【9】
いよいよカオスの容態を呈し始めた会場。そこへ、いよいよ核弾頭の登場となった。
「パーティークラッカー参上! わはは、待たせたな皆の衆!」
真打登場だぞ! 両開きの扉をバターンと豪快に開け、入ってきたのはなんと二メートル大のくまのプーさ○の着ぐるみ。
小道具ではちみつのポッドを小脇に抱えているという演出のにくさだ。でも明らかにその声は玄田の声で。
「うわあ! 来た!」
「隊長が来たぞ! か、隠れろっ」
異変を察した連中が騒ぎ立てる。ふふ、と着ぐるみの中で玄田がほくそ笑む。つかみはおっけーだな。ばっちしだ。インパクト大!
自画自賛してドアのところで仁王立ちしたプーさ○はそこで「ん?」と会場を見回した。
そしてむむう、と獰猛に唸る。
「貴様ら……なんだこれは。もうお開き寸前の状態じゃないか!」
誰だ、俺に開始時間を遅らせて教えたやつ! と咆哮した。
それは特殊部隊の精鋭たちのスマッシュヒットだった。玄田に好き勝手させないように、パーティーの開始時刻をずらして教える。二時間遅れで登場した玄田が気づいたときにはもう終了間際という段取り。
基本的で古典的といえばそれまでだが、効果的な作戦だった。
うぬぬと歯噛みして悔しがるプーさん。緒方のやつ許さんぞおと言っているところを見ると、今回の策士は緒方らしい。
やけになった玄田は両手を振りかざし中央に置かれた食事のテーブルに突進した。
「こうなったら食ってやる。残りの料理、みんな食ってやるぞー!!」
こちとらこんな時間まで空腹で飢えてんだ。はちみつ壷をラグビーボールのように抱えたまま猪突猛進。
「うわ、隊長が来た、逃げろっ」
「まともに食らったら、怪我するぞ!」
蜘蛛の子を散らすがごとく、わらわらと逃げる寮生。手塚に群がっていた同期たちもその例外ではなく。
悲鳴を上げてテーブルを離れた。阿鼻叫喚。地獄絵図だ。
それまで複数人に取り押さえられていた手塚だけが取り残された。テーブルのへりにしがみついて体勢を整える。
彼は見た。世にも恐ろしい光景を。
癒し系筆頭のキャラクター、くまのプー○んの着ぐるみが、表情はいたって穏やかなまま自分のところへ突進してくるのを。
しかも超重量級、二メートルときた。どすどすと地鳴りを上げている。二メートルのプーさ○は、怖い。はっきり言って、ホラーだ。
口角を持ち上げた優しげな笑顔が、却って怖い。
「うわあああっ」
さしもの手塚も腰が引けた。
「どけえ、手塚! 残りの料理、全部俺が戴く!」
手塚に、というより、テーブルにうおおおっと飛び掛るプーさ○。
手塚はとっさに地べたに突っ伏した。訓練で叩き込まれた防衛体勢。
と、そこへ、
「待ちなさい! 好き勝手はさせないわ!」
りんと澄んだ声が、会場に響いた。
そしてばばばばば、という銃声。なんだ、出入りか?とみな色めきたって戸口を見る。
手塚も、伏せた格好で顔を上げた。そして見た。
アサルトライフルを腰だめに構えた戦闘服姿の隊員を。
特殊部隊班の制服。迷彩柄。同色のヘルメット。そしてミリタリーブーツ。
堂上かと思った。小柄だったから。
しかし、すぐに悟った。その正体を。
「毎年毎年、このパーティーを隊長に引っ掻き回される訳にはいきません。ご覚悟!」
見得を鋭く切って、またライフルを構える。その姿は惚れ惚れするほど様になっている。
柴崎。
手塚が目を剥いた。なんで、し、柴崎が?
