大型の台風17号が近づきつつあった9月30日の午後、連続セミナー「ホリスティックな知を育む学校・図書館をつくる」第1回「『希望をつむぐ高校』という希望」が予定通り立教大学で開催されました。台風の動向が気になるところでしたが、質疑応答も活発に行われ、予定の終了時間を10分以上も過ぎて終了しました。ただ、遠方から来られた皆さんは、電車の中に長く閉じ込められて、帰宅が深夜あるいは日付が変わってから帰宅されたようです。本当にお疲れさまでした。
さて、講師の菊地栄治さんは、ご自身の著書『希望をつむぐ高校』(岩波書店、2012)で取り上げられた大阪府立松原高校と同布施北高校の学校改革の取り組みについて、豊富な映像や逸話を交えて分かりやすく語ってくださいました。その要点を私なりにまとめれば、両校の実践に共通しているのは、「しんどさ」を切り捨てないで「声の小さな子ども」や「肩幅の狭い教師」を包み込み、支えながら学び合い、成長しあう場をつくってきたことであり、その根っこには人権教育の歴史の中で培われてきた、優しさをチカラにして生き抜くことへの信頼があったということではないかと思います。
では、この大阪という地域に根ざした「しんどい学校」の取り組みから私たちは何を学び、それぞれの現場でどのように活かすことができるのでしょうか。それを考える手掛かりとして、菊地さんが話された二つの視点を紹介したいと思います。一つは、若者の現実をとらえる視点です。菊地さんは「希望劣化社会」という病を生み出している青少年の「いま」を以下のようにまとめておられます。
① 浅い自己肯定感と満足感と諦め・・・ ‐あふれるモノに馴らされて‐
② 自然体験と社会体験の「浅さ」 ‐「弱さ」「痛さ」「悲しさ」を取り除くことの「脆さ」‐
③ 思考停止と社会参画からの疎外 ‐TVと塾の共通性:答えのある問いと思考の脆弱化‐
④ 静かなる自閉とにぎやかなる孤独・同調圧力 ‐消費社会のコミュニケーション‐
⑤ 時間感覚の変質と募る「イライラ感」 ‐急かされる子どもたち・若者たち
⑥ 就職難と雇用環境の変貌 ‐人を育てない企業の増殖‐
⑦ 「できないこと」の排除と本質的な問い ‐剥ぎ取られる虚構と直線的成長の妄想‐
⑧ 中間集団の解体と市民性の未成熟 ‐政治離れと「現実とかかわる力」の剥奪‐
このどれをとっても、若者だけでなく私たち大人の問題でもあるように思えてなりません。つまり、世の中全体を覆っている問題として捉えて自分たちの生き方を問い直していくべきではないか。そして、この状況を打開するために求められるのは、異質な他者との対話を通してつながりを再構築していくことではないでしょうか。しかし実際の世の中では、それとは逆の方向に向かう力も強く働いています。学校教育でもそのことをしっかりと見極めておく必要があるでしょう。菊地さんは、公共圏をないがしろにする教育改革にたいしてホリスティックな変革をもたらす改革を提唱されています。それは以下のような方向に向かうものです。
① 単純思考から複雑思考へ
② 「上澄み掬い」の改革から生徒のエンパワメントの保障へ
③ 答えに合わせる学力から持続可能な自己&社会形成力へ
④ 資源としての地域活用から地域づくりの協働主体へ
⑤ 抽象化・個人化された「問題」から具体的で切実な「課題」へ
事態の複雑さから目をそむけて問題を単純化し、安易な解決策を求めようとしていないか。学力向上のためにひたすら「教える」ことに追われて、子どもの学び成長する意欲、生きる意欲を高めることをおこたり、あるいは削いでしまっていないか・・・この5つのポイントに照らして日頃の実践を問い直し、軌道修正の目安にしてはどうでしょう。学校図書館もしかり。というより、このような方向を目指すのが学校図書館の本来の姿ではないでしょうか。少なくとも私は、そう思って学校図書館の活動を見つめて応援してきたつもりです。
ホリスティックな学校改革に向かって松原高校や布施北高校では具体的にどのような取り組みが行われてきたのでしょうか。菊地さんの著書に詳しく書いてあります。
希望をつむぐ高校――生徒の現実と向き合う学校改革 | |
クリエーター情報なし | |
岩波書店 |
菊地さんが講演の中で見せてくださった映像の一つTsu-mu-gu《松原高校卒業生からのメッセージ》も松原高校のホームページで見ることができます
そのほか、松原高校の実践がよくわかる本
進化する高校 深化する学び―総合的な知をはぐくむ松高の実践 | |
クリエーター情報なし | |
学事出版 |
るるくで行こう!―新たな学び(ピア・エデュケーション)のスタイルで性と生を考える | |
クリエーター情報なし | |
学事出版 |
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