家族のこと話そう その②

2019-05-01 14:30:49 | 日記

家族のこと話そう その②

五十代後半になった娘は、いまだにいいます。なんで、もっと「かわいい」と言って育てなかったのか。

子どもはほめて育てるに限ります。  

今になると、兄が抱えていた寂しさが分かります。

頭がいいだけに独占欲と嫉妬心が強い一方、表に出すことはプライドが許さなかった。友人も少なく、書斎にこもっており、心がふさいでいたのではないでしょうか。

 兄は十五歳の時に結核で亡くなりました。父が顔を覆って「消えてなくなりたいわい」と言った姿を覚えています。

直後に東京大空襲があったり、私も高熱を発して結核にかかったりで、悲しむ余裕はありませんでした。一年半寝たきりで、することがなくて、兄の蔵書を乱読しました。カントやプラトンの哲学書、ロシア文学集など幅広く収集しており、今の仕事をする土台になりました。兄が生きていたら、私以上に世の中に何かを残す仕事ができたと思います。

 父が亡くなった年齢を少し超えましたが、今が一番、父から多くをもらっています。父は晩年、お金になる仕事、一銭にもならない話も、差別せず、おろそかにしませんでした。思いを述べられる喜びを感じつつ、仕事をしていました。私も仕事に恵まれていることに感謝し、取り組みたいです。

 父や兄の悪口をたたきましたが、彼らの遺産で私は生きています。家族ってそんなものですよね。

 

<ひぐち・けいこ> 1932年、東京生まれ。東京大文学部卒。時事通信社、キヤノンなど勤務を経て評論家として活動。内閣府男女共同参画会議委員、厚生労働省社会保障審議会委員などを歴任した。NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長、東京家政大女性未来研究所長。最新刊は『その介護離職、おまちなさい』(潮出版社)。