手塚はさっきの銃声がBB弾であることを知る。足元に小さな弾が無数に転がっているからだ。
玩具か。当たり前か。
本物の銃の許可が下りるはずが無い。でも、あいつ、どっからあんな獲物を?
しかし彼が疑問を口にする前に、プーさんが吼えた。
「なにおう、小癪な。女堂上め。やるか」
真っ向、向かっていく。ミリタリーの柴崎に。
手塚はやばい、と瞬時に動く。くまのプーさ○の足にしがみついた。
ばたーん! と地鳴りを打って玄田が倒れる。
「うおっ」
「す、すいません、つい」
「手塚、きっさま~~」
プーさ○が肩越しににらみを利かす。中身が玄田だと分かっているだけに、恐怖だ。でも、柴崎に手を上げさせるわけには行かない。
起き上がろうとした玄田の脚にさらにひしとしがみついて、手塚は言った。
「失礼を承知で申し上げます。隊長、どうかご乱心なさらないでください、冷静に」
「なにをう」
俺のどこが乱心してるってんだ! そう喚くプーさ○は完全に我を失っている。
「座興ですから、お目こぼしを。柴崎だって、お遊びでやってるだけで」
そこまで言ってる矢先に、またばばばばばとBB弾が降り注ぐ。雨あられのごとく。
「うわ」
直接は当たらない。が、至近距離に着弾してはぜるので、目を開けていられない。
「遊びじゃないですよ、本気です」
うふふと目を引き絞る。ヘルメットのつばをぐいと親指で弾き上げた。
美しい面が晒され、男たちが色めき立つのが分かった。
男装も、いい……。
「柴崎、お前っ」
ばか、煽ってどうするよ! 手塚の頭に血が昇る。その間も必死でプーさ○の足にかじりつく。
「許さんぞ、そこへなおれ、成敗してくれる」
玄田は唸って身を起こそうと足掻いた。到底、手塚一人で押さえ込める代物ではない。
「手塚に加勢しろ、柴崎さんを守れ」
「おう!」
特殊部隊班も、業務部も、みな一様にプーさんに飛び掛る。力では到底対抗できるものではないが、数で勝負だとばかり大人数で押さえ込み。
「うわ、なんだお前ら、汚いぞ」
プーさ○も必死の反撃。手足をばたつかせ、抵抗する。
それを手塚以下数名の精鋭たちが捕らえる。手塚は形相を変えて、「柴崎、逃げろ! 逃げて教官を呼んで来い」と怒鳴った。
堂上でも小牧でもいい。誰でもいいから上官を、この惨状を収束できる人間を呼べ。
柴崎はライフルを構えたまま、「誰が逃げるもんですか。こっちには隠し玉があるのよ」と告げる。
「え?」
虚を突かれたのは、手塚だけではなかった。プーさ○、つまり玄田もその言葉できょとんとなる。
「隠し玉?」
ってなんだ? 男たちの塊が一瞬動きを凍てつかせた、そのとき。
「いい加減にしなさい、玄田くん!」
柴崎とは別の、涼やかな声が割り込んだ。
女性の、きりっとした高い声。それを耳にした瞬間、プーさんがぎくりと身をこわばらせる。
ま、まさかこの声は……。
だりだりと、いやな汗が、着ぐるみの中、湧き上がる。玄田がまさかな、まさかあいつがここにいるなんてことはあるまい。空耳だ自分の、と言い聞かせる。
しかしそれは現実のもので。
遠巻きにしてこの修羅場を眺めていた人垣から現れたのは、白雪姫だった。
いや、正しく言うなら、白雪姫の扮装をした女性。仮面をつけているので、顔は見えない。
しかし、その正体に玄田はもう気がついていた。
彼の許まで歩み寄り、白雪姫は言った。冷静な口調で。
「いい年してみっともない。柴崎さんに言われて監視に来てみたら、このていたらく。いったいどうしたこと」
「……お、お前」
プーさ○の声がかすれる。その上に乗りあがった手塚たちがゆっくりと身を引く。もう暴れる気配は無い。
白雪姫はゆっくりと仮面を外した。仮面から現れたのは、紛れもない折口その人だった。
プーさ○は反射で戸口に逃げようとする。膝伝いのままで。
「こら、逃げない。ちゃんと立って、玄田くん」
