背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

海へ来なさい【2】

2009年08月19日 04時23分53秒 | 【別冊図書館戦争Ⅱ】以降
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――柴崎。お前、細いぞ。
ちゃんと飯食ってるのか。じゃなくて、華奢だとは思っていたけど、こんなに華奢な女だったっけ?
まともに見ることができないくせに、視線がどうしてもそちらに行ってしまうのを止められない。
柴崎のセレクトした水着は、白のホルターネックのワンピースだった。しかし、背後はビキニのように見えるデザインだ。水着に劣らない、抜けるように白い肌がやけにまぶしい。まるで生まれてからこのかた、一度も日の光に当たったことなどないように見える。
と、そこまで想像して、実際に一度も日差しを浴びたことのないであろう部位を想像してしまい、焦って頭に浮かびかけた妄想の雲を追い払う。
柴崎は「いかがです? 夏のお嬢さんたちの登場です」ともったいぶって 郁と毬江を手で示した。
二人は男性陣の視線が気になるのか、もじもじとしている。
郁は、空色のキャミソールとカーキ色のホットパンツのセットの水着でアクティヴなイメージ。対して毬江はパイル地のような柔らかい素材のピンクのビキニで、キュート路線だ。
はにかむ二人をさらりと小牧が褒める。
「とてもよく似合ってるよ、二人とも。もちろん柴崎さんもね」
「ありがとうございます。3人で何軒もお店を回った甲斐があります。特に笠原なんか、どうやったら堂上一正を悩殺できるかそればっかり狙いで」
「ぎゃあ、あんた真顔で、でたらめ言うな!」
「あれ? そうだっけ?」
柴崎の口をふさぎにかかる郁を見て、堂上が「でたらめなのか」と笑う。
そして、
「悩殺もんだよ。実際。――よく似合ってる」
声のトーンを少し落として、そう言った。
伏し目がちのその仕草が、本心からそう言ってくれているのだと分かって、郁は天にも昇る心地になる。
ああ、……篤さん。よかった、買った水着、今まで家で試着して見せなくて。
嬉しい。けど、恥ずかしいです。他に人もいるのに。
現に小牧などはにまにまと面白がる素振りを隠そうとしない。
何かからかわれると思い、郁はとっさに言った。
「あ、――あたしっ、泳ぎます!」
赤い、赤いよ、絶対顔が。
冷やさなきゃとばかり、郁はまっしぐら、波打ち際へと駆け出した。
「お、おいっ。お前、ちゃんと準備体操しろオ! 怪我すんだろうが!」
ぎょっとして後を追いかけ、郁の首根っこを堂上が押さえにかかる。
海難救助隊の世話になっていいのか、と砂浜でいつもの説教が始まる。
二人のやり取りを見て、他の四人が笑った。


「――海?」
と、言って慌てて、「ですか」と付け加える。
ああ、と堂上が渋い顔をこしらえた。
「来週あたり、○○まで足を伸ばそうかって思ってる。お前も、どうだ? 何か予定は」
上官にそんな風に言われて「予定があります」と答える訓練は、入隊以来手塚は受けていない。
いいえ、と即答した。
「ないです。お供します。――ただ」
そこで躊躇いを覗かせる、手塚。
辺りをはばかって、少し声を落とした。
「一正と笠原のお邪魔ではないのですか? 俺なんかが一緒で」
「ああ。それは気にせんでくれ。うちのが柴崎にも、小牧や毬江ちゃんにも声をかけたから」
「柴崎も、ですか?」
「ああ、何でも柴崎が言い出したらしいぞ、海に行きたいとか何とか」
「あいつが?」
海だって?
あの、日焼けするのが嫌いで、虫刺されさえ極度に嫌がり、アウトドアにはまったく興味を示さないような、あの女が。海に行きたいだと?
強烈な違和感を覚えながらも、手塚はその場では堂上に追及することはしなかった。たとえしたとしても、堂上が詳しい事情まで知っているはずがない。
とにかく今のところ総勢六名で、行く先は○○海岸と予定しているとのこと。
雨天時は順延な、そこまで言って、仕事のときのような口調だと気がついたか、堂上が声を少し和らげた。
「車の手配は俺がやるから、よかったら、運転協力してくれな」
「はあ、それは構いませんが」
答えながら、手塚は後で郁を捕まえなくてはと頭の片隅で考えていた。


