ホステルのスタッフ、マルセル（Marcel）は、日中の自由時間をフラメンコギターの練習とHauki Murakamiの読書でゆっくり過ごしている。
このホステルはとても居心地がいい。アルハンブラ宮殿側の丘陵地帯の古い住宅地にあり、キッチンに併設しているテラスからは、大聖堂を含む市内を一望できる。朝の太陽の光が差し込まれる市内を見渡しながらトーストをかじったり、冷え始める空気の中で揺らめく夜景を見ながらビールを飲む気分は最高だ。このホステルがいかに居心地がいいかについては、改めて書いてみたい。
マルセルは、スペイン北部の街の出身の２５歳。先月、グラナダにやってきて、このホステルで働き始めたばかり。耳にピアスを３つ４つ付けた今時の、しかし音楽と読書を愛する優しい青年だ。「グラナダは素晴らしい。ここに来る前にバルセロナにしばらくいたけれど、みんな何か忙しがって、あれもこれもパッパ、パッパと手早くやらなければいけない。そこにくると、このバルセロナは、みんなゆったり、ギターのレッスン料もバルセロナに比べればとても安いんだ。こういうのんびりしたところがボクは好きなんだ」とマルセルはまじめな顔で話す。ホステルの一階の奥の部屋に泊り込み。ホステルの清掃とベッドメイクは、毎日昼過ぎに、別の女性アルバイトが来るので、彼の役割はレセプションと宿泊者の対応。でも、ホステルに止まる客は大抵彼と同じ年代か、年配でもカジュアルで気楽なたびを求める人たちが多いので、彼はまるでホステルの長期滞在者のような存在だ。
実家は薬屋。彼も薬学部を卒業した。でも、世の中の他の職業をもっと知りたい、やりたいこともある、ギターとか。とマルセル。
習い始めて1年半という彼のギターはなかなかのもの。激しいリズムのフラメンコ曲から、スペイン北部地方のメランコリックな民謡まで楽譜を見ずにかなり弾きこなす。昨日はアランフェス協奏曲の一部をひいてみせた。週に一度、先生とマンツーマンのレッスンを受けるという。「でも、大切なのは先生に見てもらう時までにどのくらい練習したかなんだ。」と彼はところどころにスペイン語を交えながら熱心に言う。
『Tokio Bules』
その彼が、今日「この本知っている？日本の作家なんだ」と見せたのが、Haruki Murakami（村上春樹）だった。女性写真の表紙。『Tokio Bules』という英語の題名に聞き覚えがなかった。「友達が、とてもいい本だからと貸してくれたんだ。まだ読み始めたばかり。悲しい物語なんだけど、何と言うかとてもいい。心に響くというか」とマルセル。
この旅に出て、村上春樹の本に会ったのは、３回目になる。他の日本作家の本には一度として出会わないのに。１度目が、メコン川を上る船の上。厚いペーパーバッグを持っていたのは、一人で東南アジアを回っていたオランダ人の若い女性だった。２度目は、ふらりと入ったコペンハーゲンの本屋。店の中央に平積みで彼の作品２作が並んでいた。そして、今回のマルセル。これはスペイン語訳だ。多くの言語に翻訳されているとは聞いていたが、日本出版の本の装丁と全く異なるのでイメージが重ならない。翻訳本は３カ国語訳とも、若い女性が表紙に装丁されている。
「彼の本はほとんど読んでいるけど、その本は知らない・・・」と言いかけたとき、イタリック体のサブタイトルに気付いた『Norwegian Wood』。改めて『ノルウェイの森』のストーリーを思い出そうとしたが、上下巻で目の覚める緑と赤の単色の表紙だけが頭に浮かんだだけだった。装丁次第で売れ方も変わると聞く。日本人へのアピールと欧州人へのアピールの仕方が全く異なるのが面白い。『東京ブルース』というタイトルもだ。
「これを読み終わったら、彼の本をもっと読みたいと思うんだけど、何か推薦してくれる？」とマルセルに聞かれ、マルセルの年代の頃に読んだ村上春樹の作品をいくつか上げてみた。翻訳名はわからない。が、日本語を英語に直訳し、彼の初期の作品をぜひ読んでみて、とマルセルに言った。
ここでも、村上春樹。大江健三郎はどうだろう。今度、書店に行ったら外国人作家のコーナーを歩いてみよう。