鋭く制止。すると、しぶしぶプーさ○は言われたとおりにした。のろのろと立ち上がる。巨大着ぐるみの威容を見せ付ける。
しかし一向に怯む様子を見せずに折口は、
「何をやってるの、みっともない。クリスマスイブだってのに」
呆れた口調で諭し始める。玄田は大きな身体を折るようにしてうな垂れ、折口の説教を聞くしかなかった。
「だいたい、何、その格好。どうしたのそれ。借り物?」
「これは、その、特注で……」
ごもごもと返すと、額に手を当て折口はかぶりを振った。
「なんて勿体無い……。いくら注ぎこんだのそんなのに。そのお金があったら、どこかいいホテルでディナーでもできたのに」
よりによって特注だなんて。と嘆く白雪姫。
一応、抗弁しようと思い立ったか、プーさ○、いや玄田が言った。
「お前だってなんだよそれ。年甲斐も無い。白雪姫だなんて」
「これはレンタル。柴崎さんが用意してくれたの」
ね? と目を見交わす折口と柴崎。
「女の子はいつまでだってお姫様でいたいものなんですよ。女心を分かってませんね、隊長どの」
それにとっても似合うし、折口さん、と言い添える。
折口ははにかんだ。少女のようなあどけない笑みを浮かべる。
「ありがとう、すっかりコスプレ堪能させてもらっちゃった。初めてお呼ばれしたけど、楽しいわね。ここのパーティーって」
「こちらこそ、隊長を取り押さえてくださって有難うございました」
実際、折口さんしかいないと思ってたんですよねー、最終兵器はと内心付け加える。
玄田のアキレス腱。大切な人。
この人がいたら、傍若無人な真似はできまい。
「柴崎さんも似合ってるわ、その軍人さん? ファッション」
まさかドレスチェンジしてくるとはね、にくいわと褒める。
「吸血鬼の衣装も似合ってたけど。美人は何を着てもお似合いね」
「有難うございます、でもそのお言葉謹んでお返ししますよ」
「まあ」
女同士和気藹々。
プーさん玄田は手塚と顔を見合わせるしかない。
「ってことで、今年は決まりだな」
「何がです?」
「仮装大賞だよ。狙ってたんだけどなー。併せ業一本で柴崎に決まりだろ今年は」
「あ……ですね」
手塚も納得する。
確かにしてやられた。お前には。
衣装を変えて会場に再登場するのといい、仕込みで折口をパーティーに紛れ込ませておいた計画といい。
降参だよ。
内心、白旗をかざす。と、それを見透かしたように柴崎が笑った。会心の笑み。手塚にしか分からない仕草で首のあたりをちょん、と突く。
自分の噛み痕を暗に指している。手塚は柴崎に噛まれたところをとっさに押さえた。
首筋が熱い。先ほど、柴崎の私室の秘め事も脳裏を過ぎる。
くっそーと悔しく思うも、なぜかすがすがしく。負けたな。今年は完敗だお前に、と諸手挙げ。
柴崎はしてやったりの敬礼を決めた。
「来年はここでないところでディナーをしない? 玄田くん。仮装も悪くないけど、今年でお腹一杯かも」
折口が微笑んだ。
玄田が「むう」と唸ったのがおかしくて、柴崎と手塚は思わず笑みを漏らす。
聖夜のパーティーはそれで自然とお開きとなった。
【11】
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いよいよカオスの容態を呈し始めた会場。そこへ、いよいよ核弾頭の登場となった。
「パーティークラッカー参上! わはは、待たせたな皆の衆!」
真打登場だぞ! 両開きの扉をバターンと豪快に開け、入ってきたのはなんと二メートル大のくまのプーさ○の着ぐるみ。
小道具ではちみつのポッドを小脇に抱えているという演出のにくさだ。でも明らかにその声は玄田の声で。
「うわあ! 来た!」
「隊長が来たぞ! か、隠れろっ」
異変を察した連中が騒ぎ立てる。ふふ、と着ぐるみの中で玄田がほくそ笑む。つかみはおっけーだな。ばっちしだ。インパクト大!
