一昔前、初老の男、信州のとある寺の階段登って居ました。
すると、前方から階段を下りて来る気配が、見上げると女性でした。
しかも、かなりの美人、驚いて居ると
『こんにちワ!』慌てて『こんにちはー!』
挨拶を交わした瞬間、年甲斐もなく胸が騒ぎました。
今まで此処で人に出会う事など一度も無い寂れた寺で
二人きり!というシチュエーションが何だかスリリング!
登りながら振り返りたい気持ちを懸命に押さえ
何時ものおみくじも引くのを止め、参拝もそこそこに
階段を降りて来ると、鳥居の処に和服姿の女性が!?
男は、すれ違った女性が居れば?の期待が有りましたから
違う女性が居る事に?キツネに騙されたかの様な異様な驚きを覚えます!
すると『遠い所から来られたのですネ!』といきなり
声を掛けられ、少し狼狽えて居ますと
『すみません、今日は駄目なんです。』
男は訳の解らないキツネつままれた様な不思議な感覚?で居ましたが、
ダメとは無形文化財の仏像の事だと解るまで。
男は、(この女性もこの辺では見かけない品があり
さっきの、女性といい、キツネに騙される
とはこんな事じゃないか?)
男は少し落ち着くと『高原の山荘に居ますから、又、来ますよ!』
『ご連絡下さい。ご案内しますから!』
名前と檀家総代で在る事と家の場所を教えてくれました。
名前は、寺の幕に記されて居るのを記憶していました。
別れて車に戻り正気に戻れば、容易に推測出来ました。
この辺では見掛けない車のナンバーを見て
親切に声を掛けてくれた事を…
もう少しキツネに騙されて居たかった。
後日、仏像を観に行くだけの度胸は男には在りませんでした。
狼の癖に、キツネが怖い様です。