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オバマ政権下のアメリカ教育改革とリテラシー教育

2010年06月04日 | 「学び」を考える

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 『危機に立つ国家』(1983)にもとづいてレーガン政権の下で進められたスタンダードとアカウンタビリティによるアメリカの教育改革は、クリントン政権を経て、ブッシュ(George W. Busg)政権の下で2002年に成立したNCLB法(落ちこぼれ防止法)へと引き継がれ、強化されたが、それによって、いま、さまざまな歪みが生じていることが指摘されている。そのひとつにハイステイクな標準テストの重視がある。テストの成績によって生徒の進路やその後の人生が左右されることで、教師や学校は、テスト準備の教育に追われることになった。教育の成果は、テスト結果の数値によって(成功か失敗かが)一律に評価され、失敗にたいする責任が問われる。その一方で州は達成率を上げるためにスタンダード(達成基準)そのものを低く設定する傾向があるという。こうした悪循環を断ち、学力格差の解消を目指す徹底した施策を行うことが、オバマ政権下で求められる教育改革の課題である。

 3月13日、米教育省は教育改革のための青写真(A Blueprint for Reform: The Reauthorization of ESEA)を発表し、すべての児童生徒が大学教育を受け、職業につくために必要な学力を身につけて高校を卒業することを保証するために、州や地域が主導権をもって教育改革に取り組むことを求め、高いスタンダードにもとづいて児童生徒の成長や向上をもたらす傑出した取り組みを支援する方針を打ち出した。そのために教育省は、2011年度の教育予算を抜本的に組み替えて43億ドルを捻出し、その配分をコンペによって決める基金とした(Race to the Top Fund)。貧困率の高い学校や学力水準が低迷している学校に焦点を当てて、実証的な根拠にもとづく実効ある抜本的な改善プログラムを立案した州にたいして優先的に財政援助を行うというのである。こうして、ニーズの高い地域や学校にたいして徹底的な支援を行う一方で、それ以外の地域や学校に対しては柔軟な取り組みを奨励しながら結果責任を求めていくという。たしかに、メリハリをつけた施策ではあるが、全体に満遍なく行き渡る予算配分がされないことにたいして当然のことながら反対論も多い。たとえば、国家予算を組み替えたあおりで、これまで最新の学校図書館資料を児童生徒に提供することによってリテラシーの向上をはかるために設けられていた学校図書館に対する補助金(the Improving Literacy for School Library grant program)が削除されることにたいして、学校図書館関係者から反対の声が高まっている。(President Obama Proposes Eliminating Federal School Library Funds)

 3月15日のプレスリリースで教育省のArne Duncan長官は「教師が2年生の水準にある5年生の児童の読書力を一年間で4年生の水準にまで引き上げたとしても、NCLBでは失敗と見なされたが、実際には優れた教師として称賛されるべきである」と語っている。数値によって成功か失敗かの評価をするではなく、児童生徒の成長と学力の向上を評価しようというのである。このような教育改革のモデルとして注目されている学校のひとつに、Duncan長官が教育長を務めていたシカゴ市の公立学校Dodge Renaissance Academy (Chicago, IL)がある。同校は、幼稚園から8年生までの児童400名ほどを擁する貧困率の高い学校(給食費が無料あるいは減額されている児童数が全体の93%)である。失敗校として2002年にいったん閉鎖されるが、2003年に再開され、2004年に現在のJarvis Sanford校長が就任して2年後には、読書と数学の成績が州のトップとなる。校長が取り組んだ改善策は、①学校内の規律の向上、②教員の協力関係の構築と能力開発)、③スタンダードにもとづく読書と数学の指導の3点に集約されるという。とくに目新しい取り組みではないが、市のバックアップによって校長がリーダーシップを発揮して徹底した取り組みが行われたことで成果が上がったといえるだろう。

 では、学力格差解消に不可欠な基礎学力としての読み書き(リテラシー)の育成はどのように行われるのだろうか。Dodge Renaissance Academyでは、balanced literacyの考え方にもとづいてguided reading and independent activities(導かれた読書と自主的な活動)、Writer’s Workshop approach(★作家のワークショップ)、extended response(与えられた課題による小論文)などのプログラムを取り入れ、担任教師と協力してリテラシーの指導を行うliteracy coachを2名配置しているという。balanced literacyとは、児童生徒一人一人の水準に応じて読み書き能力のスキルを向上させるために、さまざまな手法を取り入れながら独り立ちできるまで導いていく指導方略である。これには、スキルや方略を重視するあまり内容把握のために必要な予備知識の獲得がおろそかになりがちだという批判もある。スキルと知識の獲得を一体化させる意味でも、リテラシーの育成は、学校図書館の活用とも深い関わりをもつはずである。今後、リテラシーの育成にかかわって、スクールライブラリアン、リテラシーコーチ、教師がチームを組んで方略を練り、実践することが求められ、それぞれの役割や協働のあり方が問われることになるだろう。また、先に紹介した教育改革のための青写真では、リテラシーの育成に関して優先される例として、大学や職業への準備とむすびついた総合的なリテラシーの育成、家族ぐるみのリテラシーの向上や図書館サービスの充実、テクノロジーとユニバーサルデザインを取り入れた取り組みなどを挙げている。今後、各学校における実践が、地域的な広がりをもつ教育施策のなかにどのように位置づけられ展開されるかに注目していきたい。
<参考>

オバマが仕掛ける州対抗「教育改革コンペ」(ニューズウィーク誌)

Dodge Renaissance Academy(学校改革に関する米政府資料)

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