また、同じ夢を見ている。
俺はワープボウの中のような、光に満ちた場所にいる。
足は地に着いていない。その空間を浮遊している。
俺は、そこが<ヴァルハラ>だと分かっている。そこにいる、人物のことも。
光の中心、一番近いところへ近づこうと、俺は泳ぐ。海の中にいるわけではないのだが、無重力の中、腕で海水を掻くように動かし、脚をばたつかせ、前へ、前へとーー
逆光の中、人影が見える。ほっそりしたシルエット。あれは、紛れもなくクリス。
美しき魔王。
そして、その隣にいる長い髪の女性、あれは……アルフィン。
俺は彼女の名を呼ぼうとする。が、どうしても声が出ない。
二人は何か会話を交わしている。アルフィンはクリスに何かを話しかけ、クリスが鷹揚にそれに頷く。
内容は聞こえないが、ひどく穏やかな表情をしているのが俺の心をざわつかせる。
ーーアルフィン。
何をやってる、アルフィン。そいつは、そいつはダメだ。
そいつにだけは絶対に気を許してはいけない。逃げろ。
俺は手にしていたレイガンを構える。クリスに照準をつけ、トリガーを引く。
光条がレイガンの銃口からほとばしる。完全にロックオンしたはずなのに、狙いは大きく逸れて弧を描く。
クリスとアルフィンのいるところは、目に見えないバリアーに完全に守られているようだ。いくら撃っても弾かれてしまう。
くそっ。
ののしりの言葉を発して俺は必死にそこに近づこうと足掻く。
でも、何をどうしてもそこには近づけない。距離を詰めようとすればするだけ、彼らは俺とは離れてゆく。
アルフィン!
俺は叫ぶ、何度も彼女の名を。
アルフィン、気づいてくれ。俺は、ここだ。
行くな、そいつとだけは、一緒に行くな!
喉も張り裂けんばかりに、俺は叫ぶ。なのに、一向にアルフィンの耳には届かない。
クリスとともに、眩い光にその姿が包まれていく。輪郭が溶け込む。
行ってしまう。そう気づいた俺は、全身の血が一気に沸騰する。
反対に頭が冷え、心臓は冷える。ぎゅっと悪魔にわしづかみにされたように。
だめだ、行くな。ーー行くな、アルフィン!
そいつと行ってしまったら、もう、君は二度とーー
俺は絶叫する。声にはならない。でも、全身全霊、魂を賭けて叫ぶ。
行かないでくれ、アルフィン。
アルフィン!
「ーージョウ。ジョウ」
はっ。
覚醒した。とっさに、左右に目を走らせる。上体を起こそうとする。でも、思うように身体が動かない。首から上を動かすので精一杯だった。
「……」
はあ、と呼吸が乱れている。心臓が嫌な感じに鼓動を刻む。全身、汗びっしょりだった。
俺は自分が<ミネルバ>のメディカルルームにいることに気づく。医療カプセルに横たわっていた。
ああ、とそこでようやく思い出した。そうだ、俺は<ヴァルハラ>でクリスと対峙した。徒手空拳で戦っていたら、そこへオーティスが現れ、クリスを時空の狭間へ連れ去ったんだった。
アルフィンは取り戻した。ーーだから、いまここにいる。
アルフィンは心配そうに眉を寄せて、俺の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫? ジョウ。随分うなされていたから、心配で起こしちゃったけど……。傷、痛む?」
「いや。大丈夫だ、すまん」
うなされてたか。俺は大きく息をつき、枕に頭を預けた。眠るたび、同じ夢を見る。<ヴァルハラ>から戻ってからというもの。
「汗、拭いてもいい? 着替えるの手伝おうか」
タオルを取って、額や首筋に押し当ててくれる。そっと。
俺は彼女に笑いかけた。
「いや、大丈夫だ」
「悪い夢でも見たの? なんだか、だめだ、行くなってずっと口にしてたわよ」
気遣う目線。
俺はかすかに首を横に振った。行くな、か。もう手放してはいけないという暗示か、今の夢は。
俺はアルフィンの手首を握った。タオルで汗を拭いてくれる手をそっと。
「ジョウ」
「いや、意味なんて無いさ。夢は夢だ」
ただ、ここに君がいることだけが現実。リアルだった。
END
※お題
「また同じ夢を見た」で始まり、「意味なんてないけどね」で終わる物語を書いて欲しいです。
できれば11ツイート(1540字程度)でお願いします。
出展 ⇒https://shindanmaker.com/801664
1600字を超えてしまった。……ショートショートは難しいなあ。
俺はワープボウの中のような、光に満ちた場所にいる。
足は地に着いていない。その空間を浮遊している。
俺は、そこが<ヴァルハラ>だと分かっている。そこにいる、人物のことも。
光の中心、一番近いところへ近づこうと、俺は泳ぐ。海の中にいるわけではないのだが、無重力の中、腕で海水を掻くように動かし、脚をばたつかせ、前へ、前へとーー
逆光の中、人影が見える。ほっそりしたシルエット。あれは、紛れもなくクリス。
美しき魔王。
そして、その隣にいる長い髪の女性、あれは……アルフィン。
俺は彼女の名を呼ぼうとする。が、どうしても声が出ない。
二人は何か会話を交わしている。アルフィンはクリスに何かを話しかけ、クリスが鷹揚にそれに頷く。
内容は聞こえないが、ひどく穏やかな表情をしているのが俺の心をざわつかせる。
ーーアルフィン。
何をやってる、アルフィン。そいつは、そいつはダメだ。
そいつにだけは絶対に気を許してはいけない。逃げろ。
俺は手にしていたレイガンを構える。クリスに照準をつけ、トリガーを引く。
光条がレイガンの銃口からほとばしる。完全にロックオンしたはずなのに、狙いは大きく逸れて弧を描く。
クリスとアルフィンのいるところは、目に見えないバリアーに完全に守られているようだ。いくら撃っても弾かれてしまう。
くそっ。
ののしりの言葉を発して俺は必死にそこに近づこうと足掻く。
でも、何をどうしてもそこには近づけない。距離を詰めようとすればするだけ、彼らは俺とは離れてゆく。
アルフィン!
