恐怖日和 ~ホラー小説書いてます~

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恐怖日和 第五十話『似顔絵』

2020-11-29 12:56:22 | 恐怖日和

似顔絵


 うちそんな怖い顔してるかなあ?
 赤ちゃんとか小さい子がな、うちのことじっと見るねん。そやかいそんな怖い顔してるんかな思て。 
 なんか憑いてるんちゃうかて? いややわ、怖いやん。そんなことゆわんといてよ。ははは。
 えっ、うちの歳? そんなこと初対面の女に聞くもんやないで。
 まだ三十代かて? 
 いやっ、もうそんなうまいことゆうてぇ。ほらほらビール飲んで飲んで。
 もう孫もいてんのに三十代ゆうんは嫌味やで。
 そうよぉ、孫よぉ、息子の子ぉ。うん、男の子よぉ、めちゃめちゃかわいてな。
 もう三つになってん。保育園行ってからしっかりしてきて――そやねん、夫婦共働きやさけ預けてるんよ。そんなとこ入れんでもうちが面倒見たるゆうたんやけどな。
 嫁が気ぃつこて断ってきて。
 まあ長いことうちと子供が一緒におんの妬けるんやろなぁ。
 それでのうても、おばあちゃんおばあちゃんゆうて、慕ってくるし。
 コツ? 
 嫁はええとこの娘やさかいかしつけが厳してな、子供にあんまり甘いもん食べさせへんねん。
 そやかい親の見えんとこでおいしいお菓子いっぱい食べさせたるねん。もう気ぃ狂たようにがつがつ食べるで。
 しつけやゆうても、食べるもんはようけ食べさしたらな逆にいやしい子になるんちゃうかって見てて思たわ。
 え? んーそやなぁ、見つかったら怒られるやろなぁ。ははは。
 そやけど孫はかわいいわぁ、この間もな、おばあちゃんの顔やゆうて画用紙に似顔絵描いて持ってきてくれてな。
 婆バカ思うやろけど、これが上手で。将来はピカソかゴッホや、ゆうてピカソやゴッホの絵なんか見たことないけどな。ははは。
 ただな、その絵に嫁がえらい気ぃつこて――
 あーいや、ええわ、もうこの話やめとこ。
 えっ? 何? 気になる? こんなこと聞いてもしょうもないで。
 え? 聞きたいてか? あんたも聞きたがりやね――ちょっと変な絵やっただけやねんけどな、わざと描かせたんちゃうよゆうて、嫁が気ぃつこただけの話や。
 そやねん、ええ嫁やねん。今まで嫁姑問題なんかもあらへんさかい、わざとやなんか思うかいな。
 えぇ? まだ聞きたいん? どんな絵かて?
 うーん――しょうないな――
 顔が三つあるんよ。
 うちの顔挟んで左右にいっこずつ――白目ひんむいた気色悪い顔が――
 息子は顔がだぶって見えてるんやゆうて孫の乱視心配してな、今度病院に連れて行くゆうてたけど――えっ? さっきの話? ああ、小さい子がうちのことじっと見てるってやつかいな――なんか憑いてるいうのあながち間違いやないて?
 や、もうっ、そんな怖いことゆわんといてぇ。そやかいこの話やめとこ思たんや。
 子供ゆうんは突拍子もないことしたりゆうたりするもんやて嫁も苦笑いしてたし、うちもそう思う。ははは。
 まあまあこれ飲んで、飲んで。えっ? もう帰らなあかんの? 嫁はんに怒られるって? ははは、そりゃ早よ帰らな。
 またおいでな。うち、この時間やったらいつもおるさけ。ほなね、バイバーイ――
 ――ふう、危ない、危ない。孫自慢して口滑らせてもたわ。
 あの絵、嫁は気ぃつこてたけど、うちわけわかってるし別に怒らへん。
 ふふふ、あの左右の顔、昔うちが自殺に見せかけて殺した男らや。ほんまいつまでも未練がましい奴らやで。


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