恐怖日和 ~ホラー小説書いてます~

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恐怖日和 第二十二話『コワいウワサ第三話』

2019-06-03 11:06:51 | 恐怖日和

コワいウワサ 第三話

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鶴池ナリエ
 麻友は友人から聞いた噂を検証するため自転車で鶴池公園に向かった。
 まだ遅い時間ではなかったが、冬の日没は早い。防寒対策をしていたが、明日クリスマスだというのに妙に暖かく、分厚いコートの下は汗ばんでいた。
 駐輪場に自転車を止め、スマホを動画撮影に設定する。
「今から検証に向かいまーす」
 公園入口にレンズを向け、噂のイルミネーションへと歩き出す。
 この公園は家から自転車で三十分くらいの場所にあったが今まで来たことがなかった。
 入口に立てられた看板には県下最大のため池だという説明が書かれ、その周囲の遊歩道や脇を彩る樹木の名称、途中三か所の広場にある東屋も写真入りで紹介されていた。
 十二月に入ると遊歩道や広場に地元の有志によるクリスマスのイルミネーションが施される。樹々や柵に取り付けられた色とりどりの電飾と光で作られたトンネルが見どころで、小規模ながらもなかなか立派な趣のため鶴池ナリエと呼ばれていた。
 そんな美しい場所にとある噂があった。もともと公園自体も心霊スポットと言われているらしいのだが、麻友が聞いたのはクリスマス限定の都市伝説のほうだった。
 遊歩道を進んで二つ目の広場を越えた先、光のトンネルの少し手前、植え込みの間にミカン箱より一回り大きい小屋がある。キリスト誕生の馬小屋を模しているのではと言われているが、実際は窓を覗いても何もないので目的はわからない。
 だが覗いた者の中に小屋の中いっぱいのサンタクロースを見る者があるという。
 サンタの人形がたくさん詰まっているという意味ではない。白い髭に赤い服の太った大男が小屋の中、ぴっちりつめつめに詰まっているのだ。
 それを見た者はクリスマスの夜にサンタクロースが枕元に立つという。
「えー、怖くないじゃん」
 そう言った麻友に友人は「知らんじじぃが枕元にいるってことが怖いんじゃね?」と笑った。
 とにかく検証動画を撮るにはちょうどいい感じがして麻友は行動に移したというわけだ。
 暗くなった遊歩道にはキラキラとイルミネーションが輝き、家族連れや若いカップルたちが散策を楽しんでいる。「すごくきれいで~す。一人だとちょっと怖いかな~って思ってたんだけど、結構人がいるんでだいじょうぶで~す」
 一つ目の広場には大小様々な木々が豪華な装飾のクリスマスツリーに仕立てられていて美しく、星のオーナメントがあたたかな光を放ち幸せな気分になる。
「ステキ~、彼と来たい~。でも彼いない~」
 スマホで録画しながら麻友の顔も輝く。ずっと撮っていたいが、目的はここではない。遊歩道を経て有名な絵画を電飾で表現した二つ目の広場を一通り撮影すると先に進んだ。
 光輝くトンネルの入り口が見えた。あのトンネルに入ったらさぞ素晴らしい動画が撮れるだろうが、目的はその手前。
「話ではここらあたりで~す。探してみま~す」
 麻友は植え込みの間に目を凝らした。
 確かに小屋がある。幼い頃、祖父の家にあった柴犬の小屋ほどの大きさだ。その屋根にも電飾されていたが、残念ながらきれいでもかわいくもない。
 高鳴る胸を押さえ麻友はそっと窓を覗いた。
「うそっ――マジで――」
 腕や脚を折り曲げて丸まったサンタクロースが小屋の中にいる。
 見開いたままの青い眼球が外の明かりを受けて硬質な光を反射していた。
「なんだ。人形かびっくりした」
 麻友はほっとしてしゃがみ込み、スマホをかざす。
「都市伝説の正体は人形でした~。これっていたずらなのかな? それともただここに保管しているだけ? 
 ともかく、この状況が都市伝説を生んだのかも」
 そうコメントして撮影するも画面には何も映っていない。いや正確には空っぽの内部しか映っていない。
「え?」
 戸惑いながら、もう一度自分の目で確かめる。
 サンタクロースの青い瞳がきょろりと動き、麻友を見た。

 目覚めると暗い自分の部屋でベッドに入っていた。
 あれから今までの記憶がまったくない。
 だが、エアコンなど家電の放つ光で仄かに浮かび上がる部屋は確かに麻友自身の部屋だし、きちんとパジャマも着ている。
 スマホで時間を確認すると真夜中を少し回っていた。
 最後の動画をチェックする。
 母の作った手料理と父の買って来たケーキを楽しく食べている様子が録画されていて、いつもと変わらない麻友がそこに存在していた。
 公園の動画も確認したがやはり小屋には何も映ってなく、その後は光のトンネルを通過し、歓声と検証を終えたという自分のコメントが入っていた。
 もちろんそんなことを見たり言ったりした覚えはなかったが、小屋のことは単なる見間違いだったんだ、そう思うことにした。
「メリークリスマース」
 朗々とした声が部屋に響き、麻友は飛び上がった。
 枕元にサンタクロースが立つという友人の語った結末を思い出したが、見回しても誰もいない。
「じゃ、今のなに? 確かに聞えたよ――」
 検証結果を録画するチャンスなのに、ただベッドの上で震えることしかできない。
 はあはあ。
 荒い息が下のほうから聞こえ、麻友は恐る恐るベッドの縁から覗いた。
 小屋に詰まっていた形のまま、サンタクロースが青い目で麻友を見上げた。

 翌日、連絡の取れない麻友一家を心配した知人が家を訪ね家中に飛び散った血飛沫を発見した。
 家族三人の姿はなかったが明らかに人のものと思われる肉片、歯や爪などがいたるところに散乱し、一家の生存は絶望のように思われた。
 何があったのか、誰がやったのか、いまだに謎で捜査は難航している。

「まさか犯人が鶴池ナリエに潜むサンタクロースだって誰も思わないよね。だってただの都市伝説だもの。
 次はある地方のウワサなんだけど、そこでは火葬場をヤキバって呼んでて――」


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