインドカレーが3人のテーブルにやって来た。

「いい香りですね!」

 妻も大きくうなづく。ナンも来た。ドキドキしながら口にする裕子。

「美味しい〜」

 喜んでパクパク食べる。ナンも食べながら

「ナンもカレーと合いますね!」

 妻を見ると困ったような顔をしている。夫は食べているが首をかしげている。キョトンとし頼んで裕子。

「カレー苦手ですか?」

「いいえ〜ただこの人(夫を見ながら)大好きなんですけど」  

「だったら」

 口元を隠して、

「好きなのはグリコアーモンド。アレ甘いでしょ。これとは違うそうですよ」

 クツクツ笑う裕子。他のテーブルを見ながら、

「グリコアーモンドはないようですけど、ナンの代わりにごはんはもらえるかも!」 

 聞いた妻は立ち上がってスタッフに近づく。夫は裕子に感謝していた。

 その時近づいて来る聡美。。

「裕子さん、こちらにいらしたのね」

「あら、聡美さん。おいしいから、私もごはんいただこうかしらと思って」

 ごはんを持って戻ってきた妻に挨拶しながら聡美は

「私はナンしか食べなかったわ」

 夫の前にだけご飯を置いた妻も

「私もごはんは食べません!」

「えーっ」

 と叫ぶ裕子。怪訝な顔になる。聡美と妻は二人でニヤッと笑って

「忘れちゃったの?」

「何だっけ?」

「ナイショ」

「意地悪ね」

 聡美と妻は声を合わせて

「今日はこれからプールよ!」

「あ〜。そうだった!?」

 立ち上がる裕子。

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21 浅野内匠頭

2024-11-28 10:02:34 | 世界一周ひとり旅

裕子は自分の部屋のベッドに寝転んでいる。ノートにメモを書いている。「寄港地上海、日本は清潔、シワ取りクリーム、クマ取りクリーム」

と思い出しながら書いている。

「あっ! シルクのパジャマ」

 と書きながら

「忘れてた!」

 ベッドから降りて、紙袋に入れたままのシルクのパジャマを引っ張り出す。

「試着試着」

 バスルームに向かう。数分経ってベッドルームに戻って来る。ピンクのシルクのパジャマを着ているが、鏡に写してゲラゲラ笑う。袖口も裾も長い。

「まるで松の廊下の浅野内匠頭だ」

 笑いながらバスルームに戻る途中にひっくり返ってベッドの角に頭を思い切りぶつけた。しばらくの間、頭をかかえる。またベッドに寝転ぶ。

「いたた」

 ベッドのテーブルにいつも置いてある小さな鏡で見るとコブが出来ている。 少々目立っている。裕の声が聞こえる。

「そそっかしいから気を付けて下さいよ」

 舌を出してコブによだれを付ける。    

 仕方なく裕子は船の診察室に出かけることにした。

 診察室は静かな部屋だった。たった一人でやってるのかなとキョロキョロと眺める。

 裕子の頭を見ている医師は頭を動かす裕子に少々困っている。

「母はくも膜下、父は脳軟化、私も血管弱いんじゃないですか?」

「大丈夫です。お薬付けましょう」

 と言いながら塗り薬を付けている医師は

「でもそそっかしいから気を付けて下さい」

 ハッとして医師を見つめる裕子の目から涙がボロボロ落ちてきた。

「どうしました?」

「主人が私によく言ってたんです。先生と同じこと」

 裕子にティッシュペーパーごと渡す医師。

「主人は先生と同じ仕事をしていたんです」

「なるほど」

 また泣く裕子。

 裕子は夜また部屋でベッドに寝転んでいた。ノートに「浅野内匠頭」と書いている。

そして裕の位牌を横目で見ながら「パパのライバル」とも書いて位牌の隣に置く。そして 電気を消した。

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