自画自賛してドアのところで仁王立ちしたプーさ○はそこで「ん?」と会場を見回した。
そしてむむう、と獰猛に唸る。
「貴様ら……なんだこれは。もうお開き寸前の状態じゃないか!」
誰だ、俺に開始時間を遅らせて教えたやつ! と咆哮した。
それは特殊部隊の精鋭たちのスマッシュヒットだった。玄田に好き勝手させないように、パーティーの開始時刻をずらして教える。二時間遅れで登場した玄田が気づいたときにはもう終了間際という段取り。
基本的で古典的といえばそれまでだが、効果的な作戦だった。
うぬぬと歯噛みして悔しがるプーさん。緒方のやつ許さんぞおと言っているところを見ると、今回の策士は緒方らしい。
やけになった玄田は両手を振りかざし中央に置かれた食事のテーブルに突進した。
「こうなったら食ってやる。残りの料理、みんな食ってやるぞー!!」
こちとらこんな時間まで空腹で飢えてんだ。はちみつ壷をラグビーボールのように抱えたまま猪突猛進。
「うわ、隊長が来た、逃げろっ」
「まともに食らったら、怪我するぞ!」
蜘蛛の子を散らすがごとく、わらわらと逃げる寮生。手塚に群がっていた同期たちもその例外ではなく。
悲鳴を上げてテーブルを離れた。阿鼻叫喚。地獄絵図だ。
それまで複数人に取り押さえられていた手塚だけが取り残された。テーブルのへりにしがみついて体勢を整える。
彼は見た。世にも恐ろしい光景を。
癒し系筆頭のキャラクター、くまのプー○んの着ぐるみが、表情はいたって穏やかなまま自分のところへ突進してくるのを。
しかも超重量級、二メートルときた。どすどすと地鳴りを上げている。二メートルのプーさ○は、怖い。はっきり言って、ホラーだ。
口角を持ち上げた優しげな笑顔が、却って怖い。
「うわあああっ」
さしもの手塚も腰が引けた。
「どけえ、手塚! 残りの料理、全部俺が戴く!」
手塚に、というより、テーブルにうおおおっと飛び掛るプーさ○。
手塚はとっさに地べたに突っ伏した。訓練で叩き込まれた防衛体勢。
と、そこへ、
「待ちなさい! 好き勝手はさせないわ!」
りんと澄んだ声が、会場に響いた。
そしてばばばばば、という銃声。なんだ、出入りか?とみな色めきたって戸口を見る。
手塚も、伏せた格好で顔を上げた。そして見た。
アサルトライフルを腰だめに構えた戦闘服姿の隊員を。
特殊部隊班の制服。迷彩柄。同色のヘルメット。そしてミリタリーブーツ。
堂上かと思った。小柄だったから。
しかし、すぐに悟った。その正体を。
「毎年毎年、このパーティーを隊長に引っ掻き回される訳にはいきません。ご覚悟!」
見得を鋭く切って、またライフルを構える。その姿は惚れ惚れするほど様になっている。
柴崎。
手塚が目を剥いた。なんで、し、柴崎が?
手塚はさっきの銃声がBB弾であることを知る。足元に小さな弾が無数に転がっているからだ。
玩具か。当たり前か。
本物の銃の許可が下りるはずが無い。でも、あいつ、どっからあんな獲物を?
