背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

おまじない

2023年04月23日 08時46分26秒 | CJ二次創作
夜間のエマージェンシーコールに飛び起きてブリッジに向かうと、幸い浮遊物の急接近だった。衝突を回避しほっと一息ついて、メンバー同士顔を合わせる。と、そこで気づいたのは、
「アルフィン、それ」
駆けつけた彼女が身につけていたのは、裏返しのパジャマだった。
薄い水色の。目につく方が裏地だった。上も下も。
「あ、これは」
指摘されてとっさに胸元をかき合わせる。ばつが悪そうな顔。
「うっかりだなあ。アルフィンでも裏返しで服を着るとかあるんだな」
なぜかリッキーが嬉しそうな顔をする。
すると、
「ち、ちがうの。これは間違ったとかじゃなくって」
アルフィンが弁明。
「まあまあ。いいじゃねえですかパジャマなんて、裏でも表でもどっちだって。ベッドに入れば関係ねえです。さ、もう寝みましょうや」
タロスがとりなす。自然、場がばらけそうになる、と。
「おまじないなの」
アルフィンが言った。
「――え?」
思わず、私室に引き取りかけていたジョウもリッキーもタロスも足を止めた。
思わぬ言葉を聞いて、思考が止まった顔をしている。
「おまじない、ってーー」
リッキーがアルフィンに尋ねた。アルフィンはメンバーの視線を集めたことに戸惑ったように一瞬目を泳がせたが、物問たげな顔に促されるように口を開いた。
「うちの、ピザンに昔から伝わるおまじないで、夜身につける物を裏返して着るの。パジャマでもネグリジェでも。そうすると、夢に見たことが逆さになって現実になるっていう、願い事があるときのおまじない。だから」
こんな風に着ているのと自分のパジャマを示した。袖を持って両腕を開くようにして。
「そっかあ、おまじないかあ」
リッキーが笑顔になる。タロスも相好を崩した。
「笑わない? 子どもっぽいことしてるって」
「なんで? いいじゃん。素敵なおまじないだね、夢を現実にするのかあ」
「で、どんな夢なんだ? 叶えたいってのは」
そこまでやりとりを聞いていたジョウが口を挟んだ。
「え」
アルフィンの顔がこわばる。
その後、ぽおっと頬が火を噴いたように赤くなった。
「?」
ジョウはその反応に当惑する。なんだ?
「あー、兄貴がそれを聞く?」
「ジョウ、そりゃあ野暮ってもんですぜ。あきません」
リッキーとタロスがかぶりを振る。それぞれがあらぬ方向に目をやった。アルフィンは赤くなったまま黙っている。
「なんだよ。俺、何か変なこと訊いたか」
「あー、鈍い鈍い。アルフィンがおまじない掛けるのっていったら、1つしかないじゃん。兄貴、鈍すぎ」
俺らもう寝るね、おやすみい、と言い残して手を振りながらリッキーが立ち去る。
タロスも、気の毒そうな目をアルフィンに向けて「あたしも寝ます」と腰を上げた。
「あんま、待たせるもんじゃありませんぜ。花のいのちは短いって言いますから」
ジョウを見ずにジョウにそう言って、彼もブリッジを後にした。
「……なんだ」
単に思ったことを口にしただけだ。それなのに、なんだ、このアウェイ感は。
ジョウは困ってしまってアルフィンを見遣る。
アルフィンは自分の腕で自分を抱くようにして、航宙士席に寄りかかって立っている。
「訊いちゃまずいことか。その、おまじないのことは」
困った挙げ句、ジョウが言った。誰かに話すと、効果が無くなるとかそういうことなのだろうか。
アルフィンは顔を横に振った。
「ううん。っていうか、ジョウじゃなきゃだめなの」
「俺?」
今度こそ本当にジョウは目を丸くする。
アルフィンは神妙な顔つきで彼を見つめた。
「うん」
「俺じゃなきゃだめって。その、君のおまじないを叶えるために?」
「……」
アルフィンは頷く。
――あ。
さすがに鈍いジョウでもそこでようやく気づいた。
リッキーとタロスに言われたことも、腑に落ちる。
俺でなきゃ叶えられないアルフィンの願い。そうか、そのために、ピザンの頃のおまじないを自分に掛けて夜を過ごしていたのか。
パジャマを裏返しにして、夜な夜な。願いを抱えて眠りに就く。
そう思うと、熱い想いがジョウの胸にこみ上げた。いじらしい、と思った。
二人はしばし沈黙に身を置く。
ジョウがそっとアルフィンに手を伸ばした。
肩の辺りに触れると、びくっとアルフィンが身をすくめた。
「ジョウ」
「そのおまじないは、今晩かぎりしなくてもいい」
「え?」
アルフィンが目を見開く。そんな彼女にジョウは笑いかけた。
「君の願いは、叶うから」
そうして、アルフィンを腕の中に抱きしめる。パジャマの柔らかい手触りが、心地よかった。
アルフィンは最初、短く息を呑んだが、すぐに身体から緊張が抜けていった。
ジョウにゆるりと身を預けた。
「――叶った?」
「ああ」
待たせてごめん。ジョウは耳元でそっと囁く。金髪が頬に当たってくすぐったかった。
「待ちくたびれちゃった……」
アルフィンがジョウの胸に頬を寄せて、可愛らしく詰った。
「ごめんな」
「ん……」
ジョウは少し考えて、「今晩は、俺の部屋で寝むか」と言った。
「――うん」
アルフィンがタイムラグをもって、返事する。
ジョウはほっとした様子で、彼女を抱きしめ直した。
「パジャマも脱がなきゃな。――裏返しだもんな」
そう言うと、「もう。いじわる」とアルフィンがふくれた。


END
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3 コメント

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連休も後半ですね (あだち)
2023-05-05 11:50:49
皆様のお住いのところ、あるいはお出かけ先のお天気はいかがでしょうか。

初々しい二人を書くのも、関係がこなれてからの二人を書くのも好きで、そのときの気分によってお付き合い前だったり、あとだったりになったりします。
連休前は「前の」気分でしたのでしょう。pixivさんでは「あと」になっています。いつであってもお似合いの二人で、私の中のカップルの王道です。
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Unknown (toriatama)
2023-04-26 21:02:27
わーい、連休前に新作ありがとうございます。
今回のJ君はニブいくせにいきなり告白から夜のお誘いまで一気に攻めるなんて、なんか手慣れてるというかオトナの余裕を感じる。。。
一体何年姫を待たせたのか。
他のお話にある若くて余裕のないJ君も良き、ですがちょっと違う感じがまた萌えました。
みんな違ってみんな良い、とはこの事か。ちょっと違う?
どうぞ楽しい連休を。
返信する
新作ありがとうございます。 (ゆうきママ)
2023-04-25 22:19:25
甘い砂糖が降って来そう(笑)
恋人時代の話かな?
今日も、平和だ~
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