滑舌のいい元八百屋の話
滑舌のいい元八百屋がいた。僕が会ったときは内装の仕事をしていたが元八百屋らしく江戸っ子弁で酒が入るとよく喋った。 趣味は休みがあるとひょっこり時刻表片手にあてもなく出かける旅行だった。 夕方になって「今どこどこにいる」とかなり遠方から家族に電話をし、数日後にひょっこり帰宅するということだった。
ある日、旅行ではなく逗子の方面に釣りに行った先で頭痛に見舞われ救急車で運ばれた。 病名はくも膜下出血だったとか? 当地の病院で緊急開頭手術をしたらしかった。 回復してくると持ち前の滑舌で周囲を笑わせ看護士たちにも人気があったらしいが無断でタバコを買いに外出したり後輩にタバコ買ってくるように電話したり破天荒ぶりを発揮したらしい。
退院してリハビリ中だったのか、小田急高架下の道を散歩中らしき彼と車ですれ違った。 僕に気づいて立ち止まってくれたが後続車がいて停車できず顔だけ見て手を上げた。 その数日後、元八百屋は自宅の浴槽で溺れて逝った。
通夜に参列した。棺の横に時刻表が添えられていた。 赤堤湯船駅(*)からの寝台特急に 赤線が引いてあった・・・なんて、それはない。なんせノープランなんだから
(*実際、赤堤湯船駅はありません、筆者想像の駅名です)
(2021-1111 未発表)
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