ホンダが「ニュー・ミッド・コンセプト」の名の下に、新提案として放つミドルクラスバイク3兄弟。
その国内第一弾となるNC700Xに試乗してきた。
と言ってもフツーのドリーム店さんにてフツーのお客として乗せていただいたので、ごく限られたシチュエーションでの短距離走行であることをお断りしておく。距離にして約4キロ。それぞれ1キロほどの直線区間を4つの交差点で回る、基本的にスクエアなコースだが、一部にはちょっとしたシケイン的な部分や若干のアップダウンもある、そういう状況だ。
試乗はわが家の掟に従ってタンデムにて行う。快くOKしてくれたお店の方、ありがとー♪
さて、車名は700だが実際には669ccだというこのバイクの並列2気筒エンジンは、水平に近い角度まで寝かされたシリンダーが特徴。これによってハッキリと分かるほど車体の重心は下がっていて、押し引きや跨って車体を傾けた際に感じる重量感は、このクラスとは思えないほど。そうそう、エンジンだけじゃなくて燃料タンクが通常のエンジン上部からシート下部に移されていることも貢献してるね。
この辺りの手法は、BMWのF800シリーズにも通じるものがあるのだけれど、ホンダの場合、久々のブランニューとなるこのエンジンの開発にあたって、ある意味最もこのメーカーらしくないコンセプトを打ち出していることが注目される。それが冒頭のニュー・ミッド・コンセプトだ。
メーカーの言い分はそのホームページなどを参照いただくとして、僕の受け止めとしては「非日常を切り捨てて、日常の充実感を極める」ということだろうと思う。このエンジンの最高出力は、何と6250回転で発生される。ホンダのスポーツバイク向けエンジンとしては異例の「低中回転型」だ。先に挙げたBMWのF800や、同じく同クラスのカワサキER-6nなどでは8000回転が出力のピークで、ざっと2000回転ほども「頭打ちの早い」エンジンということになるわけだ。同じホンダではアメリカンバイク向けのものなどを別にすれば、よりクルーザー色の強いDN-01のVツインエンジンでさえ同7500回転と、遥かに高回転を許容することからも、この新エンジンの特殊性がよく分かるだろう。
で、その狙いこそ「非日常を切り捨てて、日常の充実感を極める」ことだと思うのだ。
しゃかりきになって峠を攻めるようなタイプのライダーは別として、仲間とのマスツーリングや、のんびりゆったりのソロツーリングを楽しみとするような大半のライダーにとって、ミドルクラス以上のバイクでエンジンの全性能を発揮させる(あるいは高回転域を使い切る)という機会はまずないと言っていっていい。ならば設計上その分の余力を別の部分に差し向けることが可能なのではないか、というのが今回のホンダの問いかけだ。それをこのエンジンでは、低中回転域での扱いやすいトルク特性と、それに伴った燃費性能の大幅な改善に振り向けたというわけ。
その結果、カタログデータで言えばピークパワーこそ1クラス下の400cc並みに抑えられているものの、トルクはクラス水準の値をより低回転で発生し、燃費に至っては60km/h定地走行値とはいえ41km/lと、多くが20km/l台にある同クラス車から明らかに一頭地抜けた水準を実現している(とは言えライバルのBMW F800系の実用燃費は超高水準なので、優劣はまだ何とも言えないけれど…)。さらにホンダでは、その燃費向上を、燃料タンクの小型化およびシート下への移設という車体構成に関わる要素として活用。先にも書いた低重心化と同時に、従来のタンク位置への大容量ラゲッジの確保と、走行性能をユーティリティ性能を共に向上させる方策につなげている。これはあたかも4輪の大ヒット作になったフィットのセンタータンクレイアウトのような、ホンダらしい発想と言えるだろう。
さて、能書きが長くなりすぎた。
走らせてみるよ。
