背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

冬は、スポ根 【12】

2009年04月09日 18時50分42秒 | 【図書館危機】以降

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堂上は我が目を疑った。
玄田が、――玄田が、自軍の選手を、「投げて」いる。
「うおりゃあああっ!」
高い高いトスを上げさせ、力任せに前衛の選手を持ち上げては放り投げる。
それでもって、投げられた選手が、高みからスパイクをずばんと繰り出すという算段だ。
赤組は完全にブロックを振られてしまっている。辛うじてアタッカーにつけたとしても、玄田が投げた到達点から打ち込まれると、高さではかなうはずもない。子供と大人の身長差があるといっていいほど、ボールにかすりもしないのだ。
しかもリベロ堂上は不在。
怒涛のように白組は点数を稼ぎ出していた。すでに21-15。点差は開いた。
「うわははは! 見たか! 白組の【落下傘大作戦】」
「な、何が、落下傘大作戦ですか! 単にちぎっては投げ、ちぎっては投げの力技じゃないですか!」
進藤が噛み付くも、玄田はどこ吹く風。
「力技、けっこう! ウチの真髄はパワーバレーだからな!」
「その技、きわめて危ないですよ。隊長。適当に若いのを放るだけ放って、着地を失敗でもしたら怪我しますよ」
緒形が冷静に突っ込む。
「なあに、この程度の高さで着地をミスるようでは特殊部隊の名折れだ。怪我を恐れず、みなのもの、わしを雄雄しく飛び越えてスパイクに行け。百獣の王がまさにわが子を谷底に突き落とすがごとくな!」
「隊長その引用何か間違っておりますが」
「小牧、早いとこアレをなんとかしないと、笠原に続いて医務室行きがまた出るぞ」
ネット越し、進藤がこっそり耳打ち。
小牧は複雑な面持ちで、腕で額の汗を拭う。そっと意気軒昂な玄田を窺った。
「むろん、そうしたいのはやまやまなんですが。そのためには、やはり一刻も早く勝負を決めてしまうしかないかと。
このままうちが勝っちゃってもいいですよね?」
にやり。進藤がそれを受けて頬をすがめる。
「そうは問屋が卸すか。お楽しみはこれからよ。足掻くだけ足掻いて、泥臭~い、お前が一番苦手そうな昭和バレーで逆転してやる。見てろ」
小牧は肩をすくめた。どこか嬉しげに。
「やっぱり簡単には勝たせてくれないか」
「――あったりまえだ!」
とおっ!
戦隊もののヒーローよろしく、掛け声勇ましくコートに飛び込んだのは、小柄な一人の男。
赤シャツが目にまぶしい堂上、降臨。
「おおっと、これは負傷退場した笠原選手を搬送するため、戦線を離脱していた堂上監督がふたたび戦線復帰の模様! 赤組ベンチが俄然活気付いております!」
「監督! 待ってましたああああ!」
再び巻き起こる堂上コール。どうじょー! どうじょー!
観客も味方につけて、起死回生を狙う。
「悪かったな、いきなり外して。もう大丈夫だ。守りの方は任せてくれ、おのおの、攻撃に専念してほしい」
堂上が疲労の色合いが濃いメンバーを労う。
自分が抜けた中、よくもちこたえてくれた、という思いで胸がいっぱいになった。
「なに、点差はついたが、お楽しみはこれからよ。しけた顔はやめて、顔を上げていこう」
「教官、笠原は」
手塚が少しだけ緊張した面持ちで尋ねる。堂上は安心させるように笑みを作った。
「捻挫だ。たいしたことはない。この試合にはもう出場はできないけどな」
相手ベンチを目配せする。と、郁が椅子に腰を下ろして自軍の選手に声援を送っているのが見えた。
ほっと安堵する手塚。
「ええと。ただいま手元に届いた情報によりますと、笠原選手は足首の捻挫ということで、大事にはいたらなかった模様です。が、試合の出場続行は不可能とのことです」
「ドクターストップですか」
「はい。残念です。が、たいした怪我がなくて何よりでした」
「そうですね。紅一点、美しいプレイをしていた笠原選手には惜しみない拍手を送りたいものです」
実況と解説の息も、第二セット終盤ということでぴったり合ってきた。
ほんとに、たいしたことなくてよかった。
二人の隣で、柴崎も胸を撫で下ろす。と同時に、後で郁に公衆の面前で憧れの教官にお姫様だっこやおんぶされた感想はどうよ? と訊いてやろう。そんな少し意地悪なことも思いついて、ふふ、と笑みが漏れた。
柴崎の思考を区切るタイミングで実況氷川が弁舌を振るう。
「それではオールスターキャストがそろったところで、改めまして第二セットも終盤、サーブ権は白組から、試合、再開です!」