俺は叫ぶ、何度も彼女の名を。
アルフィン、気づいてくれ。俺は、ここだ。
行くな、そいつとだけは、一緒に行くな!
喉も張り裂けんばかりに、俺は叫ぶ。なのに、一向にアルフィンの耳には届かない。
クリスとともに、眩い光にその姿が包まれていく。輪郭が溶け込む。
行ってしまう。そう気づいた俺は、全身の血が一気に沸騰する。
反対に頭が冷え、心臓は冷える。ぎゅっと悪魔にわしづかみにされたように。
だめだ、行くな。ーー行くな、アルフィン!
そいつと行ってしまったら、もう、君は二度とーー
俺は絶叫する。声にはならない。でも、全身全霊、魂を賭けて叫ぶ。
行かないでくれ、アルフィン。
アルフィン!
「ーージョウ。ジョウ」
はっ。
覚醒した。とっさに、左右に目を走らせる。上体を起こそうとする。でも、思うように身体が動かない。首から上を動かすので精一杯だった。
「……」
はあ、と呼吸が乱れている。心臓が嫌な感じに鼓動を刻む。全身、汗びっしょりだった。
俺は自分が<ミネルバ>のメディカルルームにいることに気づく。医療カプセルに横たわっていた。
ああ、とそこでようやく思い出した。そうだ、俺は<ヴァルハラ>でクリスと対峙した。徒手空拳で戦っていたら、そこへオーティスが現れ、クリスを時空の狭間へ連れ去ったんだった。
アルフィンは取り戻した。ーーだから、いまここにいる。
アルフィンは心配そうに眉を寄せて、俺の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫? ジョウ。随分うなされていたから、心配で起こしちゃったけど……。傷、痛む?」
「いや。大丈夫だ、すまん」
うなされてたか。俺は大きく息をつき、枕に頭を預けた。眠るたび、同じ夢を見る。<ヴァルハラ>から戻ってからというもの。
「汗、拭いてもいい? 着替えるの手伝おうか」
タオルを取って、額や首筋に押し当ててくれる。そっと。
俺は彼女に笑いかけた。
「いや、大丈夫だ」
「悪い夢でも見たの? なんだか、だめだ、行くなってずっと口にしてたわよ」
気遣う目線。
俺はかすかに首を横に振った。行くな、か。もう手放してはいけないという暗示か、今の夢は。
俺はアルフィンの手首を握った。タオルで汗を拭いてくれる手をそっと。
「ジョウ」
「いや、意味なんて無いさ。夢は夢だ」
ただ、ここに君がいることだけが現実。リアルだった。
END
※お題
「また同じ夢を見た」で始まり、「意味なんてないけどね」で終わる物語を書いて欲しいです。
できれば11ツイート(1540字程度)でお願いします。
出展 ⇒https://shindanmaker.com/801664
1600字を超えてしまった。……ショートショートは難しいなあ。
顔は腫れるし、体調は悪いし、悪夢は見るし、
ジョウにとって踏んだり蹴ったりだよね。
ところで、原稿用紙5枚=2,000字の読書感想文を書くのに、四苦八苦してたのに、小説だと納めるのはね。
今日、BOOK・OFFで、ハヤカワ版を3冊買ってきたぜ。てへへ。
話は、長く書くよりも短くまとめる方が何倍も難しいと思います。だから星新一先生は偉大だな~