「だからあ、あんたも察しなよ。あんなことがあった後で、初めて柴崎が出かけたいって言ったんだよ? そこが海であれ地獄であれ、一も二もなくかなえてあげないで、どうするの」
郁は、きっぱりと言った。
地獄ってたとえはあまりにも乱暴ではないだろうかとは思ったが、郁の口から直接聞けたことで、ようやく手塚の中で海計画が腑に落ちる。
郁の言う「あんなこと」とは、思い出したくもないが、例のストーカー事件のことだ。
あれから大分時間は経過し、あの事件のことも基地内で話題に上ることはめっきり少なくなった。
当事者、かつ被害者である柴崎でさえ、普段どおりの生活をして、あんな出来事が起こったことなどもう忘れてしまったかに見える。
しかし、手塚は気がついている。正式に彼女と付き合うことになったからか、柴崎自身が自分にガードをかけなくなったせいかは分からない。が、今でも柴崎が仕事の広報関係などで写真を撮らざるをえないときでも、被写体になるのを極度に嫌がることを。そして神経質なくらい、個人情報の管理を上に求めていることも。
それはきっとというか確実にあの事件が引き金になっているのであって、表面的には解決した事件、過ぎたことであったとしても、柴崎に与えた傷やダメージははかりしれないほど大きいだろうということをいやでも思い出させられる。そして同時に手塚は自問せざるを得ない。
自分が、きちんと柴崎をケアできているのかということを。
年長者のような口ぶりで、郁は言う。
「あんたとしては、もちろん二人きりでデートのほうがいいんだろうけどさ、たまには大人数でぱあっと繰り出したほうが柴崎の気も晴れるかと思って」
「なんだよ、それ。後ろのほうは賛成だけど、前には同意できないぞ」
「どうだかー。独り占めしたいとか思ってるんじゃないの、四六時中」
「ば……っ」
かやろう、んなことあるか。そう言いかけて、今、仕事中であることにはたと気づき、上官のデスクを窺いながら声を落とす。空咳をひとつわざとらしくついて、
「……まあ、夏だしな。俺も、柴崎に何かしてやれたらと思ってたところだ。誘ってくれてよかった」
と言う。イベント的なことを企画するのは、やはり女友達には及ばない。
郁はそれを聞いて安心した顔を見せた。
「あんたが柴崎のこと大事にしてるのは、みんな知ってるけど、たまには大人数で騒ぐのも気分転換になると思うよ」
「……うん」
すとん、と物を置くように頷く手塚。
その横顔を見ていたら、なんだか無性にからかいたくなってしまう。
「ところで、あんた、いつになったら柴崎のこと、名前で呼ぶのよ。愛想ないなあ」
「うるさい。お前に関係ないだろ」
手塚はわずかに顔を赤らめて、書類に向き直る。
にわかに仕事モードに入るふりをして、会話を断ち切るつもりだ。郁は言葉を重ねた。
「関係なくないもんね。あたしは柴崎のともだちだもん。
柴崎、待ってると思うなあ。あんたの【麻子】っていう甘い囁き」
お前、いい加減にしろよ。
そう口を開きかけたところで、堂上に一喝される。
「笠原、手塚、いい加減にしろ。お前ら勤務中だってこと、忘れてるんじゃないのか」
「はいっ」
慌てて郁もデスクに向かう。手塚もむっつりと口を引き結んだ。
夫婦だの親友だのに関係は変化しても、新人のときのころとこの人たちは全く変わらないな。内心笑みをこぼしながら、小牧もそのときばかりは茶々を入れずに黙って彼らを見守った。

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2 コメント

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そ、そこはっ! (たくねこ)
2009-08-19 13:51:56
ちゃちゃいれようよっ小牧っ!!
なんか小牧がお兄さん(おじさんではない)ですね~~~(^^)
柴崎の白の水着…私までごっくんしたら、ただの変態ですね(^^;)すみません…
返信する
入れたほうがいかったですね~ (あだち)
2009-08-20 16:38:46
でも進行上、この辺りで切ったほうがいいので。今回はスルーということで。笑
柴崎は黒系の水着が似合いそうなのですが、そこをあえて白で! 狙ってみました(^^;
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