進藤の言うとおりだった。
玄田率いる白組がパワーバレーを展開してくるや、堂上を中心に拾って繋いで、絶対に白球をコートに落とすまじ、という執念さえ垣間見える、泥臭い昔風のバレーで赤組は対抗した。
特筆すべきは、やはり堂上の回転レシーブ。
ついぞ見なくなった伝説の回転レシーブを目の当たりにした選手や観客は、その華麗なる回りっぷりに思わずため息を漏らした。
「おお!」
そして、試合の高揚感からか、あるいは玄田に投げられ続けてハイになったか、白組の若手がいきなり「玄田監督。土足にて失礼します!」と玄田を踏み台にしてジャンプをしてスパイクを始めたのには度肝を抜かれた。
大の男が、どしんとのしかかって飛び上がる、その足場にされてはさしもの玄田もたまったものではない。よたついた。
「ううっ。な、なにをする」
「監督は、さきほどわしを雄雄しく飛び越えてスパイクに行けと仰いました。具体的に実行に移しているであります」
「う、そ、そうか……しかしだな」
「私も飛び越えてもよろしいでありますか。玄田監督」
「わたくしも、失礼ながら上がらせていただきますっ」
「俺も」
「俺も」
トスが上がるたびに、選手が玄田に群がる。
わあわあと、着ぐるみに幼稚園児が群れるように、ひとかたまりになった。
「わっ。馬鹿かお前ら、一気に押し寄せる奴があるか!」
たまらず玄田が蹴散らす。
統率が乱れた。肝心のボールを見失う。
「ちょっと、みんな、落ち着いて!」
小牧がたしなめて辛うじてアンダーで返した。チャンスボール。
「よし! ここだ!」
堂上がすかさず一本でネット際へレシーブを上げる。
そこへ進藤と緒形が駆け込む。それはまさに、アイコンタクトならぬ、愛コンタクト。
阿吽の呼吸で、同時に踏み切ってジャンプ。
「上司アタックだ!」
会場の誰もが、そう思った。
「ブロック、あのペアにつけ!三枚!」
玄田からの指示を待たずに、白組前衛陣が一枚岩となって飛び上がる。
大きく手を開いて、心持ち前よりに押し出す。
こうすれば、弾かれてブロックアウトということにはならない。スパイクが当たった時点でシャットアウト必至。
「ああ、これは高いブロック!! 緒形進藤ビューティーペア、さすがにこの攻撃はつかまったか?!」
「だれがビューティーペアだ!!」
一番高い打点で、二人がボールを打ち込もうとした。――そのとき。
これも、愛コンタクト。
緒形と進藤は、ボールを掠めることもせずに、そのまま腕だけ振って着地した。
フェイク。
「え!!」
一同、虚を衝かれる。
そこへ、――来た。
手塚が二人の後ろから現れた。唐突に。
完全にブロックのタイミングがずれた。手塚の前の高い壁が割れる。
――おとり!
「時間差だっ!」
玄田の声が悲鳴のように上がったが、時既に遅し。
緒形と進藤の間から、手塚の稲妻のようなスパイクが白組に炸裂した。
「うおおおおおおおっ!」
観客、総立ち。
スタンディングで興奮を表す。
ホイッスルと歓声に会場が湧き立つ。
満面の笑みで、手塚が堂上、緒形、進藤、そしてチームメイトに駆け寄る。
「堂上班☆オールスターーーーズ!」
堂上が吼え、円陣をがっちり組んだ。赤き情熱の男たち。
「いいぞ! 手塚あ!」
「赤組! 赤組!」
割れんばかりの拍手の嵐の中、柴崎はテーブルの下で思わずぐっと右の拳を握り締めた。


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4 コメント

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まとめよみしてます。 (伽藍)
2009-04-12 15:13:13
12-14話をいま読み始めています。
12話の私の絶賛萌えポイントは
「愛コンタクト」です。
ちょwwwwツボすぎます。安達さんは私を
殺す気なのかと思いました(笑)
返信する
ようこそ (あだち)
2009-04-12 16:34:04
またのお運び、誠に有難うございますv
伽藍さん
書いている間、試合の決め技とか決め台詞をひねり出すのが楽しくてしかたなかったです(^^;
でも、ひねり出すって言うよりは、実際勝手に筆が走るって言った方がいいかも。みんなの勢いに押されて書いてた気がしました。
ビューティーペア、ツボに入ったようでよかったです(笑)
返信する
はじめまして (妖歌)
2013-05-30 21:14:43
はじめまして! 
初めて来させていただきました。
ものすごくおもしろいし、それでいてきゅんきゅんする話で、すごくいいサイトだと思います!手柴ラヴです!
返信する
こちらこそはじめまして (あだち)
2013-06-04 04:03:52
>妖歌さま
いらっしゃいませv
実写化効果で、新しいお客様をお迎えしており
とても嬉しい限りです。どうぞ手柴をゆっくり
ご堪能くださいませ。
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