これは私が高校生の時の怖い出来事です。
梅雨開けも間近ですが、ふと、あの時の夜のことを思い出しましたので、ここに記すことにしました。
出来事は、私が町道場の稽古に出掛け、帰宅する途上でのことになります。
雨がしとしとと降り注ぐ中、私はロードレーサータイプの自転車で国道から家に向かう生活道路に入り、山と田んぼの中の一本道を進んでいました。
この日は辺り一面が薄く霧に包まれていました。道路の右側にはそんなに高くない山が見え、左は田んぼだらけの少し寂しい場所です。
昼時は普通の田舎風景なのですが、夜は街灯もなく、少し気味悪く感じる場所です。
気味が悪いのは多分、ずっと昔に山に入る入口辺りの木のうえで首吊り自殺をした人のことを友人から聞いていたので、ここは怖いという先入観があったのかもしれません。
そういう理由から、ここを通るときは私は自然にスピードが増しているのでした。
山の入口辺りは少し左にカーブしており、その手前まで来た時、いつもと様子が違うことに気づきました。
なにか薄明かりが灯っているのです。
薄明かりの場所は山側ではなく道路の左側、つまりは田んぼ側になります。
田んぼは道路から少し下に降りており、その畦道辺りで灯っています。
なんだろうと不思議に思いましたが、自転車は惰性で直進しています。
直近まで来た時に、そこに人がいることを初めて確認できてたのです。
私はこんな夜に、雨の中、田んぼに出掛ける必要があるのかと思いました。
そうしているうちに、人影がしゃがんでいることに気付きました。
まさか倒れたり、具合が悪かったりしているのではないかと心配になり、そこで停止することにしました。
「どうしましたか?」と声をかけたのものの、老婆は無言でした。
しかし、次の瞬間、私は凍りついたのです。
そこには決して見てはならないものがいたのです。
雨具を着ることもなく、鎌を研ぐあやしげな一人の老婆。
腰が曲がっているのも確認しました。
相手の顔は私に対して斜めに背を向けた格好になっており、耳の辺りしか見ることはできませんでした。
私は自分でも鎌や斧を練習で使用していたので、瞬時に何かは理解できます。
間違いなく大きな鎌でした。
鎌と認識した後、次の行動は危険回避でした。
迷わずこの世のものではないと直感したので、一目散にそこから離脱したのです。
後ろを見るなんて私には余裕はありません。
追いかけてきたらどうしようという余裕もありませんでした。
ただ、人間じゃないものに拳は効果はあるのか?
そんなことを少しだけ考えつつも、早く住宅街に駆け込むことで必死でした。
どうにかこうにか、逃げこむことができ、助かったのです。
翌日の朝、昨日出来事が嘘のように穏やかに朝から晴れ渡っていました。
私はそこを通った際にじっくりと、その場所を確かめてみました。
昨日の夜に草刈りをしたような痕跡はなく、やっぱり、やばかったという事実を知ることになったのです。
農家の人は田んぼの畦道の刈り取り範囲が広いことから、皆んなエンジン付きの草刈機で草刈りをします。
鎌を使うのはコンバイン等の機械が入る場所を確保するためだけです。
つまりは稲刈りの時だけです。
まだ穂も出ていない時期に稲刈りをする必要もありません。
私はこの日を境に、夜遅くそこを通ることは止めました。
ただ、あの霧夜に、雨のしとしとと降り注ぐ中で、鎌を前後に砥石のようなもので無言で研いでいた「一人の老婆」。
その「光景」と「音」だけは未だに脳裏に蘇るのです。
しかし、あれは一体何だったのでしょうか・・・。
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