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クリティカル・シンキングへの道(3) 学校図書館における探究学習

2006年04月03日 | 「学び」を考える
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 クリティカル・シンキングは、いろいろな分野においていろいろな方法で使われるが、ここでは、学校図書館を活用する学びにおいて、クリティカル・シンキングがどのように位置づけられるかを考える。

 私は、1994年に図書課長と視聴覚課長の兼務を引き受けたとき、施設・設備・メディアを充実させるとともに、それを整備・提供する専門職を確保し、学校内にメディアを活用する教育システムを作り出すことが重要だと考えた。それ以来、教科指導をはじめとするすべての教育活動において、児童生徒が資料・情報を活用して自ら主体的な学びを促進することができる環境とシステムを構築することに関わった。阪神淡路大震災で校舎を建て直し、図書館の施設・設備が一新したのを機に、メディアセンターとしての機能を強化するとともに、従来の「調べ学習」を見直して、どの教科の学習にも適用できる「学び方」を学ぶための「情報活用」の構想を打ち出し、1999年から実施した。

 折りしもアメリカでは、1988年から10年間にわたってLibrary Power(注)の取り組みが行なわれていた。その結果を踏まえて、1998年にはアメリカ学校図書館員協会と教育コミュニケーション工学会によって「児童生徒の学びのための情報リテラシー基準」(Information Literacy Standards for Students’ learning)が発表され、2001年にはCarol KuhlthauやDianne Obergらによって“Inquiry-Based Learning Lessons from Library Power” (Linworth Publishing, Inc.)が刊行された。Inquiry-Based Learningとは「探究活動を通して学ぶこと」であり、Inquiry(探究)とは、ただ「調べる」だけではなくて、自ら疑問を持って論理的にものごとを解明していく活動である。それは、まさに、私が1988年にリチャード・ポールのもとから帰国して以来、模索し、試行錯誤してきたクリティカル・シンキングの具体的な指導法にたいする1つの解答であった。

 探究による学びは、児童生徒が未知のこと、驚いたこと、困ったことなどについて、自ら抱いた疑問点を問い、その解明に能動的に関わって、幅広く調査を行なったのちに、新たな理解、意味、知識を形成し、それを他者に伝えることによって、また新たな疑問や行動を誘発していく、循環的なプロセスである。このプロセスで、自らの思考や感情をうまくコントロールし、改善していくことが、クリティカル・シンキングの役割である。探究のプロセスでは、混乱や挫折感を経験することがよくあるが、そんなとき、自らの思考方法を見直し、改善を図ることによって解消されることも多い。このように、自らの思考や感情や行動を見つめる目を持つこと、すなわち「地図についての地図をつくる」ことをメタ認知という。このメタ認知能力によって、人は、いま自分はどこに向かこうとしているのか、何を学ぼうとしているのか、はたして自分にそれができるのか、これからどうすればいいのかといったことを知ることができる。探究活動を通して身につけたメタ認知やクリティカル・シンキングの手法は、授業や学校の外で直面するさまざまな状況にも適用することができる。

(注)ライブラリー・パワーは、1988年から10年間にわたって全米19地域35学校区の公立学校700校延べ100万人の児童生徒を対象として実施された学校図書館再生プログラムで、デウィット・ウォリス・リーダーズ・ダイジェスト基金(現ウォリス財団)が4,000万ドルを出資し、地域の資金源から2,500万ドルを集めて学校図書館の施設・設備・メディアの充実、専門職の確保や研修などのために助成した。

探究による学びに役立つクリティカル・シンキングの手法

クリティカル・シンキングとは、いかなるテーマ、内容、問題についても、思考の構造を巧みにコントロールし、知的な基準を課すことによって思考の質を改善する思考法である。(Paul, Fisher and Nosich, 1993)

クリティカル・シンキングとは、観察やコミュニケーション、情報や議論を、巧みにかつ能動的に解釈し評価することである。(Fisher and Scriven, 1997)

 これらは、Alec Fisher “Critical Thinking-An Introduction” (Cambridge University Press, 2001) 翻訳:アレク・フィッシャー著『クリティカル・シンキング入門』(ナカニシヤ書店、2005)に紹介されているクリティカル・シンキングの定義である。(訳文は、翻訳書の文言にに変更を加えている。)
Critical Thinking: An Introduction

Cambridge Univ Pr (T)

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クリティカル・シンキング入門

ナカニシヤ出版

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 この本は、大学レベルのテキストであるが、資料から必要な情報を取り出す、概念を明確にする、情報源を評価するといったクリティカル・シンキングの手法が探究による学びにどのように活用できるかについて多くのヒントが得られるので、参考までに目次を挙げておく。

