背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

桜並木の先に

2009年10月15日 05時16分00秒 | WEB拍手お礼SS収納庫


二人で休みの日に、具合が悪いと言い出した麻子。

病院までついてきてほしいという。

無論、俺は二つ返事。タクシーで行こうと言うと、やんわりとかぶりを振られた。

「歩きでいい。大丈夫」

「ほんとうに? 無理すんなよ」

俺たちは天気のいいその日の午前に、近所にある官庁街を抜けて行った。

おりしも、街路の脇に植えられた桜並木は5分咲き。晴天に枝を伸ばし、薄紅の蕾をふっくらと開かせているところだった。

ああ、もしかして。

うちの天邪鬼は、具合が悪いと口実を作って、俺とこの桜を見たかったのかもな。

そんな想いが浮かび、隣を見ると「きれいねえ」と麻子が無邪気に笑っている。

「ありがとな」

「え?」

「誘ってくれて。花見」

俺が言うと麻子は少し怪訝そうな顔をした。

「桜が見ごろだったのは、偶然よ。桜とか、考えてなかった。別のことに気を取られてたから」

「そうなのか」

「そうよ、だってね……」

麻子は言いかけて口を噤み、いつもよりゆっくりと、歩を進める。

俺は少しだけがっかりした。なんだ、違うのか……。

やがて、官庁街の奥にある病院の前で足を止めた麻子。物言いたげな瞳で、俺を振り返った。

俺はその病院の看板に書かれてある科を見て目を瞠る。

「え? ここ、か?」

そうよ。少しはにかんだ笑みを口許に浮かべる麻子。

「具合が悪いって、お前、そういうことだったのか? いったい、いつから」

おろおろとする俺を尻目に、麻子は、

「いこ。診察受けてみないと、確信はないのよ」

でもたぶん……。

そう言って病院の玄関のドアマットに足を載せる。自動ドアが軽やかに開く。

「麻子、待てよ」

産婦人科。

桜の花びらが風に流されて一枚中へ入り込む。

それを見ながら俺は、今麻子が身ごもっていたとしたら、赤ん坊はいつの季節の誕生日になるんだろう。

そんな、気の早すぎることを考えていた。

(2009、4、19)


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