背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

いっぱいいっぱい

2008年08月17日 08時21分00秒 | 【別冊図書館戦争Ⅱ】以降


映画に行こうと言ったのは手塚だったか柴崎だったか。

休みの日、仕事明け問わず、二人で出かけるのは初めてではない。

サシで飲みにも何度か行っている。

だが、付き合うようになってからは初めてのおでかけだ。

ひとはそれを「デート」と呼ぶ。



デートといえば映画でその後食事が王道だという、固定概念がいつのまにか植えつ

けられていたのかもしれない。寮を出た二人は駅に向かい、最寄のシネコンになん

となく出かけ、上映時間が手頃なチケットを買う。

柴崎が財布を出す暇を手塚は与えない。駅でも映画館でも。

じゃあせめて映画の後の食事は奢らせて? と言ってもいい顔をしない。今日は俺

にもたせてくれないかと言う。

この頑なさは何だろうと思って見上げると、少し気まずそうに、

「……初めてお前とのデートらしいデートだから、今までの割り勘とか会費飲みと

かで出かけてたのとちゃんと線引きしたい。……だめか」

だめかと尋ねる硬いこの感じに弱いのよね。白い光が背後から当てられる銀幕を見

ながら柴崎は思う。

と、不意に、手が握られた。

隣りあわせで座る手塚が触れてきたのだと気がつくと、字幕を追っている目が日本

語を認識できなくなる。

手塚の指や手の感触は、割と知っているほうだと思っていた。武蔵野基地の中で

は。

でもこんなふうに彼女に触れるやり方で触られたのはあまりなく、柴崎は自分が動

揺しているのだと、急に遠くなったようなスクリーンで知る。

隣の手塚を覗いたい。いまどんな顔しているのか。

でも横を見あげる素直さが数センチ足りない。--付き合いだして、まだ間もない

から。

そんな苦しい言い訳を誰にともなくしてみる。

隣を直視できない。でもあたしもしたい。この人があたしに暗がりで体温をそっと

手に移してくれたみたいに。できることを。

柴崎は、自分の手を握る手塚の指に指をそっと絡めた。

長い指の付け根にきゅっと指を食い込ませると、恋人つなぎになった。

目線は銀幕にあてたまま。お互いに。

手塚も自分を見ようとしない。――ううん、見られないのかも。

左右に客がいないことをいいことに、柴崎は指をつないだまま、手塚の肩にその小

さな頭をちょこんともたせかけた。

筋肉質な肩は、いいクッションとなって柴崎を受け止める。

髪に癖ついちゃうけど、いいか。

そう思いながら結局その体勢のまま、2時間洋画を見続けた。




映画が終わり、劇場から出るときも二人は恋人つなぎのままだった。

手塚は深々と息を吐き出して、緊張の度合いを覗わせた。そして、

「ああ、内容全く頭に入ってこなかった」

と言った。

柴崎も、

「ホント。字幕追うのでいっぱいいっぱいいだったわね」

とくすくす笑った。

「……」

手塚は吐き出される人波から少し脇に逸れて立ち止まり、柴崎の髪を空いているほ

うの手で優しく直してやった。

fin.

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1 コメント

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初デートは映画なんじゃないのかなあ ()
2008-08-17 08:23:16
この二人。

頑な王子は超可愛い。

手櫛で柴崎の寝癖? 直してあげるの。手塚の特権です。
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