【2】へ
人と人を分断するウイルスの蔓延。リモート在宅ワークの推奨。不要不急での外出の禁止。
テラで古代発生した黒死病を彷彿とさせる致死型ウイルスのパンデミックは、人々に生活のスタイルの変更を余儀なくさせた。
でも、人が人を思う気持ち、愛する人に触れたい、抱きたいと思う気持ちはいつの世も不変で。
いや、このような時代だからこそよりいっそう人肌が恋しいと、誰かのぬくもりに触れたいという思いに拍車をかけた。
ジョウはたっぷりとアルフィンの肌を味わったあと、身を起こした。
アルフィンがくたりと床に横たわっている。
金髪がほつれて頬にかかり仇っぽい。
「アルフィン・・・・・・、大丈夫か」
ジョウがそっと声をかける。顔をのぞき込んで。
頬にかかった髪を直してやる。優しい仕草で。
「だいじょうぶじゃない・・・・・・ぜんぜん」
かすかに返事が来た。初めてジョウが困った顔を見せる。
「まだ最後までしてないよ」
いとおしそうに指先で金の髪をかいくぐる。
「生殺しなんだもの・・・・・・。ジョウ、意地悪だわ」
夜にこんなに意地悪する人だなんて知らなかった。目元がうっすら充血し、今にも泣き出しそうな顔で口をとがらす。
ジョウは、うと詰まってから、
「半年も会えなかったから、セーブができない。すまん」
姫君の機嫌を取ろうと、屈んでキスを降らす。
キスの合間に、アルフィンが吐息を漏らして言った。身体が弛緩する。
「半年、つらかったの? あたしに触れられなくて」
「うん」
こつん、額と額をくっつけるジョウ。目を閉じる。
「しんどかった・・・・・・。ほんと、心が折れそうだった」
こんなに弱音を素直に吐くのは珍しい。というか、初めてだった。
初めて出会うジョウを前にして、自分の中、何かがあふれそうになった。
アルフィンは彼の後頭部に手をやり、癖の強い黒髪をくしゃっと指に絡め取った。
ジョウは額をアルフィンに押し当てたまま、続けた。
「・・・・・・ロックダウン解除があと二週間遅れていたら、俺、きっとぶち切れてアラミスにやってきて強引に君をさらってた。たぶん」
「ーー冗談でしょ」
「冗談だと思うか」
真剣な声音に、アルフィンは思わず口をつぐむ。
やりかねない。この人なら。
アルフィンは粗暴なほどのむき出しの愛情に感動して、それを悟られたくなくてわざと軽口をきく。
「それも、見たかったな」
「馬鹿言うな。指名手配されちまう。親父に」
ジョウが本気でむっとすると、
「あたしが好き?」
不意打ち。ジョウの肩がぴくっと反応する。
アルフィンは囁いた。
「まだ聞いてないもの、ジョウ。ジョウはあたしのことが好き?」
うっすら汗の浮くジョウの耳裏にアルフィンは声を練り込む。
「言って、ジョウ。あなたに抱かれる前に聞きたいの」
ずるい男だわ。あたしをこんなに丸裸にして。いざとなったら強奪するって言っておきながら。
自分だけは一番あたしがほしい言葉を、まださらけ出さないで隠し持つつもりなの?
