背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

君の中のプラネタリウム(【空の中】春名×光稀) R連載開始

2011年11月26日 06時13分10秒 | 【空の中】
 今日のデートはプラネタリウムに行かない?
春名がそう誘ったときには、特別、下心なんてなかった。
空の上を飛ぶことを生業(なりわい)としている光稀だが、夜空をフライトするのはさほど経験したことがないのではないだろうか。
光稀さんは、青空も似合うけれど満点の星空も似合う。
……だなんて気障い台詞は言うつもりはない。本心は、ただ単に自分が光稀と星を見たいだけなのかもしれない。
でも光稀はとびあがらんばかりに喜んだ。
「プラネタリウム! 行く、行きたい」
目を輝かせて言う。
「小さい頃から大好きなんだ。最近ずっと行ってない。お前と行きたい」
そこまで言って、あ、と口を押さえ、「……高巳と」といい直す。ばつが悪そうに上目で窺った。
名前呼びしてよと日ごろから言っている春名は、「よくできました」と光稀の頭をぽんと撫ぜた。
光稀の手を把ってじゃあいこうかと促す。歩調を合わせて交差点に踏み出した。
光稀は春名の隣を歩きながら彼の横顔を盗み見る。
白昼、街中でこんな風に自分が男と手をつないで歩くようになるなんて、思わなかったな。
人目を気にしてできないほうだと思っていた。照れくさくて。
でも、春名と付き合うようになって、自然とそうするようになった。いつも身体のどこかが触れ合っている。交差点の信号待ちでも、ウインドーショッピングのときでも。
映画館に入っても、隣り合わせの席で自分たちは手をつないでスクリーンを見る。
ときたま、自分から春名の肩にもたれてみたり。…光稀は我ながら変わったものだと思う。
春名といっしょのときは、きっと基地の同僚には見せられない顔をしているのだろう。
春名はいつもしなやかに自分を受け止めてくれる。おちゃらけているように見えても、気遣ってくれている。異性との付き合いの経験値が少ない自分をリラックスさせようとしてくれているのが分かる。
デートだって、いつも私が愉しめるよう心を配ってセットしてくれる。
優しい。
こっちから好きって、春名に好きって言ったこと、あったっけか。
自分の歩調に合わせてくれる春名を見ながら光稀は思う。
「ん?」
 光稀の視線を感じ、春名が横を向いた。
 うっかり、自分の思いを口に載せてしまったかと光稀はどきっとする。
「な、なんでもない」
「どうしたの、寂しくなった?」
「寂しい? どうしたらそんな言葉が出てくるんだ?」
 さっき会ったばかりなのに。久方ぶりに。
 春名はんー、と考える素振りを見せてから言った。
「だって光稀さん、俺とデートしてる間、時々泣きそうになるじゃない?」
「え」
「時間が経つのがやだ、もっと一緒にいたいのにって顔してるでしょう。ひどいときは、会ったときから」
 寂しがりやだよね、案外。さくっと口にする。
「そ、そんな」
 ぼぼぼぼぼっと頬が真っ赤になるのがわかった。自覚なんてなかった。けれども春名にはだだ漏れだった?
「んな女々しいこと私が思うはず無い。お前の思い過ごしだ」
 光稀の強がりを春名は笑顔で受け止める。
「女々しくなんかないよ。感情がストレートで可愛いなって思ってただけ。指摘して、気に触ったらごめん」
「……私、丸分かりか」
 おそるおそる訊くと、「割とね」とあっさり返答。
 かなわない。取り繕えない、この男の前では。
 言葉通り、心も身体も丸裸にされてしまう。悔しいけれどそれが、たまらなく甘美でもある。
「じゃあ今私が何を考えているかあててみろ」
 立ち止まり、あごをくっと持ち上げて訊いてみる。春名も光稀に合わせて歩を止め、まじまじとその面を覗き込んだ。
 そして、すばやく屈んでちゅっと唇を浚う。
 街中、公衆の面前でキス。
「――」
 光稀は身動きもかなわない。目を見開いたまま棒立ちだ。
 春名は何事もなかったかのように「いこっか」と促した。
「お、お前、っ」
 呪縛が解けて、光稀はおたついた。仁王立ちになり、拳を握る。
 振りかざそうとして、思いとどまる。い、いかん。この癖も直さなければと普段から気をつけていたんだった。
「あれ、違ってた? 光稀さん今俺にキスして欲しいって思ってたでしょう。そういう顔だったよ」
 春名は平然と言い、拳を握り締めたものの行き所を探しあぐねている光稀を眺めている。
 彼に見つめられると激高していた感情がゆるゆると溶けていくのが分かった。
 身体の脇に手をだらんと力なく戻して、光稀はうつむいた。
「……じゃあ今はどう思ってるか、当ててみろ」
「そうだなあ」
 春名は改めて光稀の前に立ち、様子を探る振りをして見せた。
 光稀のことなら、何でも分かる。
 春名はその身体をそっと自分の懐に引き寄せた。抱きしめる。
「高巳」
 光稀の声が春名の胸に当たってくぐもった。
「こうしてほしいって思ってたでしょう、違う?」
 憎らしいほど落ち着いた声が返ってくる。
 もうやだ。もう、全然敵わない。
 この人には。
 光稀は春名の背に腕を回し、彼のシャツをぎゅっと握った。
 シャツに頬を摺り寄せる。
「違わない」
 小さな声で囁く。
「高巳、大好き。キスして」
 今ここでして。
 交差点を渡り終えたところで二人は抱擁し、口づけをかわした。それはそれは情熱的に。
 光稀からも求めた。目を閉じて背伸びして。
 ほんとに好き。
 つぶった目に、陽光があたってまぶしかった。
 今日は快晴。