第1章 クリティカル・シンキングとは何か、どうしたら上達できるか 
 1.1 クリティカルシンキングの伝統から、いくつかの古典的な定義
  1.1.1 ジョン・デューイと「反省的思考」
  1.1.2 エドワード・グレーザー――デューイの考えに基づいて――
  1.1.3 ロバート・エニス――広く使われている定義――
  1.1.4 リチャード・ポールと「思考についての思考」
 1.2 クリティカル・シンキングの基礎となる技術――幾つかの基本的能力――
 1.3 役に立ついくつかの例
 1.4 クリティカル・シンキングの最後の定義
 1.5 クリティカル・シンカーの態度と価値
 1.6 「批判的‐創造的な思考」
 1.7 この序論についてのまとめ
第2章 理由と結論を見分ける――推論に用いる言葉――
 2.1 推論の有無を決める
 2.2 推論の単純な例
 2.3 「推論に用いる言葉」①
 2.4 「したがって」テスト
 2.5 「推論に用いる言葉」②
 2.6 どうすれば自分の議論を明確に表現できるか
 2.7 書き手の言おうとしていることの見分け方――推論の構造――
 2.8 まとめ
第3章 推論を理解する――さまざまな推論のパターン――
 3.1 最も単純な場合
 3.2 並立的に理由を示す
 3.3 推論の「連鎖」
 3.4 結びあわせられなければならない理由――「結合的な理由」――
 3.5 もっと複雑なパターンの推論
 3.6 少し脇道にそれて――仮言文とその他の複雑な文――
 3.7 議論と説明の違い
 3.8 2つ以上の結論を引き出す
 3.9 まとめ
第4章 推論を理解すること――前提、文脈、シンキング・マップ―― 
 4.1 前提
 4.2 文脈
 4.3 推論を理解し評価するためのシンキング・マップ
 4.4 まとめ
第5章 表現と考えを明確にし、解釈する
 5.1 問題はなにか(あいまいだからか、多義的だからか、例が必要なのか、それとも?)
 5.2 聞き手はだれか?(どのような背景知識や考えを持っていると想定できるか)
 5.3 どうすれば、聞き手の目下の目的にとって十分な程度を明確にできるか
  5.3.1 話を明確にするために使える情報源
  5.3.2 言葉と考えを明確にするやり方
 5.4 目下の状況で目の前の聞き手にはどれほど詳しく語る必要があるか
 5.5 推論を明確にする必要のある問題
 5.6 本章の目的
 5.7 まとめ
第6章 理由の受け入れ可能性――およびその信頼性―― 
 6.1 受け入れ可能性に関する問いかけと文脈
 6.2 さまざまな種類の主張
 6.3 主張の受け入れ可能性
  6.3.1 それはどの程度確かであると主張されているか
  6.3.2 主張の文脈はその受け入れ可能性に影響するか
  6.3.3 それを決定するには専門的知識・調査が必要か
  6.3.4 それは広く知られたり信じられたりしているか
  6.3.5 それは私たちの他の考えとどの程度うまく適合するか
  6.3.6 それは信頼できる情報源からのものか
 6.4 ここまでのまとめ、受け入れ可能性を判断する技術
 6.5 情報源の信頼性を判断する技術
  6.5.1 いくつかの事例の提示
  6.5.2 例1に関する議論――整備士の助言を受け入れるべきか――
  6.5.3 例2に関する議論――「恐竜」人間のレポートを信用するべきか
 6.6 信頼性と真理
 6.7 まとめ
第7章 情報源の信頼性を判断する技術
 7.1 人物情報源が信頼できるかに関する問いかけ
  7.1.1 彼らは関連する専門知識を有しているか
  7.1.2 彼らは正確に観察する能力を有しているか
  7.1.3 彼らの評判は、彼らが信頼できることを示唆しているか
  7.1.4 情報源には利害関係や偏向があるか
 7.2 主張を行う際の状況・文脈に関する問いかけ
 7.3 情報源が提示する、ないしは提示できる正当化に関する問いかけ
  7.3.1 「私はXを目撃した」vs「彼女がXだと私に言った」
  7.3.2 「一次」資料 vs 「二次」資料
  7.3.3 「直接的」正当化・証拠 vs「状況」証拠
  7.3.4 信頼性に関する検討事項に直接言及することによる主張の正当化
 7.4 主張の性質に関する問いかけ
  7.4.1 私たちが知っている他の事柄を考慮した場合、信頼性はどうなるだろうか
  7.4.2 基本的な観察を述べているのか、それとも推定された判断なのか
  7.4.3 「一次」資料 vs 「二次」資料
 7.5 他の情報源からの補強はあるか
 7.6 まとめ
第8章 推論を評価する――前提及び関連する他の議論――
 8.1 推論とは何か
 8.2 よい推論かどうかの最初のテスト
 8.3 推論と議論を評価するその他の基準
 8.4 演繹的妥当性
 8.5 演繹的妥当性と議論のパターン
 8.6 合理的疑いを超えて立証される
 8.7 証拠からみて可能性が高いことが示される
 8.8 まとめ
第9章 推論を評価する――前提及び関連する他の議論――
 9.1 暗黙の前提
 9.2 「もし理由が正しければ結論はこうなる」を前提とすること
 9.3 関連する他の検討事項
 9.4 全体としての議論評価とよく論じられた論拠の提出
 9.5 まとめ
第10章 因果的説明についての推論
 10.1 大部分の因果的説明での推論のパターン
 10.2 因果的説明の例
 10.3 原因について考える際の典型的な弱点
 10.4 たくみな因果的説明のための基本的問いかけ
 10.5 因果的説明の言葉
 10.6 さまざまな事柄をうまく適合させる
 10.7 まとめ
第11章 意思決定――オプション、結果。価値とリスク―― 
 11.1 決定に関する思考におけるよくある欠点
 11.2 よい意思決定のモデル
  11.2.1 決定がなぜ必要かについて明らかにしなさい
  11.2.2 行動の他の可能性を必ず考慮しなさい
  11.2.3 さまざまな選択肢の起こりうる結果を考慮しなさい
  11.2.4 起こりうる結果がどれだけありそう/ありそうにないか、
     どれだけ価値がある/望ましくないかを考えなさい
  11.2.5 道徳的、倫理的関心を適切に考慮しなさい
  11.2.6 どの選択肢が結果に照らして一番よいかについて検討しなさい
 11.3 決定/推奨を扱うためのシンキング・マップ
 11.4 決定の手続きと「正しい」決定を下すこと
 11.5 まとめ

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