ジョウの黒髪を両手でくしゃりと掻き分けた。
あなたの気持ちを聞かせて。
懇願した。
「・・・・・・」
ジョウはゆっくりと身を起こしてアルフィンを見た。
黒い瞳が柔らかい光をたたえている。アルフィンは間近でその黒に絡め取られる。心を侵食される。
そして、
「ーー好きだ」
低い声で彼が囁いた。
「ずっと好きだ、君が。初めて会ったときから。この先もずっと」
君だけだ。ストレートにそう告げた。
安心しきってアルフィンがジョウにゆだねた後は、一息だった。
ジョウはその逞しいからだをアルフィンに沿わせ、抱きつぶした。
至福の数瞬をたぐり寄せる。
二人で。
夢心地のひとときを。
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人と人を分断するウイルスの蔓延。リモート在宅ワークの推奨。不要不急での外出の禁止。
テラで古代発生した黒死病を彷彿とさせる致死型ウイルスのパンデミックは、人々に生活のスタイルの変更を余儀なくさせた。
でも、人が人を思う気持ち、愛する人に触れたい、抱きたいと思う気持ちはいつの世も不変で。
いや、このような時代だからこそよりいっそう人肌が恋しいと、誰かのぬくもりに触れたいという思いに拍車をかけた。
ジョウはたっぷりとアルフィンの肌を味わったあと、身を起こした。
アルフィンがくたりと床に横たわっている。
金髪がほつれて頬にかかり仇っぽい。
「アルフィン・・・・・・、大丈夫か」
ジョウがそっと声をかける。顔をのぞき込んで。
頬にかかった髪を直してやる。優しい仕草で。
「だいじょうぶじゃない・・・・・・ぜんぜん」
かすかに返事が来た。初めてジョウが困った顔を見せる。
「まだ最後までしてないよ」
いとおしそうに指先で金の髪をかいくぐる。
「生殺しなんだもの・・・・・・。ジョウ、意地悪だわ」
夜にこんなに意地悪する人だなんて知らなかった。目元がうっすら充血し、今にも泣き出しそうな顔で口をとがらす。
ジョウは、うと詰まってから、
「半年も会えなかったから、セーブができない。すまん」
姫君の機嫌を取ろうと、屈んでキスを降らす。
キスの合間に、アルフィンが吐息を漏らして言った。身体が弛緩する。
「半年、つらかったの? あたしに触れられなくて」
「うん」
こつん、額と額をくっつけるジョウ。目を閉じる。
「しんどかった・・・・・・。ほんと、心が折れそうだった」
こんなに弱音を素直に吐くのは珍しい。というか、初めてだった。
初めて出会うジョウを前にして、自分の中、何かがあふれそうになった。
アルフィンは彼の後頭部に手をやり、癖の強い黒髪をくしゃっと指に絡め取った。
ジョウは額をアルフィンに押し当てたまま、続けた。
「・・・・・・ロックダウン解除があと二週間遅れていたら、俺、きっとぶち切れてアラミスにやってきて強引に君をさらってた。たぶん」
「ーー冗談でしょ」
「冗談だと思うか」
真剣な声音に、アルフィンは思わず口をつぐむ。
やりかねない。この人なら。
アルフィンは粗暴なほどのむき出しの愛情に感動して、それを悟られたくなくてわざと軽口をきく。
「それも、見たかったな」
「馬鹿言うな。指名手配されちまう。親父に」
ジョウが本気でむっとすると、
「あたしが好き?」
不意打ち。ジョウの肩がぴくっと反応する。
アルフィンは囁いた。
「まだ聞いてないもの、ジョウ。ジョウはあたしのことが好き?」
うっすら汗の浮くジョウの耳裏にアルフィンは声を練り込む。
「言って、ジョウ。あなたに抱かれる前に聞きたいの」
ずるい男だわ。あたしをこんなに丸裸にして。いざとなったら強奪するって言っておきながら。
自分だけは一番あたしがほしい言葉を、まださらけ出さないで隠し持つつもりなの?
ジョウの黒髪を両手でくしゃりと掻き分けた。
あなたの気持ちを聞かせて。
懇願した。
「・・・・・・」
ジョウはゆっくりと身を起こしてアルフィンを見た。
黒い瞳が柔らかい光をたたえている。アルフィンは間近でその黒に絡め取られる。心を侵食される。
そして、
「ーー好きだ」
低い声で彼が囁いた。
「ずっと好きだ、君が。初めて会ったときから。この先もずっと」
君だけだ。ストレートにそう告げた。
安心しきってアルフィンがジョウにゆだねた後は、一息だった。
ジョウはその逞しいからだをアルフィンに沿わせ、抱きつぶした。
至福の数瞬をたぐり寄せる。
二人で。
夢心地のひとときを。
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