見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

プロとしての誇りと驕り

2006-10-06 23:47:38 | 生き方・生活
チーズ・コーディネータを称する若いオーナーの小粋な店が近くにあります。ワインとチーズ、そしてオーガニック野菜を用いた料理が振舞われる蔵作り風の小さな小さなビストロです。
この街に来てまもなく周辺を散策している時に出会い、大切にしたいと思った店でした。
オーナーはスラリとした素敵な女性。最近は様々なメディアに取り上げられるようになり、近隣随一を誇る品揃えのチーズを買い求めて、遠方から訪れる客も増えているようでした。

私もブーケの強いフルボディ系の赤ワインとナチュラルチーズの組み合わせが大好きで、気の置けない友人と、彼女の店に何度か訪れたりしていました。
特に好きなのは白カビ系のチーズですが、数年前にドイツを訪れた時に魅せられてしまったのは、カンボゾーラです。
カマンベールとゴルゴンゾーラを合わせた造語で命名されたというだけあって、白カビに包まれたクリーミーなチーズと散りばめられたアオカビのコンビネーションは見事です。

最近は、カンボゾーラを置く店がほとんどなく寂しい思いをしていたので、彼女の店で試しに注文してみました。
すると「あります」とオーナーの答え。
心が躍りました。本当に久しぶりに味わうカンボゾーラです。
先に注文したフランスパンもパリパリに焼かれて香ばしく、やっぱりこの店に来てよかったと心から嬉しくなったのでした。

ところが、「お待ちどうさまでした」と運ばれてきたプレートを見て、弾んだ気持ちが急に萎みました。プレートに並べられたチーズは、私の知るカンボゾーラと違ったのです。

「カンボゾーラではないのですが、カンボゾーラと同じ種類の『ババリア・ブルー』というチーズです」と、チーズ・コーディネータのオーナーが笑顔で言いました。

彼女のにこやかな笑顔で、気持ちは益々暗くなりました。
ババリア・ブルーもカンボゾーラもドイツの同じ地方の生産で白カビとアオカビのコンビネーションが楽しいチーズです。彼女が言うとおり、確かに似た食感です。
しかし、似ているだけです。
私が食べたかったのは、カンボゾーラそのものでした。
カンボゾーラがあると答え、別のチーズを似ているものだと出した彼女の真意を汲み取ることもできず、落ち込んだ気持ちはその場では回復できないところまで下降していきました。
チーズ・コーディネータとして、適切なコーディネートとレクチャーをしてくれたと感謝すべきなのか思いなおしながらも、この店を大切にしたいと思っていた気持ちも急激に萎えていく自分を抑えることができませんでした。



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