低中回転域を重視、とは言ったものの、カタログ上の燃費数値を重視した場合によくある「極低回転域でのガスの薄さ」は、このバイクでも共通。だからどうしてもアイドリング+αのトルク感に頼りなさが付きまとうので、発進時についつい回転を上げ気味になってしまう。たぶんそのままつないじゃっても大丈夫だとは思うんだけど、タンデムで走る人間にとってはこのあたりの感覚、結構大事なのよね。以前乗ってたヤマハTDMと同じ270度クランクの並列2気筒特有の、極低速でのランダムな鼓動感がその印象を助長してる気もする。とは言え、まぁ慣れの問題ってレベルかな。
走り出せば後は至極快適。謳い文句通り普段使いの回転域で元気がいいエンジン特性を実感できる。どんどんとシフトアップしていかないと、すぐにレッドゾーンが気になってくるのはご愛敬だけど、そのシフトフィーリングはスムーズかつ上質で、クラッチは夢のように軽い(笑)。前後ともシングルディスクのブレーキも、タンデム走行でも不安のない扱いやすさが印象的で、特にリヤブレーキのコントロールがしやすくて気に入った。
停車時同様、走ってみても低重心感覚は変わらないけれど、身のこなしは軽やかで、バイクによっては憂鬱になることだってあるタンデムでの市街地走行でも、これなら気持ちよく走れそう。ちょっとだけペースを上げてシケインぽいセクションを抜けてみても「おっ!」って感じの人車一体感を実感できた。
信号待ちでササッと降車したカミさんによる撮影。お手頃サイズすな。
総じて言うと、ホンダらしい実直なバイクづくりが走りの気持ちよさにまっすぐ結びついてる、久々の快作だと思う。
その一方で、そのよさが徹底した「非日常の切り捨て」から生まれていることに、ほんのちょっと複雑な気持ちになるのも事実。
バイク乗りって、実際そこに踏み込むかどうかは別にして、少なくとも気持ちの上では「非日常」を求めてバイクを買い、あるいは走らせる生き物だと思うからだ。
その意味で、ホンダのこの新コンセプトは、ライダーにとって「自分がバイクに乗る意味」を改めて問いかけることになるかもしれない。
快作にして問題作。それが僕のNC700X評だ。
ちなみに今日、このお店を訪れていた何人かのお客さんが、興味津々でNC700Xを眺めたり、跨ったりしていた。
車格からしてかなり良好な足着きのバイクだと思うけど(僕の評はあんま意味ないか)、そこでも「日常」に徹したい人は後日登場のNC700Sを待つのが正解。
クロスオーバーをイメージさせる「X」だけど、別にオフロード走行を念頭に置いてるわけじゃないからね。パフォーマンスはそんなに変わらないハズ。
それから「非日常」はムードだけで十分と割り切れる人なら、豊富に用意されているオプションパーツで、BMW-GS系にも劣らないヘビーな旅仕様のルックスを手に入れることだって可能。そこはホンダさん、抜かりはなさそうだ。
| Trackback ( 0 )
|
いささか疑問なれどタイヤではダンロップでエコロジー仕様が既に有りましたな。
思いっきりアクセル開けるのが憚れる今日この頃カナ
実用バイクぽいニオイがします。
非日常は、無さそうですね。
まあこのバイクの場合、ちゃんと楽しさは感じられたので、そこはうれしかったです。忍耐ばかりじゃ長続きしませんものね。
>mamoruさん
mamoruさんにそう言われるなんて心外です!(笑)
気になる存在でしたが、
GSのような性格とは、
違うみたいですね。
メーター回りがやたらシンプルですねぇ。
単二さんでこの足付きだと、私はツンツンかな。
でも気持ちよさそう。^^/
なかなかいいかも、なんて思いました。
でも実用性重視でハコ大好きなヨーロッパなら
ともかく、日本人にはこういうバイクは売れない
かな~、なんてちょっと冷やかに見てしまいます。
そんなネィさんにこそNC700Sですよ!(^^)
>みつさん
そんな冷ややかなこと言わんと
ハコ好きのみつさんが増車を~(爆)
ちなみに高速燃費より街中の方が良好な印象だそうな。実にらしい話。
先日もこのマシンを、株探しの最中に跨らせて貰い、軽さとコンセプトでもしかしてアフリカに未だに乗っていたらそのまま乗り換えていた可能性もあります。
なんてたってお値段がCB400SFより安いってのがまた、ねぇ。
OPつけてかっこよく出来るし。
あ、テネレは金が有る限りは乗り続けるので、心配しないで下さいね(^_-)