↑コペンハーゲンで平積みになっていた村上春樹は『After Dark』と『Blind Willow / Sleeping Woman』
このホステルはとても居心地がいい。アルハンブラ宮殿側の丘陵地帯の古い住宅地にあり、キッチンに併設しているテラスからは、大聖堂を含む市内を一望できる。朝の太陽の光が差し込まれる市内を見渡しながらトーストをかじったり、冷え始める空気の中で揺らめく夜景を見ながらビールを飲む気分は最高だ。このホステルがいかに居心地がいいかについては、改めて書いてみたい。
マルセルは、スペイン北部の街の出身の２５歳。先月、グラナダにやってきて、このホステルで働き始めたばかり。耳にピアスを３つ４つ付けた今時の、しかし音楽と読書を愛する優しい青年だ。「グラナダは素晴らしい。ここに来る前にバルセロナにしばらくいたけれど、みんな何か忙しがって、あれもこれもパッパ、パッパと手早くやらなければいけない。そこにくると、このバルセロナは、みんなゆったり、ギターのレッスン料もバルセロナに比べればとても安いんだ。こういうのんびりしたところがボクは好きなんだ」とマルセルはまじめな顔で話す。ホステルの一階の奥の部屋に泊り込み。ホステルの清掃とベッドメイクは、毎日昼過ぎに、別の女性アルバイトが来るので、彼の役割はレセプションと宿泊者の対応。でも、ホステルに止まる客は大抵彼と同じ年代か、年配でもカジュアルで気楽なたびを求める人たちが多いので、彼はまるでホステルの長期滞在者のような存在だ。
実家は薬屋。彼も薬学部を卒業した。でも、世の中の他の職業をもっと知りたい、やりたいこともある、ギターとか。とマルセル。
習い始めて1年半という彼のギターはなかなかのもの。激しいリズムのフラメンコ曲から、スペイン北部地方のメランコリックな民謡まで楽譜を見ずにかなり弾きこなす。昨日はアランフェス協奏曲の一部をひいてみせた。週に一度、先生とマンツーマンのレッスンを受けるという。「でも、大切なのは先生に見てもらう時までにどのくらい練習したかなんだ。」と彼はところどころにスペイン語を交えながら熱心に言う。
『Tokio Bules』その彼が、今日「この本知っている？日本の作家なんだ」と見せたのが、Haruki Murakami（村上春樹）だった。女性写真の表紙。『Tokio Bules』という英語の題名に聞き覚えがなかった。「友達が、とてもいい本だからと貸してくれたんだ。まだ読み始めたばかり。悲しい物語なんだけど、何と言うかとてもいい。心に響くというか」とマルセル。
この旅に出て、村上春樹の本に会ったのは、３回目になる。他の日本作家の本には一度として出会わないのに。１度目が、メコン川を上る船の上。厚いペーパーバッグを持っていたのは、一人で東南アジアを回っていたオランダ人の若い女性だった。２度目は、ふらりと入ったコペンハーゲンの本屋。店の中央に平積みで彼の作品２作が並んでいた。そして、今回のマルセル。これはスペイン語訳だ。多くの言語に翻訳されているとは聞いていたが、日本出版の本の装丁と全く異なるのでイメージが重ならない。翻訳本は３カ国語訳とも、若い女性が表紙に装丁されている。
「彼の本はほとんど読んでいるけど、その本は知らない・・・」と言いかけたとき、イタリック体のサブタイトルに気付いた『Norwegian Wood』。改めて『ノルウェイの森』のストーリーを思い出そうとしたが、上下巻で目の覚める緑と赤の単色の表紙だけが頭に浮かんだだけだった。装丁次第で売れ方も変わると聞く。日本人へのアピールと欧州人へのアピールの仕方が全く異なるのが面白い。『東京ブルース』というタイトルもだ。
「これを読み終わったら、彼の本をもっと読みたいと思うんだけど、何か推薦してくれる？」とマルセルに聞かれ、マルセルの年代の頃に読んだ村上春樹の作品をいくつか上げてみた。翻訳名はわからない。が、日本語を英語に直訳し、彼の初期の作品をぜひ読んでみて、とマルセルに言った。
ここでも、村上春樹。大江健三郎はどうだろう。今度、書店に行ったら外国人作家のコーナーを歩いてみよう。
↑コペンハーゲンで平積みになっていた村上春樹は『After Dark』と『Blind Willow / Sleeping Woman』
