『聞き書 野中広務回顧録』 御厨貴・牧原出:編
¥2,800+税 岩波書店 2012/6/28発行
ISBN978-4-00-001821-0
野中広務といえば、強面で容赦ない政治家、のイメージが強かった。
『差別と日本人』等読んで、政治家の中でもいい人認定(私的認定)したけど。
なんつーか、知れば知るほど味の出る、「実はいい人」パターンの人だなあ。
ぱっと見当たりはいいけど中身のないどこやらの政治屋とは違う。
いまはもう、日本に骨太な政治家はいないのだろうか……。
> 安倍晋太郎先生は、「よく世間で俺は岸信介の息子みたいに言われるけれど、俺の親父は昭和十七年大政翼賛会の時に、それに反対して反戦政治家として出た安倍寛なんだ」ということを胸を張って言っておられたことを私は忘れません。そのことを私は安倍晋三君にも申し上げたことがあるんですが、安倍晋三君は残念ながら、そういうお父さん、あるいはおじいさんの遺志を継いでくれなかったのかな、という気がして、いま思い出しております。(48頁)
安倍晋三君は残念な人だからな。
> 小選挙区になれば、51が生き残り、49がつぶされる。そうすると、中選挙区のようにそれぞれ多様な国民の意思が反映されない。51%は反映されても、49%は封殺されてしまう。民主主義の議会を構成するのに、そんな制度で民意が封殺されるのはよくない(100頁)
> 小泉さんが参議院選挙の応援演説に出たりしたら、いっぺんに三千人も寄るような状態でしたね。そういう指導者が出たときは、必ずあとが駄目になってしまうんです。日本の国民は、戦争の時代もそうだったと思うんだけれど、一つの世論が熱狂的にグワッと動いていく時が怖い。[…]
> それと、オリックスとかが具体的にやっていくビジネスが一つずつ政策として現われてくる。自分たちの利益に結びつくような規制緩和をやっていく。こちらから見るとそうなっている。政策がそういう個人の姿に変わっていく。そこに私は憎しみを持っておった。正義の味方みたいに一人でふるまっていながら、裏ではこういうことを考えているんだと。(365頁)
> 僕は小渕内閣で小渕さんから官房長官をやってくれといわれた時に固辞したんですが、どうしてもやってくれというから、条件が四つあると言いました。
> 一つ目は公務員の天下りを整理することだ。全部は否定しないけれども、給与その他についてあるべき姿に直していくべきだ。二つ目は、国有財産の売却と活用をやるべきだ。三つめは、ODAに政治家が絡んだりするところを透明化すべきだ。四つ目は、留学生に投資すべきだ。(368頁)
まあ、いちいちもっともなことじゃないですか。
読んでいると、京都の町会議員から始まって、町長、府議会議員、副知事、衆議院……と、地方からのたたき上げであることに誇りを持っていることがわかる。実際、いまの政治の問題の一部は二世三世議員が多くて地方の現実を見ていないことにもあると思う。東京しか知らず、自分は大局観から見ていると思っているようで実は足元が疎かで、実現可能性が低い政策……消費増税のポイント還元とか今いきなり思い出したけど、顕著ですね。
あと、読んでて面白かったのは随所に小沢一郎への不快感が顔を出すこと。本当に嫌いなんだねー(笑)。「あれは政策は知らないで政略だけだ」(166頁)とか、「戦争国家になるようなことばかり言う。こんな人についていったらかなわんな」(288頁)とか。