まるで中学生の作文のような置手紙
" 奈美は子供だ "
そして俺も歳だけくった子供
子供じみた別れの手紙
絶対に奈美の本心じゃない
でも本心だったら?
奈美の口から直接聞きたい
可愛い奈美
この手紙にあるように、真顔で言われたら?
いや、現実から逃げた俺が悪い
" 妊娠 "
この言葉から逃げた俺
最低の男
職業柄、本能と知識が優先するが、惚れた女には頭も働かない
こんな時はどうすれば良い
現実逃避した俺だ
ウウム教団の仕事に没頭し忘れよう
この手紙の中の奈美が現実
歳若い奈美に相応しくない俺
誰より熱心に教団信者の身元調査に没頭する日々
奈美と同じ年頃の信者が多い
この若さで " カルト教団 " に入信するのは何故か?
驚いた
同僚の信者も居る
医師・教員・警官
何が彼らをカルトに向かわせたのか?
何が俺を臆病にした?
奈美に良く似た女性を見る度に激しく動揺するのは何故だ?
歳の差恋愛は叶わないのだろうか
このままじゃ俺が俺じゃなくなる
沢山の恋愛経験
" しっかりするんだ俺 "
既にアパートも別人が入居している
引越し業者をあたった
『その方なら、札幌に引越ししましたよ』
職権乱用で聞き出す
気が引ける
引越し先を突き止め電話
奈美は故郷の北海道か・・・遠い
今の北海道は雪に埋もれてる頃だな
直ぐにでも飛んで行きたい
それはとうてい無理、ならば声だけでも聞きたい
『もしもし、堀と申します、奈美さん在宅でしょうか?』
" 堀 "と言う人から電話があっても、訪ねてきても居ないと言って欲しい
強い口調で両親に告げていた奈美
『娘は留守ですが』
『何時頃に戻られますか?』
『娘はここには住んでません』
電話の向こうの男が、お腹の子の父親に違いない
何があったか分からないが、腹立たしい気持ちで一杯だ
つい声のトーンが上がり
『娘には、お付き合いしている人が居るの、もう電話しないで下さい』
それだけ言って電話を切った
母親として、精一杯の援護をしたつもり
奈美は母と洋介のやりとりを溢れる涙を堪えながら聞いている
興奮ぎみの母親に『ごめんね・・・お母さん』
『これで・・・良かったの?』
無言でうなずく娘
不憫だが仕方が無い
受話器を持ったまま、立ち尽くす洋介
曖昧な態度をとった報い
2度と奈美以上に愛せる女とは出会う事はないだろう
心が割れた
割れた心は元には戻らない
歩きながら、ビルのウィンドーに映った自分を見て
" 俺・・・いつから猫背だったんだろう? "
北風が冷たい
コートのポケットに手を入れて思い出した
奈美の手を俺のコートに入れた事があったっけ
『2人だと暖かいな』
笑顔でうなずいてた奈美
俺がもう少し若かったら
他に男が居たって、奪いにいくのに
歳の差が俺を臆病にしているのか
奈美は降りしきる雪を眺めながら
洋介は絶対に迎えにくる
心のどこかで洋介を待っている自分
これで終わりなんて悲しすぎる
愛に歳の差なんて関係ないし
あとは洋介次第
複雑な気持ちが交差する
意気地なしの洋介
もしも
洋介が、こんなに簡単に私を諦めたならば
" シングルマザーか・・・。"
そうなっても仕方ないよね
いざとなれば、男より女の方が強いのよ
お腹の子に語りかける奈美
*:・'゜☆。.:*:・'゜★続く゜'・:*:.。.:*:・'゜:*