手招きするように
小波な立つ
誘われるように
カモメが戯れ
水平線の向こうに
入道雲が浮かんでいる
海面を滑るように
秋風が走り
うなずくように
小波が起き
カモメの鳴き声が
相槌をうっている
砂浜に打ち寄せる
小波が翼を広げ
取り残されたカニの子を
さらって行く
子ども達の足跡に
ヤドカリが逃げ込む
薄汚れて心を
乱れる心を
自然に生き返らす
信濃路の自然を
何に詰め込んで
持って帰ればいいのだろう
通りすがりの
見知らぬ人が会釈する
思わずつられて
何気なく会釈した
手を引かれた子供が
ニッコリ笑った
見知らぬ土地で
見知らぬ人に
言葉も交わさないのに
爽やかな微笑みが
頰を撫でるように
擦れ違う会釈が美味しい
こんな情景が
何とも美味しい
渇いた喉を
岩清水が潤すように
信濃路の度は
暑い夏が美味しい
一夏の騒ぎを
セミが競い合い
山間から湧き出す
せせらぎが心地良い
みんな生きている
心地よく美しい
疲れた心が
静かに洗われる
この爽やかな
夏の信濃路に
踏み入れた足が
大地に吸い込まれていく
忘れかけていた
美味しい情景
透き通るような風
ハープを奏でるような
せせらぎの音
持って帰りたい
信濃路が恋しくて
信濃の山間を訪ね
美味しい空気を吸った
頭の天辺から
足の爪先まで
清々しい味がしみた
炎天下なのに
木陰に身を隠すと
岩清水のような風が
スーッと体を包む
一杯の氷水を含んだ
風が美味しかった
額に吹き出る汗が
目にかぶさる
瞬きすると
小さな雫が散って
空の青さが
目に飛び込んできた
ビルの谷間に…
屈折して映す
光と影の動き
時の打つ時刻が
音もなく移動する
気づかないままに
秋は知らぬ顔
襟を立て
脇目も振らず
人の群れは通り過ぎ
落ち葉の群れは
伸び伸びと
路上を駆け
悪戯っぽく舞い遊ぶ
四季の動きを
自然のキャンパスに
淡い彩りを描き
静かな冬を
そ~っと、そ~っと
耳打ちしながら
足音を忍ばせて行く