しかし彼が疑問を口にする前に、プーさんが吼えた。
「なにおう、小癪な。女堂上め。やるか」
真っ向、向かっていく。ミリタリーの柴崎に。
手塚はやばい、と瞬時に動く。くまのプーさ○の足にしがみついた。
ばたーん! と地鳴りを打って玄田が倒れる。
「うおっ」
「す、すいません、つい」
「手塚、きっさま~~」
プーさ○が肩越しににらみを利かす。中身が玄田だと分かっているだけに、恐怖だ。でも、柴崎に手を上げさせるわけには行かない。
起き上がろうとした玄田の脚にさらにひしとしがみついて、手塚は言った。
「失礼を承知で申し上げます。隊長、どうかご乱心なさらないでください、冷静に」
「なにをう」
俺のどこが乱心してるってんだ! そう喚くプーさ○は完全に我を失っている。
「座興ですから、お目こぼしを。柴崎だって、お遊びでやってるだけで」
そこまで言ってる矢先に、またばばばばばとBB弾が降り注ぐ。雨あられのごとく。
「うわ」
直接は当たらない。が、至近距離に着弾してはぜるので、目を開けていられない。
「遊びじゃないですよ、本気です」
うふふと目を引き絞る。ヘルメットのつばをぐいと親指で弾き上げた。
美しい面が晒され、男たちが色めき立つのが分かった。
男装も、いい……。
「柴崎、お前っ」
ばか、煽ってどうするよ! 手塚の頭に血が昇る。その間も必死でプーさ○の足にかじりつく。
「許さんぞ、そこへなおれ、成敗してくれる」
玄田は唸って身を起こそうと足掻いた。到底、手塚一人で押さえ込める代物ではない。
「手塚に加勢しろ、柴崎さんを守れ」
「おう!」
特殊部隊班も、業務部も、みな一様にプーさんに飛び掛る。力では到底対抗できるものではないが、数で勝負だとばかり大人数で押さえ込み。
「うわ、なんだお前ら、汚いぞ」
プーさ○も必死の反撃。手足をばたつかせ、抵抗する。
それを手塚以下数名の精鋭たちが捕らえる。手塚は形相を変えて、「柴崎、逃げろ! 逃げて教官を呼んで来い」と怒鳴った。
堂上でも小牧でもいい。誰でもいいから上官を、この惨状を収束できる人間を呼べ。
柴崎はライフルを構えたまま、「誰が逃げるもんですか。こっちには隠し玉があるのよ」と告げる。
「え?」
虚を突かれたのは、手塚だけではなかった。プーさ○、つまり玄田もその言葉できょとんとなる。
「隠し玉?」
ってなんだ? 男たちの塊が一瞬動きを凍てつかせた、そのとき。
「いい加減にしなさい、玄田くん!」
柴崎とは別の、涼やかな声が割り込んだ。
女性の、きりっとした高い声。それを耳にした瞬間、プーさんがぎくりと身をこわばらせる。
ま、まさかこの声は……。
だりだりと、いやな汗が、着ぐるみの中、湧き上がる。玄田がまさかな、まさかあいつがここにいるなんてことはあるまい。空耳だ自分の、と言い聞かせる。
しかしそれは現実のもので。
遠巻きにしてこの修羅場を眺めていた人垣から現れたのは、白雪姫だった。
いや、正しく言うなら、白雪姫の扮装をした女性。仮面をつけているので、顔は見えない。
しかし、その正体に玄田はもう気がついていた。
彼の許まで歩み寄り、白雪姫は言った。冷静な口調で。
「いい年してみっともない。柴崎さんに言われて監視に来てみたら、このていたらく。いったいどうしたこと」
「……お、お前」
プーさ○の声がかすれる。その上に乗りあがった手塚たちがゆっくりと身を引く。もう暴れる気配は無い。
白雪姫はゆっくりと仮面を外した。仮面から現れたのは、紛れもない折口その人だった。
プーさ○は反射で戸口に逃げようとする。膝伝いのままで。
「こら、逃げない。ちゃんと立って、玄田くん」
