背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

どこへでも5(ジョウ×アルフィン)

2021年05月21日 01時15分42秒 | CJ二次創作
「4]へ

まどろみから覚めると、ソファの上、アルフィンの膝枕で眠っていたことに気がつく。
自分を見下ろす碧い瞳と目が合う。
うーん、とかすかに伸びをしてからジョウは言った。
「・・・・・・俺寝てた?」
上体は何も身につけていない。筋肉をまとった肩があらわだ。
腰から下にはタオルケットがかけられ、足元まで覆われている。
「うん」
優しく微笑んで、アルフィンがジョウの額にそっと指を滑らせる。
髪を一房もてあそぶ。
ジョウは深く息をついた。深海から海面へ上昇して息を継ぐ人のように。
アルフィンは部屋着を身につけており、寝返りを打つとパイル生地の柔らかさが頬に当たる。
それよりも適度に肉付きのよい太ももの柔らかさが心地よい。ジョウは頭を預ける。また睡魔にとろりと絡め取られそうだ。
「いま何時だ?」
眠気を引きずる声でそれだけ訊いた。
「22時をすぎたところ」
「夕飯、結局食いそびれちまったな」
この部屋に着くなり、玄関先でジョウは激しくアルフィンを浚って。
人心地着いたところで、二人でバスルームに向かった。シャワーだけのつもりが、結局そこでも昂ぶって、愛を交わした。
濡れた身体をまともに拭くこともしないまま、その後ベッドルームになだれ込んで。
激流に足下を好きなだけ掬われて、欲情のままに過ごした数時間。
思い出しただけで、アルフィンは赤面してしまう。
アルフィンは自分に預けきったジョウのおでこに触れながら、
「おなか、減ったの」
と訊いた。
「ああ。ぺこぺこだ。アルフィンがあんなに何度も激しく求めてくるから、ーーってえ」
ぺしっとジョウの額からいい音が鳴る。アルフィンがはたいた。
「いてて・・・。何だよ」
「誤解を招く言い方やめてくれる。まるであたしから、せがんだみたいじゃない」
むうっとふくれる。
ジョウはわざとらしくはたかれたところを手で押さえ、言った。
「違うのか」
「違うでしょ、そんな痴女みたいなことしません。あれは、あなたが何度も、」
直截的な言葉を口にするのをすんでのところで飲み込む。
言いよどんだところにジョウが言葉を重ねる。
「何度も、俺がどうしたって?」
「~~~知らない。ジョウのばか」
真っ赤になっていきなり立ち上がった。その反動でジョウはソファのスプリングに沈む。
照れ隠しに自分に背を向けてリビングを出て行くアルフィン。その背中にジョウは
「どこに行くんだ」
と訊いた。ゆっくりと半身を起こす。
「起きて。ご飯作ってあげる。簡単なものでいいよね?」
キッチンに向かうらしい。
ジョウはもう少しソファであれこれしたかったなと言うのが本心だったが、アルフィンがいなくなってしまったので仕方がなく起き上がった。タオルケットを肩に羽織って、裾を引きずるようにして続きの部屋に向かう。
アルフィンは冷蔵庫の扉を開けて中を物色していた。
「何が食べたい? スープとか。リゾットがいいかな」
あ、卵、切らしてた。と小声で漏らす。
ジョウはキッチンの入り口にもたれて、その姿をじっと眺めた。
彼の視線に気づかぬまま、アルフィンのしなやかな手が冷蔵庫から食材を取り出す。
「ごはんあるから炒めちゃおうか。ジョウはそっちのほうがいいわよね」
パプリカの黄色やオレンジが夜のキッチンを鮮やかに彩った。
「・・・・・・なあ」
同じ姿勢のまま、ジョウは呼んだ。
「ん?」
振り向く。そして二人の目が合って、数瞬。
「結婚、しようか」
ジョウが言った。まるでグラスのコップに汲んでいた水があふれるみたいに想いがにじんだ。


アルフィンの動きが止まる。頭が真っ白になる。


ジョウは軽く腕組みしたまま、戸口に寄りかかっている。白いタオルケットがトーガのようで、どこかの民族衣装をまとったかのようだ。
砂漠の国の王様のように悠然と、夜を背負って彼はアルフィンを見つめている。
「・・・・・・」
アルフィンは驚きのあまり声もない。完全にフリーズした。
たっぷり30秒ちかく微動だにしなかった。
「そんなに驚くことか」
さすがに困惑してジョウが言った。
アルフィンはかすかに瞬きをして、自分を縛っていた見えない鎖から逃げる。身体がようやく弛緩した。
「だって・・・・・・。あんまり、突然で」
それきり言葉が続かない。
「突然だけど、突然ってわけでもない。いつも考えてたことを口にしただけだ。今」
ジョウはまだ棒立ちになっているアルフィンに近寄った。開け放したままの冷蔵庫のドアをそっと閉めてやる。
アルフィンは足音を立てずに自分に歩み寄り、目の前に立つ男を見上げた。
それはそれは美しい瞳。いまはうっすら涙の膜が張られているように見える。
「・・・・・・いつも、考えてたの? ジョウ」
結婚のこと。
彼の口から直接聞いても信じられない。
仕事のことばかりだと思っていた。この人の頭にあるのはいつも。
あたしのこととか、プライベートなことは二の次だとばかり。
「君は違うのか」
「はぐらかさないで。ちゃんと、言って」
プロポーズでしょと促した。
ジョウは一瞬ためらったが、腹を決めたように一度口を引き結んでから言った。
「考えてたよ、俺はずっと。君が俺の船に密航してきたあの日から。
全部かなぐり捨ててからだ一つで俺のところに来てくれた日から。ーーこの人は俺の嫁さんになるんだって、いつも思ってた」
だから結婚しよう。夜のキッチンにまた言葉がそっと置かれる。
アルフィンは幸福な想いが足元から立ち上るのを感じた。
あんまり急に幸せな気持ちになると、地面がゆらぐ思いがするのだと今初めて知った。
心臓が鼓動を大きく刻み、ぼうっとなった頭にしきりに酸素と血流を送り込もうとしている。
幸せで目がくらみそうだった。

ジョウはすっと手を伸ばし、アルフィンを抱き寄せる。
タオルケットの中に彼女を囲い込んだ。金髪ごと頭から覆ってやる。
アルフィンは再びジョウの体温を直截頬に感じた。
「・・・・・・まだ返事してない」
くぐもった声が懐から聞こえる。ジョウは、すっぽりとアルフィンを腕の中に囲って、彼女の頭をあごの下に収めた。
それから小さな子をあやすようにその背をぽんぽんとやって、
「言わなくていい」と言った。
「どうして?」
思わず顔を上げそうになったアルフィンに、
「わかったから。君の顔を見たら」
OKだって顔が言ってた。ジョウはそう言った。

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