「……ほんと、身が持たないなあ、光稀さんにかかっちゃ

 俺、骨抜き。完全に。
 そう言ってシートに座り込む春名の顔はどこかしら赤い。
「あんな隠し玉持ってるなんて反則ですよ、このお嬢さんは」
「だって、お前がそうさせるんだろ」
 ぶすっと口を尖らして光稀が言う。春名の隣の席に腰を下ろしながら。
 着慣れないスカートの裾を気にして、しきりに皺を直す。
「普段の私はあんなじゃない」
「俺といると普段どおりじゃないんだ、ふーん」
「……」
 ……やっぱり訂正する。嫌い。
 こっちの反応見て愉しんでる。意地悪。
 じと目でにらむ光稀を意にもかけず春名は機嫌よく言った。
「言うのが遅れたけど素敵だね、今日の光稀さん。女優さんみたいにきれいだ」
 そしてシートをリクライニングさせる。このプラネタリウムは全席自由。シートを選択できるタイプだった。眺める角度も思いのまま調節できる。
 平日の午後、まだ浅い時間ということで人の入りはまばら。というか、ほとんどない。ゆったりしている。
 街の文化ホールの中にある規模も小さいところなので、カップルのデート用というより小学校の遠足で訪れるような健全な雰囲気が漂っていた。
 お土産のショップもついていないし、売店も無い。
「スカート、嬉しい。可愛くて」
 光稀は呆れた。
「お前はスマイル0円というか、言葉を惜しまないな、ほんと」
「釣った魚にもご馳走をやる主義なの。俺」
「なのとか言うな」
「それにしても空いてるね。穴場だな、ここ」
 辺りを見回して言う。遠距離で久しぶりに会う自分たちのデートコースにしちゃ、ちょっとしょぼかったかなと気にしている。
 光稀は言った。
「いいじゃないか、貸切みたいで。贅沢だ」
「……ありがとう」
 春名は光稀の手を引き寄せた。自分の太腿の上に。
「二人きりで宇宙を散歩しようね」
「お前のその口説きセンスはどうかと思うぞ」
 でも二人きり、というのは気に入った。うれしそうに光稀が微笑む。
 その笑顔を見られただけでも連れてきた甲斐がありましたよ。春名は心の中そうひとりごちた。

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2 コメント

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パスワード申請 (あい)
2011-12-20 17:11:29
初めまして。
高校生の娘と娘の友達と一緒に有川作品にはまっています。きっかけは夏に書店で偶然手にした図書館戦争からです。まさか自分がこんなにも夢中になるなんて思いもよらなかったです。
毎日更新されていないか確認するようになるなんて。これからも楽しみにしています。
パス申請よろしくお願いします。
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メールにて請求願います (あだち)
2011-12-21 04:45:09
あいさま
コメント有難うございます。
夜の部屋のパスの件ですが、この記事の末尾にあるメルアドに再度ご請求くださいますか。折り返しいたします。
コメント欄にてはご回答しかねますのでご了承ください。
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