鋭く制止。すると、しぶしぶプーさ○は言われたとおりにした。のろのろと立ち上がる。巨大着ぐるみの威容を見せ付ける。
しかし一向に怯む様子を見せずに折口は、
「何をやってるの、みっともない。クリスマスイブだってのに」
呆れた口調で諭し始める。玄田は大きな身体を折るようにしてうな垂れ、折口の説教を聞くしかなかった。
「だいたい、何、その格好。どうしたのそれ。借り物?」
「これは、その、特注で……」
ごもごもと返すと、額に手を当て折口はかぶりを振った。
「なんて勿体無い……。いくら注ぎこんだのそんなのに。そのお金があったら、どこかいいホテルでディナーでもできたのに」
よりによって特注だなんて。と嘆く白雪姫。
一応、抗弁しようと思い立ったか、プーさ○、いや玄田が言った。
「お前だってなんだよそれ。年甲斐も無い。白雪姫だなんて」
「これはレンタル。柴崎さんが用意してくれたの」
ね? と目を見交わす折口と柴崎。
「女の子はいつまでだってお姫様でいたいものなんですよ。女心を分かってませんね、隊長どの」
それにとっても似合うし、折口さん、と言い添える。
折口ははにかんだ。少女のようなあどけない笑みを浮かべる。
「ありがとう、すっかりコスプレ堪能させてもらっちゃった。初めてお呼ばれしたけど、楽しいわね。ここのパーティーって」
「こちらこそ、隊長を取り押さえてくださって有難うございました」
実際、折口さんしかいないと思ってたんですよねー、最終兵器はと内心付け加える。
玄田のアキレス腱。大切な人。
この人がいたら、傍若無人な真似はできまい。
「柴崎さんも似合ってるわ、その軍人さん? ファッション」
まさかドレスチェンジしてくるとはね、にくいわと褒める。
「吸血鬼の衣装も似合ってたけど。美人は何を着てもお似合いね」
「有難うございます、でもそのお言葉謹んでお返ししますよ」
「まあ」
女同士和気藹々。
プーさん玄田は手塚と顔を見合わせるしかない。
「ってことで、今年は決まりだな」
「何がです?」
「仮装大賞だよ。狙ってたんだけどなー。併せ業一本で柴崎に決まりだろ今年は」
「あ……ですね」
手塚も納得する。
確かにしてやられた。お前には。
衣装を変えて会場に再登場するのといい、仕込みで折口をパーティーに紛れ込ませておいた計画といい。
降参だよ。
内心、白旗をかざす。と、それを見透かしたように柴崎が笑った。会心の笑み。手塚にしか分からない仕草で首のあたりをちょん、と突く。
自分の噛み痕を暗に指している。手塚は柴崎に噛まれたところをとっさに押さえた。
首筋が熱い。先ほど、柴崎の私室の秘め事も脳裏を過ぎる。
くっそーと悔しく思うも、なぜかすがすがしく。負けたな。今年は完敗だお前に、と諸手挙げ。
柴崎はしてやったりの敬礼を決めた。
「来年はここでないところでディナーをしない? 玄田くん。仮装も悪くないけど、今年でお腹一杯かも」
折口が微笑んだ。
玄田が「むう」と唸ったのがおかしくて、柴崎と手塚は思わず笑みを漏らす。
聖夜のパーティーはそれで自然とお開きとなった。
【11】
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裏でもぱっくり食いついております。
どうしましょう、右往左往、じたばたです
楽しすぎて最終話がこなければいいいのに!というのはナイショです
次で最終回なんですね(>_<)
早く続きが読みたいような、このまま最終回を迎えずに・・・心の葛藤中です(笑)
それにあわせて、折口姫も。
並んでたつと、アラ、お似合いって設定です。笑>たくねこさん 優さん
裏の「空」連載もお楽しみいただけて嬉しいです。