『俺・・・自信ないんだ』
『あんたって人は、変わらないね』
『こうしている今も、奈美は心配しているだろうな』
『呆れた・・心配どころか、泣いてるわよ』
『・・・・・・・・・・・・・・・・。』
『帰ってないんでしょ?』
外人バーに呼び出して飲んでたのは元妻の亜由美
子供が成人する頃、俺は還暦
洋介の人生設計に子供の存在が抜けていた
言葉が詰まる
『私たちの離婚理由も同じだったじゃない』
『避妊の仕方を忘れたの?・・・。』
大人になりきれない洋介をこ馬鹿にしたように笑ってみせる亜由美
だが・・・
真剣な顔をしてショットグラスを飲み干す
『奈美ちゃんを愛してる?』
思えば十数年前、子供が欲しいって言った途端、私を避けるようになった洋介
『私も洋介の子供が欲しかったっけ』
煤けた天井を仰ぎ、ショットグラスを飲み干して言った
『洋介の意気地なし』
『あん時の俺は若すぎたんだよ』
薄暗い店内
別れた頃と、ちっとも変わらない洋介
洋介と一緒に生きる
永遠に
華々しく盛大に挙げた結婚式
『結婚生活は1年しか続かなかったね』
『俺より優しい旦那と可愛い子供に恵まれて主婦してるもんな』
『ちょっとは焼きもちしてくれてたりする?』
『あははははっ、亜由美の良い所って、そこなんだよな』
『えっ?どこ?』
『そのサバサバした所』
『何日、帰ってないの?』
『10日になる』
『妊娠告白の日から10日も帰ってないの?馬鹿じゃない』
『俺って馬鹿だし意気地なしだよな』
『奈美ちゃん神経が参ってるかもよ』
『俺、ちゃんと気持ちを伝えるよ』
『何て伝えるの?』
『今まで、落ち着きの無い男だったけど、子供の為に良い父親になるよって』
『本当になれるかな?』
亜由美にとって、生涯を共にするはずだった洋介
夜の夫婦生活
几帳面に避妊する洋介の耳元で
" 洋介の子供が欲しいの "
その一言で洋介は家に帰らなくなった
今また同じ事で女を泣かせてる
いや、今回は事情が違う
『妊娠したって言ったんだよね?』
『うん・・・。』
『人生は長くないよ、女の1人くらい幸せにしなよ』
深い溜息と共に頭を抱えた洋介
『洋介が避妊しないなんて、よっぽど愛してるんだね』
『奈美程、愛した女はいない』
『ちょっと洋介、その言葉ってキツイ』
『ごめん、けど亜由美だって今は幸せだろ?』
『まぁ~ね』
洋介の言葉に腹が立つ
それでも洋介を愛してた
離婚した時は、欝にもなったというのに
そんな亜由美を支えたのが今の夫
縁なんて、そんなものよ
誰かにしがみ付きたかった
しがみ付いて結婚
暫くして妊娠
手を叩いて喜ぶ夫
普通の夫とは、そんなものだろう
今でも本当は洋介を愛している
しかし、洋介は心の底から愛する人が出来たという
私の事は、心から愛していなかったのだろうか?
次から次と疑念が浮かぶ
自分が嫌になった
『ごめん洋介、子供達が心配だから帰るわ』
普段の生活に紛れたら洋介の事は忘れられる
ずっとそうしてきた
勝手で我がままな洋介は、愚痴を聞いて欲しい時だけ私を呼び出す
言うだけ言えばカウンターに突っ伏して寝る
私は黙って、その場を去る
その繰り返し
しょうがない、洋介とは兄妹だと思えば良い
『今日も呼び出して悪かったな』
『そんな事どうでも良いのよ、早く奈美ちゃんの所に帰ってあげて』
『分かったよ』
うつむいたままの洋介の背中を軽く叩いて亜由美は店を出た
洋介が他の女と・・・・。
洋介は永遠に独身でいて欲しい
チャペルで鈴を鳴らした女は私だけ
複雑な気持ちを胸に夫と子供がまつ自宅へとタクシーを走らせた
その頃、奈美は泣くだけ泣き、ある決心をしていた
*:・'゜☆。.:*:・'゜★ 続く ゜'・:*:.。.:*:・'゜:*