「だからあ、あたしはたまに外で待ち合わせしたいの。デートって雰囲気出るじゃない?」
「雰囲気?」
「ごめん、待った?いや、今来たところだよって。そうして連れ立ってお店とか行くの夢なんだーあたし」
「夢……」
「何よ、文句ある?」
「いや。……可愛いこと言うなって。ちょっとツボった」
「ちょ、ジョウ、赤くならないでよ。感染るじゃないの」
言いつつ頬を染めて黙ってしまう。完全に感染ってしまっている。
コホン。ジョウはわざとらしく空咳をして仕切り直す。
「まあ、言い分は分かる。けどな、俺としてはおしゃれした君をエスコートするのがデートのだいご味なんだがな」
「だいご味?」
「ああ。待ち合わせも確かにいいもんだよ。でも、着飾ったアルフィンがとてもきれいで、それがデートのためにおしゃれしてくれたってだけでテンションが上がる。そんな君をうちからエアカーに乗せて目的地まで連れて行くのは、俺の特権なんだがな」
で、そこで思い切り楽しんで、くたくたに疲れた君をうちに連れ帰るのも、と付け加える。
「ま」
アルフィンは口を手で押さえた。でも、喜色は隠し切れない。
言われてみれば、デートに出かける時、ジョウは自分をうやうやしく扱い、エアカーのドアさえも自分で開閉したことはないことに気づいた。
アルフィンは言った。
「……いいわ。待ち合わせはなしにする。今度のデート、いつもみたいにエスコートしてくれる?」
「もちろん」
「嬉しい、じゃあ飛び切りおしゃれしちゃう。期待しててね」
「ん」
リビングでのやりとりの一部始終を見ていたリッキーが、「……なんだい、あれ、タロス」と相棒の耳元に口を寄せた。
「しっ。目を合わせるんじゃねえよ。呪われるぞ」
タロスはニュースペーパーに落とした視線を固定する。意地になってジョウ達には目を向けない。リッキーは目を白黒させる。
「の、呪い?」
「ああ。独りモンには目の毒以上だぜ。当てられて心身を削られる。ーーイイから今は頭を低くして、目を閉じて岩みたいになって通り過ぎるのを待つンだよ。じっとしてな」
「ううう」
「二人のデートが終わるまでの辛抱だ。乗り切るぞ、なあボウズ」
「わかったよ! 兄貴とアルフィンのデートが終わるまでしのごうぜ、タロス」
……ミネルバの中で繰り広げられる《デート問題》の一端。
END