声ふぇち日記

お絵描き再開

■愛の夢

2014-06-28 09:01:35 | 妄想小説


鎌塚から報告のあった、いくつかのスケジュール変更を
頭の中で整理し、受話器を取る。

一度目のコールを聞く前にため息が漏れた。

スケジュール変更など、慣れ切った事なのに
結婚してからというもの、妙に気が重くなる。

数日前にも、急なスケジュール変更で、
あいつをがっかりさせたばかりだというのに。

結婚によって、がらりと変わった生活に
上手く慣れてくれるかどうか心配なのに
忙しさにかまけて、思うように側にいて
やることもできず

時には、あいつを同伴でという、無理な誘いを
断りきれず、あいつに負担をかける事も少なくない。

あいつには、人を惹きつける才があるとは思って
いたが、まさかこれ程までとは・・・・・・。

などと考えながら、そろそろ10回近くには
なりそうな呼び出し音が気になり始めた。

何をやっているんだ、あいつは・・・。

外出でもしているのか、携帯にかけ直そうと
置こうとした受話器から声がした。

「もしもーし。もしもしぃ~」

俺は慌てて受話器を耳に当てる。

「あぁ、いたのか。俺だ」

「あ、一哉くん。お疲れ様」

「あぁ、随分長い事出なかったが、何をやっていたんだ?」

「エヘヘ。今ね、サムゲタンを作ってるんだ。
依織くんが韓国から高麗人参を送ってくれたの。
一哉くんに精が付くよう食べさせてあげてって手紙が
入ってて」

松川さん・・・・・・・・・。

「高麗人参を使った料理を調べたらサムゲタンって
いうのが見つかって、初めて作ってみたんだけど、
結構美味しくできたよ♪」

相当に、ご満悦らしく、声が弾んでいるから、俺は
余計に気落ちする。

「そ、そうか。・・・だが・・・すまない。
今夜は急な会食が入った」


「え?」


途端に声が沈む。

あいつのこういう声は本当にたまらない。


「悪い・・・。」

「え?あ・・・あぁ。大丈夫だよ。
それで、遅くなりそうなの?」

「いや。なるべく早く帰るつもりだが
相手がある事だからな」

「そうだね。わかった、それじゃぁ気をつけて
あんまり飲みすぎないでね」

「あぁ、わかってる。それじゃ」

「うん」

「あぁ、気にせず先に休んでろよ。
時間がはっきりしないんだ、待ってる
必要はないからな」

「うん、わかった。気をつけてね」


プツリと切れたラインが妙に淋しく思えて
あいつも同じ気持ちなんだろうかと考える。

それとも・・・

「やった~サムゲタンひとりじめ!!!」
などど喜んでいるだろうか。

その方がマシだが、あのトーンの落ちた声では
ひどくがっかりしているんだろう。


窓下を見ると、暮れ始めた街に
テールランプが明るさを増していた。


話がはずみ、想定時間より長引いた会食は
実りのあるものだったと言えるが、
既に時計は午前一時を指そうとしていた。


できるだけ静かに開錠し、家に入ると、
明るいリビングとは対照的に、ダイニングも
キッチンも暗闇に沈んでいた。

すぐにベッドに入りたいところだが
こういう疲れそうな日には、あいつが絶妙な
湯温で湯張りしてくれているに違いなく、
俺はバスルームに向かった。

思った通り、いい感じに、ぬるめのお湯に
俺は思いの他ゆっくりと浸かり、疲れを忘れていく。


湯上りの髪を拭きながら、部屋に入ると
柔らかな間接照明に照らされたベッドに
あいつが眠っていた。

結婚直後、頑なに自室で寝ると言い張る
あいつに困り果て、百歩譲って一週間だけ
猶予をやる事にした。

その期間限定が過ぎ、今、ようやく
俺とあいつは、一つのベッドで眠っている。


起こさないように静かにベッドに腰掛けると
やすらかなあいつの寝息が聞こえてくる。


震える程に幸せな、めまいにも似た感覚をやり過ごし
俺は注意を払ってベッドに潜り込む。


身体を寄せると、あいつの温もり
俺の好きなあいつの匂いに包まれて
衝動が走る。

けれど、この時間だ。
起こしてしまうのはさすがに憚られる。


俺はあいつの髪をなで、頬に軽く口付けを落とす。


「・・・ん・・・・・・」

身じろぐあいつに「おやすみ」と囁いて
俺はゆっくり目を閉じた。



某小説サイトさんで書いている
自己満妄想小説です。

祥慶祭フェスティバル2007昼の部のCD冒頭
にある「冬の朝の目覚めに君に捧げる詩」の

御堂くんの「自分らしくもなく、いい夢を見て、
目が覚めた」の「いい夢」に妄想が膨らみ
自分なりに想像して書いてみました。

一哉くんの、むぎちゃんへの一途な愛。
何気ない瞬間にも彼の幸せはあるんだろうな・・・


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